JRPSトップ > アイヤ会トップ > バックナンバー > 目次

●公開シンポジウムの講演について

阿部直之


 去る、5月11日(日)に第9回定期総会が行なわれました。そして、午後は我々アイヤ会の会員のために聴覚障害に関する「公開シンポジウム」の医療講演が行なわれました。講師は東京大学耳鼻咽喉科の加我教授でした。 以下は、講演内容です。

『難聴の克服のための人工内耳植え込み手術とその成果』

 人工内耳は、感音難聴を治療する新しい画期的な手術です。

 難聴は障害の部位によって4種類に分かれます。

 以上、4種類です。

 人工内耳は、Aの感音難聴の患者さんに対して行なわれる手術です。感音難聴は、音のセンサーである感覚細胞が障害に冒されています。原因は先天性と後天性に分かれます。先天性には、ウイルス疾患や、アッシャー症候群も含まれます。後天性には、髄膜炎や、ストレプトマイシン服用による副作用、突発性難聴、老人性難聴などです。感音難聴には補聴器が効果的ですが、重度の障害の場合は効果が乏しくなります。人工内耳は補聴器の効果がほとんどない高度の難聴の患者さんに対して行なう手術であり、世界で4万人、国内で2400人の患者さんに適用されています。ちなみに、耳の聴こえが80dBくらいあれば補聴器で十分であり、人工内耳の必要はありません。

 人工内耳は、コンピュータの進歩によって発展したものです。感音難聴の人の耳に電気刺激を与えると聞こえるようになるのではないかと初めて考えた人は200年前に電池を発明したイタリアのボルタです。ボルタの夢を実現しようと50年前から研究が始まりました。電子工学とコンピュータの発展により20年前から実用化され、我が国では9年前から健康保険の適用になり、それまでは300〜400万円もかかっていたのが、患者さんに経済的負担をほとんどかけずに手術が出来るようになっています。後天性の難聴の患者さんは、もともと聞いて話すことが出来ていた人が補聴器を使用しても聴こえなくなった場合に手術を行ないます。その成果はほとんどの場合、日常会話が再び自由な感覚が戻ります。先天性難聴の患者さんでは、早期発見・早期補聴による教育が進められていますが、補聴器の効果が乏しく、言葉の発達が不十分な場合に人工内耳手術が行なわれます。手術後のリハビリテーションと教育によって、よく聴こえ、正しい発音で話すことが出来るようになる例が多くなっています。現在は手術の最低年齢が2歳6か月になっています。就学期を迎えると普通小学校を選ぶ例が増えています。しかし、学校の先生や生徒たちの人工内耳に対する理解が不十分なために葛藤が生じることがあります。これについては、現在耳鼻科学会と文部科学省で協力して、全国の小中学校に難聴児がどれくらいいるのか、どんな問題を抱えているのか等を調査し、先生や生徒たちに理解してもらうためのガイドライン、マニュアルを作成しています。本人や家族は、人工内耳によって聞こえるようになったことを喜んでいるが、周りが時代の進歩についていけない、そのことによる人間関係のトラブルが患者さんの苦悩の原因ではないかと考えられているわけです。

以上が、講演のおおまかな内容です。アッシャー症候群の類縁疾患、今後の治療法や原因遺伝子については、特に詳細な説明はありませんでした。我々、アイヤ会会員は大体の方が補聴器で間に合うかと思いますが、人工内耳についての知識を得ることが出来た貴重な講演でした。


[前ページ]-[目次]-[次ページ]