◇学術研究助成受賞者は今(第1回)

第1回 山本 修一(第12回受賞)
千葉大学病院長・眼科学教授 山本修一

2008年度の第12回JRPS研究助成を、「網膜色素変性症におけるウノプロストン点眼による網膜保護効果の臨床研究」で受賞しました。この研究の発端は、ある学会で昼食をご一緒した三宅養三先生(愛知医大理事長)のお話からでした。ウノプロストン点眼によって自覚症状が劇的に改善した患者さんを経験され、この患者さんはインテリジェンスが高くその話には信頼性があり、すべてとは言わないまでも網膜色素変性の中にはウノプロストンが効く症例があるはず、というものでした。

ちょうどその頃、千葉大では新しく開発された眼底微小視野計の臨床応用を積極的に進めているところでした。この視野計は網膜上の同じ点の感度を繰り返し測定できるもので、しかもわずかな変化を捉えることが可能で、ウノプロストンの効果を判定するにはうってつけの器械でした。この昼食から千葉大学眼科でのRP患者さんを対象としたパイロットスタディが始まり、研究助成に繋がりました。

それまでのJRPS研究助成の対象は基礎的研究がほとんどであり、実際の患者さんに対する薬物治療の試みはRP研究の新しい展開と言えるもので、この後の研究助成には臨床研究が続々登場してきます。

さて、千葉大でのパイロットスタディですが、RP患者さん30名を対象に行なわれました。6ヵ月の試験期間中に視力はわずかに下がったものの、眼底微小視野計で測定した網膜中心部の感度には統計学的に有意な上昇が見られ、17名では2 dB以上

の、11名では4 dB以上の改善が見られました。この結果は、改善するとしてもごく限られた人数であり、悪化しないのが大半であろうと予測していた私たちには驚きでした。しかし、少しでも早く結果を出そうと焦って無治療の対照群(プラセボ群)との比較試験にしなかったため、科学的証明としてはパワー不足となり、英語で論文を投稿してもなかなか採用に至りませんでした。臨床研究は研究デザインが重要という基本を改めて思い知らされました。

とはいえ、このパイロットスタディを土台に全国規模の臨床試験に進みました。109名を対象とした第2相試験では、やはり網膜感度の有意な上昇が見られましたが、これで薬事承認を得るには至らず、さらに大規模な199名を対象とする第3相試験が展開されました。全国の患者さんのご協力のお蔭をもちまして、1年間の試験はこの規模の試験にしては珍しくとても順調に終了しました。しかし蓋を開けてみると、臨床試験のメイン・ターゲットである主要評価項目の網膜感度に有意差が見られなかったのは、アールテックウエノのプレスリリースに書かれている通りです。

100名を対象の第2相試験で明らかに示された有効性が、200名を対象とした第3相試験では証明できなかった。何故このような事が起きるのでしょうか?実は千葉大でのパイロットスタディの結果から、ほとんど進行していない初期RPやすっかり進行した末期RPには効果が見られないことが分かっていました。そこで第2相試験では、対象を進行途中の患者さんに限定しました。しかし第3相では実際に臨床の現場で使用されることを考え、かなり進行した患者さんにも参加していただきました。このことが効果を見えなくしたのではないかと推測しています。網膜色素変性の治療薬として承認されれば、進行程度に関係なく広く処方されるのですからやむを得ないことであり、これが臨床試験の難しさと実感しています。しかし効く患者さんがいることも事実ですから、これで挫けることなく、網膜色素変性の治療薬としての承認を得られるよう頑張っていきたいと考えています。

ウノプロストン以外にも、外国では神経保護薬の臨床試験が多数行なわれています。残念ながら日本で臨床試験を行なう話は聞かれませんが、少しでも有望そうな薬剤については試験を誘致できるように皆さんとともに努力して参りましょう。

(次回は、岩手大学 冨田浩史先生の予定です)

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