◇学術研究助成受賞者は今(第2回)

第2回 冨田 浩史(第11回受賞)
岩手大学工学部 応用化学・生命工学科教授 冨田 浩史

2007年度JRPS研究助成を、「チャネルロドプシンを用いた視覚再生研究」で受賞させていただきました。
この研究は、2004年に留学先から帰国し独立した研究室を立ち上げた直後に生まれたものです。当時、「人工網膜チップを用いた視覚再建研究」の課題で、日本での研究をスタートさせましたが、私は従来、視細胞保護の為の薬剤の検討や遺伝子治療について研究してきたため、機械的な手法を用いた視覚再生は初めてのことでした。デバイスを東北大工学部と検討し、脳波の測定を行なっていました。初めてのことばかりで、移植と機能評価に苦戦しました。また、デバイスの作製にも時間がかかります。なかなか結果が思うように出せない中、もっと自分の専門を生かせる方法で視覚を再生できないか、と思い悩んでおりました。
そんな中、2005年、偶然、そして幸運にチャネルロドプシン-2(ChR2)の存在を知り、当時の東北大学眼科教授の玉井先生と、「これは画期的な治療法になるに違いない」と、チャネルロドプシン-2を用いた遺伝子治療研究が始まりました。人工網膜研究で学んだ動物モデルを用いた脳波測定技術と専門分野である遺伝子工学技術の両法の技術がマッチした研究内容となり、開始してから1年足らずで結果を得ることができました。はじめて、ラットで視覚の回復が見られた瞬間の感動は今でも心に残っており、「研究」という職業に就いた喜びを感じた瞬間でもありました。
しかし、画期的と考えたこの遺伝子治療も、当初は、緑藻のタンパク質をヒトの体内(網膜)で作らせることから、「研究は面白いが治療法になるはずがない」というのが大勢の見解でした。2007年、JRPS研究助成をいただいたのをきっかけに、臨床応用へ向け本格的に安全性研究を行なうことにしました。そして、現在までに、ラットやマーモセットで、重篤な副作用が見られないことが確認されています。また、安全性研究を行なうとともに、新しい遺伝子の開発に取り組み、従来の「青色」のみの感受性から、ほぼすべての色に反応する遺伝子の開発に成功しています。しかし、「臨床へ」となると、一介の研究者ができることは限られており、無力さを痛感しています。
2015年でこの研究をはじめて、10年になり、その間、東日本大震災や、2012年の東北大学の任期満了に伴う就職活動、そして、ようやく決まった岩手大学も動物実験を行う環境が無いなど、様々なことがありました。特に、震災後の4年は慌ただしく過ぎ去ってしまいました。研究の成功を期待していただいた皆さまには、大変申し訳なく、この原稿を書くにあたり10年の重みを実感しています。幸い、今年8月、JRPS理事の先生のご尽力により、大手製薬企業との実用化に向けた交渉が始まりました。10年のうっぷんを晴らせるよう実用化に向けて邁進したいと思いますので、引き続き、JRPS会員の皆さま、関係の先生方にはご協力、ご指導のほど、よろしくお願いします。(20150929)

(次回は、理化学研究所・高橋政代先生の予定です)

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