第11回研究推進委員会(Wings)通信

研究推進委員会(Wings)通信(第11回)
■iPS細胞がもたらすRP治療の未来に向けて

理研におられる高橋政代先生のチームが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた加齢黄斑変性症(AMD)の治療に向けて臨床試験を行なったことは、ニュースなどを通じてご存じの方も多いことと思います。今年の3月に、術後1年の経過報告が世界で最も権威のある医学専門雑誌に掲載されました。今回は、その内容を読み解きながら、RPの治療へどのようにつながっていくのかをお話ししたいと思います。
さて、試験の対象となったAMDとはどのような病気なのでしょうか? AMDには、滲出型と萎縮型がありますが、今回は滲出型AMDの患者が対象となりました。この病気では、網膜の一番奥に新生血管と呼ばれる脆い血管が延びてきます。この血管はとても弱いので、すぐに出血したり、液体が漏れ出てきます。これは網膜に大きなダメージを与えるため、急速に視機能が失われ、失明に至ります。
この試験では、新生血管が延びてきた網膜色素上皮細胞(RPE細胞)を手術で取り除き、患者の皮膚細胞から作成したiPS細胞をシート状のRPE細胞に分化させて移植しました。移植した細胞シートは、1年後も機能しており、術前に低下傾向にあった視力もそのまま維持されています。細胞移植で常に懸念される癌化も起きていません。この成功を受けて、現在は自分の細胞から作成したiPS細胞(自家移植)を使うのではなく、既に作成されている他人のiPS細胞(他家移植)を用いた臨床試験が今年3月開始されました。他家移植をすることで、早く、安く、大勢の患者を治療できるようになるので、とても重要なステップになります。
第2弾の試験がうまくいったとして、RP治療はどうなるのでしょうか? RPで影響を受ける視細胞は、RPEの細胞シートよりも複雑な構造ですので、乗り越えなければならない壁はあると思います。しかし、今回の試験で、網膜に細胞を移植することが安全に行なえることが証明されました。また、RP患者の細胞はどこから採取してもRP遺伝子を持っているので、健康な他人の細胞を安全に移植できることも重要になってきます。これに関しては、他家移植の安全性もきっと証明されることでしょう。
一見自分の病気とは関係ない臨床試験のようにも思えますが、じつはかなり密接に関係していることがお分かりいただけるのではないでしょうか。RPの発見から100年以上の間、治療法が見つかりませんでした。しかし、ここに来て明らかな光が見えてきました。今日明日で治療開始、とは行きませんので、残存視力がある方はそれを大切に、視力のない方は近い未来に迫ってきた手術に耐えうる健康体を維持してください。

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