栗原俊英(慶應義塾大学医学部眼科学教室・光生物学研究室)

「網膜色素変性症克服に向けた新規低酸素応答阻害物質の開発」(もうまく基金賞)

現在地球上で生命活動を営んでいる多くの生物は、酸素を使った代謝反応を利用してエネルギーを得ています。酸素がなくなれば、たとえば私たち人間は、数分以内に個体レベルで生命活動が停止して死に至ります。一部の酸素を利用しない微生物(絶対嫌気性生物)を除いて、すべての真核生物は生命を維持するために酸素を必要とします。
そこで、酸素濃度が低下した状態(低酸素)を克服するために、我々生物には「低酸素応答」という生体防御反応が線虫から哺乳類に至るまで備わっています。低酸素応答により、酸素を運ぶインフラを構築するための「造血」や「血管新生」、低酸素状態の脆弱な臓器を守るための「エネルギー代謝」や「細胞増殖・細胞死」「炎症・免疫」などに関わる遺伝子のスイッチが素早く入ります。
また、胎児の時期から体が形作られて生まれてくるまでの間にも低酸素応答は使われています。たとえば、妊娠の中期に差し掛かる頃、網膜では血管が中心から端に向かって伸びはじめますが、まだ血管が来ていない場所から低酸素応答により血管新生の信号を発することによって、網膜血管のネットワークが完成します。
私は10年ほど前から網膜における低酸素応答について研究を続けてまいりました。その結果、網膜の低酸素応答は、胎児の眼が作られていくときも、健康な眼を維持するためにも、いくつかの眼の病気の原因としても重要であることが分かってきました。とくに、異常な低酸素応答が網膜変性を引き起こすことを発見し、低酸素応答をうまく制御することで、網膜色素変性症を治療できる可能性があることが分かりました。そこで、今回決定した助成研究では、低酸素応答を制御するための安全な薬剤の開発および動物モデルを用いた治療効果の確認を行なう予定です。
研究へのご支援にあらためて感謝するとともに、研究成果を臨床応用という形で還元できるよう精一杯頑張ります。今後とも、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

※参考低酸素環境選 択的増殖阻害物質 furospinosulin −1 のア ナ ロ グ 化合物 の 合成 と作用 メ カ ニ ズ ム 解析

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