◇学術助成受賞者は今(第11回)

第11回 小沢 洋子(2010年・第14回受賞)
慶應義塾大学医学部眼科学教室
小沢  洋子

2010年度に第14回JRPS研究助成を、「再生に向けたヒト人工多能性幹細胞を用いた網膜色素変性症の病態解析」の研究のためにいただきました。
当時はiPS細胞というと移植治療に用いるための細胞という考え方が一般的で、iPS細胞を培養上で網膜視細胞に分化誘導して、すなわちiPS細胞から網膜視細胞を作製して、移植する動物実験が行なわれていました。しかし、われわれはiPS細胞を用いて病気のメカニズムを解析しました。そのために網膜色素変性の患者さんの皮膚の細胞をいただいて、まずiPS細胞を作りました。このiPS細胞は、患者さんの遺伝子変異を持った細胞ということになります。そして、そこから網膜視細胞を作製しその細胞を使って視細胞の生存や変性に関連する遺伝子発現などを調べたのです。
さらに、その変化が抑制される、すなわち将来治療に使えるかもしれない薬剤を探索するシステムを立ち上げました。いろいろな候補薬剤を培養に加え、患者さんのiPS細胞由来網膜視細胞の生存が促進される物質があるかを解析しました。この結果は“The
use of induced pluripotent stem cells to reveal pathogenic gene mutations
and explore treatments for retinitis pigmentosa”というタイトルで、『Molecular
Brain』というジャーナルに発表されました。
ただし、この研究は単層培養上のものでしたし、まだまだ調べることがたくさん残されていることも実感しています。一方、最近ではiPS細胞から網膜視細胞を作製する方法が著しく発展し、ヒトの網膜にさらに近い3次元構造を持ったものが作製できるようになってきました。そこで現在では、3次元培養の系を立ち上げ、網膜色素変性の患者さん由来のiPS細胞を用いてさらなる病態解明・創薬につなげる研究を行なっています。ヒトiPS細胞の培養には時間がかかりますが、一歩一歩進めています。
遺伝子診断はまだまだ未熟とはいいながら、それでも最近の発展には目覚ましいものがあります。網膜色素変性の進行を抑える神経保護薬を開発できれば、将来的には、早期診断・早期治療により、まだ軽症のうちに進行を抑え、一生ほとんど変わらずに状態を保てるようになるかもしれません。また、すでに症状が進行してしまった方でも画像を見ると網膜視細胞が残っている人もいます。生きてはいるが、弱っている網膜視細胞を元気づけられれば、少しかもしれませんが視機能が改善するかもしれません。そのようなために、私は今も、網膜色素変性のための神経保護の研究を続けています。
モチベーションを続けるためにも、情報交換をするためにも、治療や研究において医師や研究者と患者さんが同志となって協力していくのが理想的です。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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