研究推進委員会(Wings)通信(第20回)

■Wings研究者インタビュー 第11回
東北大学眼科西口康二先生に聞く ~網膜疾患のゲノム編集治療について~

西口先生は、ゲノム編集と呼ばれる手法を用いて治療することを目指しておられます。この方法を用いると、従来の遺伝子治療では困難であるとされる日本のRP患者に多いEYS遺伝子の変異も治療可能になるそうです。その研究に関する最新情報を伺う機会がありましたので、ご報告いたします。

皆さんは、ゲノム編集という言葉を聞いたことがありますでしょうか? 最近のニュースで、厚生労働省が特定のタイプのゲノム編集を行った食品に関しては流通販売をしてもよく、ゲノム編集食品であることの表示義務も課さないとの決定を下したことが報じられました。「特定のタイプ」と書きましたが、ゲノム編集には大まかに次の3タイプがあります。

1.特定の遺伝子を壊すもの
2.元々ある遺伝子の一部を書き換えるもの
3.種の壁を越えて外来の遺伝子を導入するもの

今回厚労省が許可したのは、1番と2番です。これらは、一般的に行われている品種改良と同等なものであるから、というのが許可の理由でした。3番に関しては、自然界には存在しない生物を作れてしまうので、対象から外されました。
西口先生が目指しておられるのは、2番の手法です。日本人で一番多く見られるEYS遺伝子の変異を正常な状態に書き換えようとしています。これを植物細胞のようにペトリ皿の上で行うのであれば、今の技術で難しくはないでしょう。しかし、先生の研究では、ゲノム編集を私たちの眼の中で行う必要があります。これは、とても大きなチャレンジです。生きた網膜の治療を行うには、ゲノム編集の技術のみならず、遺伝子治療を融合させなければなりません。遺伝子治療のノウハウを用いて、ゲノム編集に必要な遺伝子を特殊なウィルスの中に閉じ込めます。これを網膜に注射すると、ウィルスが視細胞に感染し、中に入っていたゲノム編集用の遺伝子が細胞内に放出されます。
ゲノム編集用遺伝子が働き始めると、元々ある病気遺伝子を切ったり貼ったりして正常な状態に書き換えてくれます。

文字にしてしまうと簡単そうに思えるかもしれませんが、これをヒトで試すには越えなければならないハードルがまだ残っています。困難はありますが、「本当にそんなことが可能なんですか!」と驚いてしまったほどの飛躍的な研究成果のお話も伺うことができました。今日明日に治療開始、とはいかないかもしれませんが、ここで大切なことは、私たち患者が先生を応援し、行政に働きかけるなどして後押しすることだと思います。更なる研究の飛躍を願いつつ、希望を持って待つことにしましょう!

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