★「ページをめくる楽しみ」
眼が不自由だと、なかなか読書も大変で、「ページをめくる楽しみ」は遠いものと思わ
れがちですが、私たちもまだまだ「ページをめくる楽しみ」を手放さずにすみそうです。
ページが変わると「あぁ、ここまで読んだのね」という実感がありますね。
弱視の方ならば、拡大読書器を使って墨字の本を読めます。携帯できる拡大読書器もあ
ります。また、大きい活字の本も出版されているので利用されるのもいいと思います。
またパソコンとスキャナーをお持ちならば、スキャンした内容を読み上げてくれるソフ
トを使うと墨字の本を読むことができます。画像や表、カラー印刷のものなどは、読み上
げさせるのに工夫が必要ですが・・・。
インターネットでは、ホームページを閲覧するとき、リンクのところでエンターキーを
押すと次々、新しいページに入っていけますし、すでに開いたページならば、alt+左
右矢印でページを行ったりきたりすることができます。インターネットエクスプローラな
どはブラウザー(閲覧ソフト)といいますが、もともとのbrowseという言葉は、ざ
っと目を通す、拾い読みをするという意味があるそうです。
プレックストークの場合はページジャンプキーを少し長く押すと、全部で何ページで今
は何ページにいるか読み上げてくれます。また、違うレベルの間を移動したり、同じレベ
ルの項目の間を移動することができます。
ワードなどを使って作成した文章や日記を読み返すときは、ctrl+pgup(ペー
ジアップ)、ctrl+pgdn(ページダウン)で前後のページに移動できます。思っ
たところでページを変えたいときは、改ページしましょう。変えたいところの先頭にカー
ソルを置き、挿入メニューの改ページでOKすると、新しいページの一行目から内容を変
えることができます。
そして、そして、点字で本が読めれば、「ページをめくる楽しみ」は、最高潮に達する
と思います。なぜかというと点字用紙は、厚手の紙でできています。ちょっと読んだだけ
でも、たくさん読んだような気分にさせてくれます。余談ですが、墨字の本でも、紙の重
さは同じで、ふっくらと厚みのある紙に印刷した本のほうがよく売れるというデータがあ
るそうです。点字ピンディスプレイを使って点字の読書をするときは残念ながら、ページ
という考え方が無いようなのですが、飲み物を飲みながら読んでいて、ウッカリこぼして
点字用紙をぬらしてしまうという心配がありません。
ページをめくることで、新しいページには何が書いてあるのだろう?と少しわくわくし
ますし、読んだという実感が味わえますので、この秋、いろいろなもので、ページをめく
って楽しんでみませんか? それでは、よい秋をお過ごしくださいますように。
★明日に向かって希望のステップ ポルカと共に喜びの一歩を
「あー、ポルカだー」その瞬間に、私はうれしさのあまり涙が後から後から流れ出して
しまいました。そして、しばらくの間、とめどもなく流れる涙を抑えることができません
でした。ポルカとのこの瞬間を、6年も待ち続けました。それだけに、流れ落ちる涙の意
味は、格別の思いがありました。
そのときに、私は思いました。今、私の目には、ポルカの顔が見えませんが、この今流
れている涙の向こう側に、確かにポルカの優しい顔が、はっきりと見えるような気がしま
した。これが、私とポルカとの初めての出会いでした。
ポルカは、私のいつまでも流れ落ちる涙を、暖かな舌で「ペロー、ペロー」と、まるで
涙をふいてくれるようになめてくれました。そして、しっぽを上下左右に「ブリ、ブリ」
と振って喜んでくれていたように思いました。ポルカと私が、お互いに気持ちが通じ合う
までは、さほど時間がかかりませんでした。
いよいよポルカと4週間の訓練に入りました。ポルカの背にしっかりと巻かれたハーネ
スを、この手に握り締めて、ポルカとの記念すべき一歩を踏み出しました。「ポルカ、ス
トレートゴー」との私の呼びかけに、ポルカは歩き始めました。その歩くスピードは、白
杖で私が普段歩く速さよりも、数倍も速く歩くのでした。
「すごい、すごい。ポルカ、すごいよ!」私は、感激しました。
「グット、グット。ポルカ、グットだよ!」と、声をかけながら、歩き続けました。
「ポルカ、コーナー。カーブ」と、ポルカは、私の指示通りに動いてくれました。
このことは、訓練中より、現在に至るまで、変わることなく続いています。
平成19年6月中旬に、訓練センターより、自宅へ戻りました。ポルカと歩いていると、
とても安心をさせてくれるのですよ。私を危険から守ってくれるのです。ポルカとの歩行
は、とても楽しく、安心をして歩くことができています。このことは、私自身とてもうれ
しく思うものです。
また先日、このようなことがありました。ポルカと一緒に出かけた先の駅から、タクシ
ーに乗ったときのことです。タクシーの運転手さんが、とても犬好きなのだそうです。私
の連れているポルカを見たときに、「盲導犬には、さわってはいけないのですか?」と、
尋ねられました。その運転手さんの話によりますと、以前に、盲導犬を連れたお客さんを
乗せたときに、「ワンちゃんにさわってもいいですか?」と言って、乗車をしてきた盲導
犬の頭をなでたところ、そのお客さんにしかられたそうなのです。「そのようなことをさ
れては、困ります。盲導犬は、他の人にさわられては困ります。触らないでください」と、
言われたそうなのです。それだけならばともかく、そのお客さんが、タクシー会社へ電話
をかけてきたのだそうです。ですから、ポルカを連れた私に、運転手さんが尋ねてきたの
ではないかと思うのです。
私は、運転手さんに言いました。「どうぞ、ポルカにさわってけっこうですよ。さわっ
ても大丈夫ですから」と言いました。その運転手さんは、ポルカの頭や、耳にふれながら
「可愛いなアー、可愛いなアー」って言いながら、嬉しそうにポルカにさわっていました。
そのとき以外でも、私が職場へ行ったときや、お買い物や、駅のホームなどですれ違う
人達から、ポルカのことを「可愛いネー、可愛いネー」と言って「さわってもいいです
か?」と、声を掛けられることが多いのですよ。そんなときのポルカの表情は「しっぽを
上下左右に、ブリブリ」と振るのですよ。まるで、自分が褒められているのがよく分かっ
ていて、喜びの意思表示をしているみたいにも思えるのですよ。そのしぐさが、本当に可
愛いのですよ。
そのようなとき私は、ポルカがシットやダウンをしているようなときであるならば「ど
うぞ、どうぞ、さわっても結構ですよ」と言ってあげるのですよ。周りの方々が喜んでポ
ルカの頭や耳やしっぽなどにさわっている様子がよくわかります。
また、ちょっとおかしな人や、私に危害を加えそうな人が、近くにいるようなときには、
その人の方を向いて「ウー、ウー」って、声をだすのですよ。そのときのポルカは、私を
助けてくれるみたいで、とてもたくましく感じます。そのようなポルカの表情は、言葉に
言い表せないほど素晴らしく、可愛いものでございます。「ポルカありがとう。ポルカあ
りがとう」私は、ポルカに、何度も何度も声を掛けます。
私は、ポルカと一緒に歩くことにより、自分なりに思うことがあります。それは、多く
のユーザーさんが、おそらくきっと「盲導犬にはさわらないでください」とお断りをして
しまう方が多いと思うのです。しかしながら、それではいけないと思うのです。盲導犬の
ことを、もっともっと、たくさんの方に理解していただくためにも、盲導犬にさわって差
し支えのないときであるならば、さわっていただいてもよいのではないかと思うのです。
もし、「盲導犬にさわってはいけません」などとお断りをするようならば、健常者の方々
との間に壁をこしらえてしまうような気がするのです。少しでも、そのような壁を取り除
き、もっともっと盲導犬への理解を強めていただけるようにしていかなければならないと
思うのです。
そのためにも私はポルカと、どこへ行くにも一緒に歩いていきたいと思っています。ポ
ルカと一緒に歩きはじめて、約1ヶ月半が過ぎました。そのような中で感じることは、フ
ァミレスやレストランなどではいやな顔をせずに、受け入れていただけるのですが、まだ
まだ盲導犬の受け入れを厳しく拒むお店などもございます。
そのことに加えて、家族旅行などをする際に予約をさせていただこうと思って連絡をし
てみますと、ホテルによっては盲導犬を受け入れてくださらない所が非常におおいという
現状をまのあたりにしますと、とても残念に思います。このことに対して、私が思うこと
なのですが、ホテルの部屋内での「ワンツー(排尿、排便)」のことが、一番のネックに
なっているのではないでしょうか? 全国の盲導犬の中では、私たちのように「ワンツー
ベルト」を使用しているユーザーさんが、まだまだすくないのではないでしょうか。この
「ワンツーベルト」のことが広く知られるようになるのであるならば、ホテルへの宿泊に
対してホテル側としても安心をして宿泊を許可していただけるようになると思うし、今以
上に喜んで盲導犬の受け入れをしてくださるのではないでしょうか。どのような場所であ
ろうが、喜んで盲導犬の受け入れをして下さるような社会へと、一日も早くなっていただ
けることを、私は強く願いたいです。
そんなポルカですが、ちょっぴり間抜けなこともあるのですよ。雨降りの日に、バスに
乗ろうとして、ステップがぬれていたために足をすべらせてしまって、ずっこけちゃった
こともあるのですよ。そんな間抜けなポルカもとても可愛いです。
また、ハーネスをはずしたポルカと遊ぶのも、とても楽しいのですよ。喜ぶポルカを見
ていると、私まで幸せな気分になります。
私はポルカに出会えて、本当にうれしくて、うれしくてたまりません。本当によかった
と思っています。ポルカは、私に出会うために生まれてきてくれたのではないだろうかと、
思うくらいです。きっと、ポルカも私に会えてよかったと、思ってくれているのではない
かなって、思うような気がいたします。
ポルカは、これから私の目になってくれるのですから、私はポルカの命になってあげよ
うと思っています。「私がポルカを守ってあげたい」そして、どんなときでもポルカと一
緒に、これからずっと歩いて行きたいと思います。
現在、外出への不安が全く無くなったわけではないのですが、これまで以上に外出が楽
しくて、楽しくてたまりません。
私にこのような喜びと、希望を与えてくれるポルカに、今は心からの感謝の思いです。
ですから私は、明日に向かって、明日に向かってポルカと希望のステップを踏みながら、
一緒に歩いて行きたいと思います。
また、最後になりましたが、私が盲導犬をいただくにあたり、大変にお世話になりまし
た「JRPS」の皆さま方と、「ライオンズクラブ」の皆さま方に対しまして、心からの
感謝を感じております。本当にありがとうございました。
★熊本旅行記(第1回)
全国盲ろう者大会は平成3年から毎年、年に1回行われています。私は平成16年から
毎年参加しています。今回で4回目の参加です。
全国盲ろう者大会の目的は、「全国の盲ろう者や、通訳・介助者などが集い、交流を深
める」ことです。宿泊しながらの交流がもっとも楽しみな大会でもあるといえます。
7月末に腰を痛めてしまい、一週間歩くのがしんどい状態でした。お盆前になってなん
とか普通に歩けるまでに回復したのですが、腰の状態があまり思わしくなかったので、熊
本へ行こうか、行くまいか、出発の2、3日前まで迷っていました。
大会の参加費や宿泊費、飛行機代などの代金はすでに払っていたので、また、腰の具合
も回復に向かっていたので、熊本へ行くことにしました。そして、羽田空港での移動と、
熊本城内での移動は車イスを借りることにしました。
朝6時に起きて、家を7時15分に出発しました。1つ隣の五井駅から、高速バスで東
京湾アクアラインを通って羽田空港へ。
羽田空港の第2旅客ターミナルANAカウンターで車イスを借りました。10時に千葉
県からの参加者(盲ろう者4名、通訳・介助者8名)が合流し、10時45分発の飛行機
で熊本へ。
12時25分過ぎには熊本空港に到着。空港からリムジンバスに乗り継いで会場に着き
ました。
去年までは宿泊先のホテルの中で大会が行われていましたが、今年からは宿泊先と会場
は別々になりました。今年の会場は熊本学園大学です。宿泊先のホテルと会場間の移動は
貸切バスが用意されていました。
1日目は午後から開会式、夕方から歓迎パーティに参加しました。開会式では、主催挨
拶、来賓挨拶のあと、全国各地から参加した盲ろう者を一人ずつ紹介していました。
去年の大阪では、韓国から盲ろう者1名が参加し、盲ろう者205名含む総勢700名
を超える参加者が集いましたが、今年は地理的に遠いせいか、参加者が少なく、盲ろう者
128名、総勢410名の参加人数となりました。今年も韓国から盲ろう者2名、韓国の
通訳・介助者6名が参加していました。
開会式が終わり、貸切バスで歓迎パーティの会場があるホテルへ移動です。歓迎パーテ
ィでは、1つのまーるいテーブルに12人座りました。歓迎の挨拶、乾杯の挨拶の後、い
よいよ食事です。食事は、ごま豆腐や野菜の煮物など和食料理、ほたて貝柱のポワレや豚
ロースのパン粉焼きなどの洋食料理、最後にフルーツの盛り合わせがありました。
歓迎パーティが終わり、今度は貸切バスで宿泊先のホテルへ移動です。宿泊先のホテル
も2つに分散しました。そのため、他県の盲ろう者との交流が少なかったです。本当は一
箇所で、会場、宿泊、イベントなどをまとめて行うのがいちばんいいのですが、一箇所で
まとめて行うと、経費が高くなってしまいます。ですから、分散も仕方がないのかなと思
います。
ホテルの部屋は8畳くらいの和室でした。一緒に泊まるのは、千葉の盲ろう者3名、広
島の男性の通訳・介助者1名です。お風呂は、広島の男性の通訳・介助者にお願いして、
盲ろう者3名を交代で、6階の大浴場まで連れて行ってもらいました。
あわただしかった1日がやっと終わりました。
★アンニョンハセヨ! 私の初めての海外一人旅(第1回)
私のRPは思春期に進行し、25才頃にはほとんど見えなくなりましたが、「見えない
ことは個性の一つ」という思いで毎日を送っています。二人の娘は昨年それぞれ学業を終
えて社会人となり、家を出ました。ちょっぴりの寂しさと空虚感、そして開放感が、私を
小さな冒険旅行へと誘ってくれたのかも知れません。
さて、この旅行の目的は、DPI(障害者インターナショナル)の世界会議へ参加する
ためのものです。DPIとは、身体・精神・知的など、障害の種別を超えて結集した当事
者の国際NGO(非政府組織)で、国連の各組織へも影響力を持っている団体です。
URL http://www.dpi-japan.org/
専門家や家族など、周囲の人々に守られるだけではなく、自分たち自身の意思・決定に
基づいて生きていくことを目指し、社会のあらゆる場面への完全参加、恩恵ではなく権利
の確立を求めています。昨年12月、DPIの宿願といえる「障害者権利条約」が国連総
会で採択されました。今回の国際会議は、それを祝い、条約の理念を実現させるためにみ
んなが学び合い、力をつけるための世界大会なのです。
ツアーは、東京にあるDPIジャパンの事務局が受け付けと大会全般の調整を、Aとい
う大きな旅行会社が宿泊と飛行機の手配を担当していました。私はツアーを申し込む前に
「全盲で一人ですが参加可能ですか」と問い合わせました。
「大丈夫と思いますよ。私たち事務局も参加しますし、現地には日本語のできるボランテ
ィアもいます」と、安心できる返事が返ってきました。
「そうですよね! DPIは障害のある人の当たり前の暮らしを目指している団体ですも
のね。ホテルの中も日本語が通じるようだし、手助けはその場その時で方法を考え、お願
いすれば、何とかなりますよね」と、私はわくわくして来ました。
「でも、行って帰って来ることはできても旅を楽しめるだろうか、お土産なんて買える
のかな」という不安も頭をかすめていました。とにかく自分が基本! わからないことは
何でも聴いて状況を判断し、必要なときは自己主張しながら旅を行こうと、心に決めまし
た。
旅行の期日も近づき、やっと届いたA旅行会社の資料は情報が少なく、不親切な印象を
受けました。電話をかけて担当者と話しましたが不信感は消えず、ややしつこくたずねる
こととなってしまいましたが、消費者として当然と思っていました。
すると彼は突然に言いました。「ホテルで同室のお客様は足がご不自由で、佐々木さん
の介助はできませんから」。いんぎん無礼とはこういうことを言うのでしょうか。私は節
操なく人を当てにするようなことは言っていないつもりです。とても自分がおとしめられ
た気持になり、屈辱感でいっぱいになりました。うるさい客に打撃を与えて静かにさせる、
そんなところかと感じ、憂うつな気分で出発の日を迎えることになってしまいました。
さて当日。自宅からガイドしてくれたヘルパーさんとは千葉駅で別れ、改札口で成田エ
クスプレスに乗るので手伝ってほしい旨、頼みました。やって来た駅員さんに成田空港駅
で下車するので駅に連絡をお願いしたいこと、そして隣接する空港内の北ウイングの旅行
会社のカウンターに行きたいことも伝えました。彼は私のボストンバックをさっと持ち上
げ、「わかりました」と答えてくれました。
さあ、成田空港駅到着。ホームで出迎えた駅員さんは、また軽々とボストンバッグを持
って、私をガイドし、そのまま改札口を抜け、空港に入り、目的のカウンターまで送って
くれたのです。
「ありがとうございます!おかげで一人で海外へも行けます」と、満面の笑みでお礼を
言いました。まずは順調な滑り出しです。