あぁるぴぃJRPSちば会報144号


■ 投稿
★リレーエッセイ(11)
JRPSちば ペンネーム 高安 樹恵(たかやす きえ)
【総武線 各駅停車】
〈3 安岡さん〉
 知り合った当時、安岡さんとは同じ集合住宅に住んでいた。この辺りは埋め立て地で、比較的新しく整備された地域である。メインストリートは中央にけやき並木を配し、両サイドに広い歩道があり、点字ブロックも敷設されていた。店舗は駅の周辺にしかなく、歩くのに障害となる放置自転車や立て看板もない。駅から遠いことを除けば、視覚障害者が住むにはなかなか快適な地域だった。
 安岡さんは同じ棟の1階に住んでいた。ある日、仕事帰りに駅で声をかけられた。
 「あなた、海浜タウンに住んでおられる方ですよね。私は1階に住んでいます。ときどきお見かけするから。」
 還暦はとっくに過ぎているだろうか、ゆったりとした穏やかな口調にどことなく好感をもった。手にはスーパーのレジ袋を提げているようだった。集合住宅の入り口まで手引きしてもらいながら話をした。
 安岡さんの奥さんは、9年前から病院に入院している。筋肉が衰えてしまう難病ということだった。定年を過ぎた安岡さんは、病院へ通うことを毎日の日課としている。昼食に間に合うように家を出て、夕食を食べさせて帰宅する。病院は完全看護だが、長い間入院している奥さんは、ご主人が来てくれるのを楽しみにしているようだ。食事や着替え、洗濯はもちろん、お肌の手入れから身に着けるものまで心を配り、求めに応じで本や雑誌、DVDなどを持っていく。
 「家内に対しては少し引け目がありましてね。9年前に入院するまでは私が自宅で面倒をみていたんです。でも、次第に病状が進行して、私一人ではみきれなくなってきてしまったんです。それで家内を病院に入れたんですが、もう少し家で面倒を見てやればよかったと、今でも悔やんでいます。」
 それから毎日彼の病院通いが始まった。
 「治る病気じゃないし、私も暇ですからこれを仕事と思っています。」
 レジ袋を提げた安岡さんはのんきそうに言う。
 「奥さん、お幸せですね。」言ってしまって私は後悔した。安岡さんの献身に対して、何らかの賞賛の言葉を伝えたかったのだが、「幸せ」というのは、奥さんには残酷な言葉だと思った。私の心配には無頓着に
 「そう思ってくれますか?どうも家内は当たり前のように思っているみたいで・・・。いろいろと文句言われちゃうんですよ。」彼はうれしそうにほほ笑んだ。
 もちろん奥さんはご主人に感謝しているに違いない。夫婦とは面白いもので、お互いに感謝していてもそれを言葉に出すことは少ない。言わなくてもわかるものだと確信している節がある。
 話は変わるが、目が見えないと何もできないと思われがちだが、実際は家事のほとんどは視覚障害でもできる。ただ、作った料理を彩りよく盛り付けるとか、洗濯物の汚れが落ちているかどうかとか、どうしても目に頼らなければならない点はある。
 ところで、「家の主たる家事労働者は俺だ」と夫は言い張る。私としては不本意だが、認めざるを得ない。夫は家事全般を上手にこなす。炊事洗濯はもとより、買い物からゴミ出しまで、夫に頼るところが大きい。世の視覚障害主婦のために付け加えておくが、わが家のこの家事労働の不平等は視覚障害が理由ではない。ただ単に私が怠け者というだけのことだ。家事だけでなく日常生活全般の些末事(さまつごと)にいたるまで、夫はいやな顔一つせずやってくれている。正直、この年代の男性には珍しいことだと思う。私は常々夫に感謝しているのだが、夫はそうは思っていない。感謝されるどころか、文句ばかり言われていると思っているようだ。だから、安岡さんの奥さんの気持ちはなんとなくわかる気がする。
 夫婦は対等な個人の結びつきによる関係で、互いが同等の立場で助け合い、支えあい、長い年月を共に過ごす。ときに、どちらかが弱い立場になることがある。物理的には支える側と支えられる側という関係になるが、精神的には変化しないように思われる。奥さんはわがままを言ったり、ときには憎まれ口をきいたりしながら、元気だったころと変わらない夫婦の関係を保ち続けている。それが奥さんの安岡さんに対する感謝の表れではないか。そしてそんなお二人を私は素敵だと思った。
 奥さんの病状はゆっくりと悪化していった。最後に安岡さんに会ったのは、秋風が吹き始めたころだった。
 「家内がだいぶ悪いんです。でも、これで家内も楽になれると思うと、私も肩の荷がおりるような気がします。」
 すべきことは全てやりつくした、安岡さんの声はどこまでも穏やかだった。このとき以来安岡さんには会っていない。

★お役立ち情報(bR3)
【便利なアイフォンの設定と拡大読書器】
投稿 N・K
 ここ数年、右目がほぼ見えなくなり、左目の視力低下が進み0.2の視力となってからは、スマホを駆使して娘の学校のお便りを見ていました。印字が薄く感じ、上下もよくわからず、写真を撮り拡大して読んでいました。
 アイフォンの設定で、反転だと色が変になるので、ダークモードに設定し、メール、ライン、インスタ、YouTubeの文字を白黒反転で見ています。ホームページは白黒反転にならないので、反転のスマートモードに一時的に設定を追加すると、白黒反転になり、読みやすくなります。知人から、ラインの文字起こしバリグッド君をお友達登録して、写真を送付すると、文字化して返信され、読みやすくなるということを教わり重宝しています。エンビジョンよりも文字化が早いです。ぜひお試しください。
 前から拡大読書器を検討していましたが、急いでいないからと半年以上行けず、さすがに「行きたい!!」と、主人に相談し、日本点字図書館を予約しました。クローバーブックというノートPC型を買うつもりで行きました。気楽に持ち歩けるクローバー3という最小機種と2つ購入予定で行きました。
 まずは最小のものから、タブレットサイズまで見せてもらいました。書類に文字を書くのが難しくなったので、文字を書く体験もさせていただきました。文字を書くとき、タイムラグがあり、文字が伸びてしまうのが気になりましたが、こんなものかなぁと納得しようとしていると、据え置きの読書器も案内してくれました。
 置く場所に困るからなぁと思いつつ、視野が狭いので大きな画面のものはスルーして、小型サイズの22型を見せてもらいました。画面が大きく、文字が白黒反転でよく見え、ガイドラインを画面に引いたり、見たい部分のみをマスクしたり、自分を写してお化粧をしたり、望遠レンズで掲示物を見たりする機能がありました。そして、何より文字を書くタイムラグがなく、スラスラ書けました。書けることがこんなにうれしいとは驚きでした!!
 クローバーブックもタイムラグが少なかったので、慣れればカバーできそうでした。どちらにするかで悩み、2点の見積もりをいただき、持ち歩き用にクローバー3をその場で購入しました。クローバー3があると、娘の学校の連絡帳での鉛筆の手書き文字がよく見え、絵を見ることができるのがうれしかったです。これだけでも、とても便利になりました。
 主人と行けたことで「据え置きがいいんでしょ?」とすぐに気がついてもらえて、どこに置くか考えてくれました。家族で見に行くと、そういったところがスムーズです。置き場所が決まり、助成の手続きをガイドさんと行い、かなりスムーズに据え置き型が到着しました。これまた、とても便利で感動です!自分でできることが増える喜びを感じました。サポートしてくれる道具や訓練を模索して、生活しやすい環境を整えていきたいと思います。

★こころの豆知識
船橋市 垣田
 皆さま、お元気ですか?今年の夏は猛暑日が多く、期間も長かったので、夏バテを引きずり秋バテして、疲れ気味だったり、食欲のない人はいませんか?ということで、今回は目にもよく、食欲のないときでも、するするっと食べれる一品を紹介します。

     <あっという間に冷や汁風>     2人分
(材料)
ペットボトルの水・・・・・・400CC
和風だしの素(もと)・・・・小さじ1
みそ・・・・・・・・・・・・大さじ2
サラダチキン・・・・・・・・一袋
きゅうり・・・・・・・・・・1本
大葉・・・・・・・・・・・・2枚
白すりごま・・・・・・・・・適量
木綿豆腐・・・・・・・・・・1/2丁
ごはん・・・・・・・・・・・茶碗2杯

(作り方)
@ きゅうりは薄い輪切り、大葉は2ミリ巾のせん切り、サラダチキンは手で細かく裂いておく。
A 木綿豆腐はキッチンペーパーなどに包み、水切りしておく。
B すり鉢に、みそ、裂いたサラダチキン3/4程入れてすりつぶす。
C Bの中に、ペットボトルの冷たい水をかき混ぜながら少しずついれて溶かす。
D Cに@の具材、Aの豆腐を手でちぎっていれてかき混ぜる。
E 茶碗にごはんを入れ、Dをかけ白ごまをふる。

 冷や汁は宮崎の郷土料理です。本来は、魚で作り、身をみそと一緒に炒め、焦げた風味を味わったりします。魚の骨抜きなど手間がかかるので、今回はサラダチキンで代用しました。裂いたサラダチキンをすりつぶす際、すり鉢のない人は、スプーンの背ですりつぶしてもかまいません。簡単にできるので、そのまま味噌汁感覚で飲むのもいいですし、麺類にかけても美味しいです。みょうがをトッピングしても美味しかったです。

(効能)
 今回は、みそに注目してみました。みそは、蒸した大豆に麹と塩を加え、発酵熟成させた調味料です。発酵と熟成により、大豆にはなかったビタミン類が含まれ、抗酸化作用が高まるなど、栄養面でも優れています。
 大豆を基本に、どの穀物を混ぜるかにより、4種類に分類されます。加えるものが米なら米みそ、麦なら麦みそ、これらをブレンドしたものは調合みそと分類されます。宮崎の冷や汁は、本来は麦みそを使いますが、家庭にある何のみそでも代用できます。

(まとめ)
 食欲の秋といわれ、美味しい野菜や果物、魚類などがたくさん出回る季節です。旬なものをバランスよく食べ、免疫力を高めましょう。また、質のよい睡眠、適度な運動を心掛け、これから来る冬のウイルスに負けない体を作っておきましょう。
 次回もお楽しみに!

★みんなの広場
 皆さま、こんにちは。このたび、編集委員を務めることになりました小島と申します。日々作成される原稿を確認するため、目視のほか、PCトーカーなどのスクリーンリーダーを使用して耳での確認を行なうなど、その工程と分量に驚いております。新しいことばかりで勉強になります。
 私が網膜色素変性症だと診断を受けたのは、近くのショッピングモールに入っている眼科でした。町医者にしては珍しく眼底検査と網膜電図検査ができるところでした。眼底検査のあと、検査技師さんの態度の変化から通常とは違うものを感じました。急に優しくなったのです。患者からすると不気味な変化です。そして、丁寧すぎるほどの案内を受け、網膜電図検査をした直後、検査結果を見た検査技師さんが小さく発した言葉が「なんだこれ」でした。それは、検査技師さんがあまり目にしない結果を意味していました。思わず口をついて出てしまったのでしょう。はたから見たらコメディです。私は検査技師さんに問いただしたい気持ちを抑えて、診察室からの呼び出しを待ちました。ほかの患者さんがリズミカルに入れ替わっているのに、私が呼ばれる前だけ、たっぷり5分はかかりました。お医者様は瞳孔のなかを診察した後、難病であることと、治療法がないことを告げました。
 私が「将来、全盲になりますか?」と質問すると、お医者様は沈黙で答えました。そのときの私のささやかな感想を言わせてもらえるなら「人によります」と濁してほしかったということです。事実、人によると思います。今となったら笑い話です。
 それから私は、インターネットで協会のことを知り、ミニミニ交流サロンに参加したのが入会のきっかけです。待ち合わせ場所で、白杖を持つ人たちをみたとき、漂流している海から上陸できる場所を見つけた感覚でした。
 診断から入会まで十人十色でも、重なる部分はあると思います。これからお会いしたり、寄稿という形式で、ぜひ皆さまの体験をお聞きしたいと思います。



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