「感謝の気持ちを忘れずに」

T・K(女性 八幡区西区

 今から30年ほど前、友人と街を歩いていると突然何かにぶつかりました。よく見ると胸程の高さがあるポールでした。
その頃、よくつまずいたり、明るい場所から暗い場所に移動すると見えにくくなったりと少し症状は出ていたものの、気にも止めず生活していました。

しかし、ポールが見えなかった事には流石におかしいと感じ、眼科に行きました。診断は「網膜色素変性症」。
聞いたことも無い病名。
そして、医師から説明を聞き愕然。視野がだんだん狭くなり、いずれは失明の可能性もある国指定の難病でした。大変
ショックでした。その後、眼科から家までどのように車を運転して帰ったのか記憶にありません。

それまで、大手デパートの従業員、生命保険の外交員、有名ブランドの服飾サロン経営とそれなりにキャリアウーマンとして家庭と仕事を両立し、自分に自信を持って生きてきた人生でしたが音を立てて崩れていくような気持ちに追い込まれました。

どのように家族に説明をすればよいか一晩悩み、思い切って主人に切り出しました。
主人は、「しょうがないな。もし、失明したら俺が盲導犬の代わりになってやるから、出来る範囲で、やりたいことをやったらいいじゃないか。」と言ってくれました。
そう言ってくれて少し気が楽にはなったものの、これまでやってこれた事が出来なくなることが苦痛でした。お客様の洋服の見立ても出来なくなる為店も閉めました。

車の運転もやめました。それからは、いわゆる専業主婦。自分の収入も無い為、いままで出来ていた贅沢もできず、溜まるはストレスばかり。このまま、人生を終えてしまうのかと情けない思いでいっぱいでした。そんな時、ポルトガルの靴に出会いました。

娘が仕入れや雑務などを手伝ってくれて、再び生きがいを見いだせたのです。靴なら、私が見立てることもなく、お客様が気に入って下さればそれでOK!!更に、この靴がとても履き心地が良く、足袋のような靴底で道路の点字を感じやすく、今の私の状況にピッタリとマッチしたのも運命の様に感じられます。

これなら、たとえ全盲になっても自信を持ってお客様におススメできます。私は、この靴のお陰で大好きな接客ができ、水を得た魚の様に元気を取り戻せたのです。
今現在、とても毎日が楽しくて嬉しいです。これも皆、家族の協力があってのこと、心から感謝しています。

これからも少しでも目の見える日が続くことを祈りつつ、感謝の気持ちと努力を忘れずに頑張っていきます 



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