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医療従事者会員から―馬場先生より―

 医療従事者の立場からみた網膜色素変性症やJRPS群馬支部についてなど、ご所感やご意見を頂けたらと思い、このコーナーを作りました。
今回は、医療従事者会員としていつも群馬支部の活動にご支援・ご協力くださっている群馬県眼科医会理事であり医療法人 瞳光会 馬場医院眼科の馬場敏生先生に投稿をお願いしました。

 厚生労働省主催による視覚障害者用補装具適合判定医師研修会が、梁島健次先生指導のもと、国立身体障害者リハビリテーションセンターにて、毎年暮れの一週間をかけて行われている。私は平成13年に参加した。太田から毎日所沢まで通い、丸一日缶詰となり、網膜色素変性症を主とした視覚障害についての勉強をした。研修会には全国から20名の医師が参加し、群馬からは、私以外に群馬大の池田史子先生が身重でありながらも参加されており、一緒にいろいろな事を学んだ。
 そこでは、視機能が低下した人に対しての光学的補助具や矯正眼鏡の倍率計算、遺伝や福祉関係、各種書類の記載方法などを教えていただいたが、実際に自分がロービジョンを体験して、視覚障害者の苦痛が始めて実感できた。10度の視野狭窄は何とか耐えられる。しかし、それ以上となると、とてもではないが一人歩行は怖くてできない。しかも白内障が合併したときには、まったく何もできないと言っても過言ではない。
 世界大会が千葉県幕張で行われたとき、網膜色素変性症の合併症に緑内障があるとの講演があった。しかし、これは正確な言い方ではない。一般論として緑内障はおこり得るが、網膜色素変性症だから緑内障を発症するということではないはずである。あのような言い方は、網膜色素変性症を患っている方々に無用の恐怖感を与えるだけである。反面、網膜色素変性症に白内障は高頻度で併発する。その特徴は、水晶体の前極または後極の混濁である。つまり、この混濁は見るところの中心にあるため、早期から視力障害を引き起こし、明るいところでは瞳孔が小さくなるため、さらに視力障害が強くなってしまう。網膜色素変性症の夜盲はよく知られているが、このような昼盲も起こってくるのである。
 悲しいことに、網膜色素変性症の治療法は未だない。狭窄した視野が拡がることはない。しかし、白内障は治せる。混濁水晶体、つまり白内障がないだけでも、自覚的にはかなり視力障害は改善されるはずである。かつて学会において、網膜色素変性症を研究していた某大学教授は、網膜色素変性症の患者は経済的には低い地位にあることが多く、白内障手術をして経済的に負担のかかる眼内レンズ(当時は保険適応ではなかった)を入れるべきではない、との差別とも思える暴言を堂々と述べたが、今ではそのようなことを考えている眼科医はまったくおらず、むしろ積極的に白内障手術を行っているのが現状である。
 白内障手術は、網膜色素変性症を患っている方々に対しての僅かなる医療貢献であり、眼科医となって30年。白内障一筋にやってきた私のささやかな喜びでもある。
群馬県眼科医会理事・医療法人 瞳光会 馬場医院 眼科 馬場敏生

※馬場先生、お忙しい中私たちのために原稿をお寄せいただき、ありがとうございました。先生のお話を読ませていただき、さまざまな研究・研修会に参加し、私たち患者の立場を考えて診療してくださっていることに感銘を受けた人も多いと思います。今後も、眼科医の立場から私たちの活動を温かく見守ってくださいますよう、そしてこれからも治療法の確立に向けてご尽力くださいますようお願い申し上げます。(編集部より)

※今後、このコーナーの充実を目指し、医療従事者会員の方に投稿をお願いしていきたいと思います。医療従事者会員の皆様、どうぞよろしくお願いします。



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