あぁるぴぃ広島 Vol.2
■「ロービジョンクリニック」とは■
木村眼科内科病院 木村 亘
e-mail:kimura-eye@bekkoame.ne.jp
URL:http://www.bekkoame.ne.jp/~kimura-eye/
昨年「日本ロービジョン学会」が発足され、全国的にロービジョン者に対するケアへ
の理解が深まり、都市部に続いて各地方の眼科でもロービジョンクリニック、あるい
はロービジョンケアなどの取り組みが注目されています。
当院でも3年前からロービジョン外来を開設し、眼科におけるリハビリテーション、
つまり患者様の日常生活の質(QOL)の低下に対して元のレベルにまで戻すことを目
標に、新たな活動を始めたところです。
従来、視覚障害者といえば視覚の活用ができない人というイメージがありますが、現
実に光もわからない「盲」の人は日本の視覚障害者の内20%弱で、あとの80%あまり
は活用できる残存視覚を有する「ロービジョン者」とされています。ロービジョン者
の定義は世界保健機構(WHO)では両眼視で矯正視力0,05以上0,3未満とされています
が、全くの「盲」と異なり、何らかの残存視覚を有しているが、日常生活の読み書き
などに不自由を感じておられる方は全て、「ロービジョンケア」の対象者といえま
す。
ロービジョン者の抱えている問題は個人個人で異なり、その内容は実に多岐にわたっ
ています。日本における身体障害者福祉法には該当しないような、視力値が良くて
も、視野に異常が著しければ本人は大変な不自由をきたされるし、一概に視力の値だ
けでは判別できません。外界からの情報の90%近くが眼を通して集められるといわ
れており、それによって日常生活がなりたっています。そのため、日常生活のほとん
どすべてが視覚の助けを借りずには行えないともいえます。たとえば身近な問題とし
ては、読み書き・歩行・日常生活行動・就労(就学)などがあります。
当院における「ロービジョン外来」では、補助具の適応を主として行っています。眼
科的な諸検査(視力、視野、コントラスト感度、色覚検査、両眼視機能検査、電気生
理学的検査など)の後、光学的補助具の紹介を行います。通常の眼鏡では読みたいも
のが読めない、思うように書けないと半ばあきらめていた患者様に、残存視力を活用
してまた「読み書き」をしてもらうために、あらゆる補助具を紹介し試用していきま
す。弱視眼鏡、拡大読書器、単眼鏡、拡大鏡(ルーペ)?卓上型、スタンド式、ライ
と付き、掛け眼鏡式、携帯用などがあり、倍率も2倍から20倍まで広範囲にわたっ
ています。その他、非光学的補助具としては、書見台、遮光レンズ、タイポスコー
プ、照明、さらにいろいろな便利グッズ(糸通し器・しょうゆさし・計量カップな
ど)も揃えています。
また、身体障害者手帳や障害年金の等級診断や補装具の意見書、日常生活用具の紹介
等福祉関連の説明や、簡単な歩行指導、日常生活における(食事などの)工夫すべき
点についてお話をしています。
この3年間で約100名の患者様にロービジョンケアをおこないました。内訳は、男
性 45%、女性55%で11才から91才、平均年齢69,5才です。疾患別には黄斑変性症、
緑内障、糖尿病性網膜症がそれぞれ17%、次いで網膜色素変性症と網脈絡膜萎縮が14
%と続きます。また、地区別には呉市内にお住まいの方55%、周辺郡部の方29%、広
島市内の方7%、他県の方9%と続きます。身体障害者手帳の申請は37名、補装具の申
請は 18名、日常生活用具の紹介は拡大読書器を12名、遮光眼鏡や音声時計、白杖な
どを8名の方に行いました。また、拡大鏡(ルーペ)は95種の処方をいたしました。
JRPSも広島支部が設立され、これから広島県でもロービジョン者に対していろいろな
活動が盛んに行われていくことと思われますが、現段階では地域差が著しい分野で、
まだまだ広島のような地方では都市部のように恵まれていないのが現状で問題が山積
みです。たとえば歩行訓練が必要なロービジョン者はかなり多いのに対して、白杖は
支給されても、歩行訓練士の数はほんの数名で全く足りない状況ですし、呉市や周辺
郡部には一人もおられません。また就労を考えても、そのための訓練施設が近郊には
なく、遠出をしても限られた職種でしかありません。補助具を用いてせっかく読み書
きが可能となった方たちにもっと道が開かれるよう、今後の制度や福祉の改訂に期待
するところです。ロービジョン外来も広島県内でも開設しているところはほとんどな
く、未だ保険請求の対象となっていない現況が行いたくても経営的に難しいことと考
えられます。
当院では、可能な限り治癒をめざすことはもちろん、治癒困難な症例の患者さまに対
しては、眼科の分野におけるリハビリテーション、つまり「ロービジョン外来」を通
して、ひとりひとりの生活の質(QOL)を少しでも向上させるために患者さまと一緒
に努力いたします。
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