3.活動報告 

※4月25日 アイフェスタ 2010 in おかやま
     4月25日、岡山国際交流センターにおいて、日本網膜色素変性症協会(略称:JRPS)岡山県支部との共催で、「アイフェスタ 2010 in おかやま」を開催しました。一般の参加者が約250名、この他当会とJRPS岡山県支部のスタッフやお手伝いいただいた他団体の皆さん、ボランティアが約100名、合計350名以上の方にお集まりいただきました。それぞれの催しについては、以下に担当してくださった皆さんからご報告していただきますので、ご一読いただければと思います。
     なお、開催に当たり、ゆうあいネットPCVOL、岡山県盲導犬友の会、関西盲導犬協会、ガイドヘルパー「手のひら」、あいフレンズ児島、朗読ボランティア「ふらここ」、点訳ボランティア「すずらん」、岡山大学学生有志のみなさん、川崎医療福祉大学学生有志のみなさん、ドコモショップ岡山南店、シナノケンシ他、個人的にお手伝いくださった方々など、本当に大勢の皆さんに助けていただきました。この場をお借りして、厚くお礼申しあげます。ありがとうございました。
    (JRPS岡山県支部長 岡山県視覚障害を考える会事務局 奥村 俊通)

    <展示会場での様子>
     今回は,21の企業・団体の出展がありました。拡大読書器や活字を読み上げる装置,パソコン関係,視覚障害に関わる書籍,弱視レンズなどの視覚補助具,ユニバーサルデザインの文具,携帯電話など,視覚障害者の使いやすいものがたくさん展示され,多くの方々が手にとって使い勝手や性能を確かめたり,質問をされたりしていました。今回は保険相談もあり,さっそく利用されている方もおられました。
     (岡山県視覚障害を考える会理事 岡山盲学校 利守 展子)

    <医療講演>
     テーマ:緑内障診療の進歩、限界そして挑戦
      講師:木内 良明 先生
         広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学(旧眼科)教授

     4月とはいえ肌寒い日が続いていましたが、当日は晴天に恵まれ、暖かな春の日となりました。参加者も42人と盛況な中、木内先生は難しい緑内障を優しい語り口でわかりやすく講演してくださいました。
     以下は木内先生が会報報告用にご提供くださった講演原稿です。木内先生、お忙しい中をありがとうございました。

     緑内障は視神経乳頭と視野に特徴的な変化を有する疾患です。眼圧を下げることでその進行速度を遅くすることができます。緑内障患者さんの眼球を外からみても緑内障と診断をつけることはできません。視神経乳頭を含めた眼底の詳細な観察が必要と思われます。基本的に自覚症状はなく、また、40歳以上の人の5%、70歳以上では10%以上の人が緑内障にかかっていることがわかっています。
     視野障害があっても反対眼の視野が見えないところを補ってくれますのでますます患者さんは異常に気付きません。そのためもあって、自覚的に変だと思ったときは末期の状態であることがほとんどです。日本を含めた先進国の中で緑内障が失明原因の上位にあるのはそのためと思われます。(表1)最近は人間ドック、住民検診で緑内障を早期に発見されるかたも多く、また眼底観察の器械、緑内障発見のための特殊なプログラムも発達して、緑内障が早期に発見されることが増えました。
      緑内障は大きく開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障にわかれます。開放隅角緑内障では主に薬物治療を行い、薬物で効果が不十分であれば手術的な治療を行います。閉塞隅角緑内障では開放隅角緑内障と異なって、まず手術的な治療を行います。病型によって治療方針が異なることを良く理解してください。薬物治療は眼圧下降効果が高く、副作用が少ない点眼薬が続々と登場してきます。緑内障の手術治療は進歩が遅いのですが、細かく患者さんの眼圧をコントロールすることでよい成績が得られるようになりました。今後は緑内障で失明する人が少なくなることが期待されます。
      開放隅角緑内障の方は日常生活の中では行動を制限する必要はありません。閉塞隅角緑内障の方も最初に適切な手術や処置を受けておれば開放隅角緑内障の方と同じです。タバコは良くないと思われますが、水分制限や食事制限の必要はなく、適度に運動していただければと思います。

    トピックスとして、以下のお話もありました。「新薬の発売が近いです。しかし、既存の緑内障治療薬を2種類配合するものなので、効果はありますが合併症も副作用も強いです。主治医とよく相談してください。」
    また、眼圧と血圧の関係は?として、「緑内障点眼薬は降圧剤を溶かしているようなものが多いので、高血圧症のかたはしっかり治療されるのがよいでしょう。」

     最後に、フロアーからの質問に対してのお答えを記します。
    Q:緑内障の手術はどんなものがありますか?
    A:線維柱帯切除術や線維柱帯切開術と呼ばれるものが一般的で、房水の流れをよくして眼圧を下げます。また、白内障手術をする場合があります。緑内障なのに白内障の手術をすることに驚かれる方も多いです。ややこしいので詳しく説明します。ご家族にも一緒に聞いていただきます。
    Q:眼圧に対する香辛料の影響はどうでしょうか?
    A:データがないのではっきりとはわかりませんが、おそらく影響はないものと考えます。
    Q:網膜色素変性症の合併症として緑内障があると聞きますが、頻度は如何程なのでしょうか?
    A:あまり頻度は高くないのではないでしょうか。実際はどうなのかはわかりません。機序的に考えると無関係な気がしますが。
    (岡山県視覚障害を考える会理事 岡山大学病院 井元 美智子)

    <講演とディスカッション>
     テーマ:視覚障害リハビリテーション
      講師:菊入 昭 氏
         川崎医療福祉大学医療技術学部 教授
      司会:河田 正興 氏
         川崎医療福祉大学医療福祉学部 准教授
         岡山県視覚障害を考える会 理事

     川崎医療福祉大学で、将来視能訓練士になる学生のために教鞭をふるっておられる菊入先生を講師にお迎えし、13時30分から1時間半のご講演の後、30分程度、会場から質問を受けました。参加者は延べ32名でした。
     以下は菊入先生が会報報告用にご提供くださった講演原稿です。菊入先生、お忙しい中をありがとうございました。

    視覚に障害ある人のリハビリテ−ション
    1.自己紹介
     @出身は新潟です。ですが、古里を離れて32年、所沢に居を構え期間は短いですが神戸、栃木、福岡等で生活をしました。
     A二年前に国立福岡視力障害センタ−を最後に退官しました。そして現在、川崎医療福祉大学にお世話になっております。
     B係わってきました仕事は、身体に障害ある人のリハビリテーション(以下リハ)です。
      専門的にはリハビリテーションソーシャルワーカーという福祉活動や、社会適応訓練をおこなう訓練士ですが、四つの障害に対応した施設でしたが、主に視覚障害を担当しました。振り返りますと全く偶然なことですが視覚障害のリハを医療から社会適応、職業訓練に、更に職業訓練においては、三療及び一般就労の訓練生の福祉活動を担当しました。つまり、視覚に障害のある人達の医療から職業までのリハに係わるという、貴重な体験をさせていただきました。
    2.本日のテーマは視覚に障害ある人のリハですが、主に自立を支援する社会適応訓練を紹介します。
    3.本題に入る前提としてのお話です。それはテ−マには幾つかのキーワードが潜んでいます。まず、その解釈に触れたいと思います。
     それは単に視覚リハを当事者である皆さんに紹介するということだけではなく、障害ある人に国が自立を保障する重要な福祉事業であり、その目的は何かを考えて頂きたいからです。また、自己紹介で申したように、視覚に障害ある人のリハに種々関係してきた体験から知り得たこと、つまり、リハの成果は自立することが人としての自由と対等をもたらし「より良く生きる」を産みだしていることです。出会った仲間は皆、すばらしい人達でした。思いもよらぬ出来事をみごとに、生きるエネルギーに代えた人達ですが、みな一様にリハとの出会いを絶賛しています。
      そしてまた、係わる職員に「真剣に生きる」ことを身をもって教えていました。ですから私には、知り得たことは伝える義務があると思っています。更にリハを利用する人、携わる人、両者の関係はまさに今いわれている共生社会の有り様だと考えてることもあるからです。
     (1)「障害」についてです。
        「障害」の切り口を専門家の間では3階層に分けて考えます。まず、
      1)構造・機能障害です。
        疾病などで身体の組織や働きが受ける問題(障害)を言います。例えば、「網膜色素変性症」という疾患では一般的に、網膜色素上皮の変性、萎縮から、視野障害や視力低下、夜盲等々の問題が出現することを言います。医療領域の問題ということになります。
      2)次に活動制限です。
        人生中途で視覚に障害を受けると、生活活動全般に支障や困難が出現します。このことは、他の障害とは違う大変な事態と考えられます。
        眼の働き、視機能の低下は見え方に問題を転化します。足下が見えず歩けない、読書や書字が困難、食卓のものを手に出来ず粗相してしまう、行き交う知人に声をかけられなくなった等々。
        中途視覚障害の人がどのような事態におかれるかのメジャーとして、視覚の働きについてまとめ触れてみます。
        @環境からの情報を瞬時に大量にキャッチし、脳の中枢に送り込む
        A行動するにおいては、その予測や正当性を見極める等の情報の分析や総合化を行う
        B幼児期より感覚的な情報の大半が、視覚からの情報と関連づけられ学習、見る事に頼る行動様式を確立している
      3)活動が制限されることによって起こること、それが参加制約です。
        就学、就労、レクレーションの参加など種々の活動に支障をもたらします。
        「活動制限」は社会適応訓練領域の課題(障害)になります。生活活動の自立のための訓練、従来の円満な生活に戻るための助言・指導や環境調整等をそれぞれの専門家を介して取り組まれます。又参加制約においても、円滑円満な適応を進めるために社会適応訓練が介入することになります。そしてもちろん、手に職を持つ事に関しては職業訓練領域の係わりが出てきます。
        そのように「障害」をある人の状況として「解釈」するのではなく、「障害」をより良い方向に「変える」ために、3階層の切り口をつながり(連続)を持って捉えるものです。
        ですから、そのような考え方はリハの保健・医療領域と福祉活動、つまり社会適応訓練、職業訓練領域との連携を可能にしたといわれています。
        障害がもたらす問題は単発的なものでなく重層的です。眼の組織・構造や視機能の障害が生活活動に支障をもたらし、そのことによって生活の不安をもたらす「障害」に発展、さらに、例えばその人の経済活動の支障などは家族の生活にも影響して、家族員それぞれのライフスタイルに問題を転化・・・問題は重層性と独立した新たな問題に転化する等と言うリハの専門家もいます。ですから、問題への対応は専門領域が問題を共有することによって一丸となって重層性の問題を適材適所で解決、軽減する必要があると考えます。
        なお、ここで言う「視覚障害」とは身体障害者福祉法で定める視覚障害の程度等級表にもとづく状況をいいます。
     (2)「リハビリテーション」についてです。
        ここでは、障害を持つ人のリハビリテーションということになります。
    重要なことを申します。
        「リハビリテーション」を「リハビリ」などと、ごく一般的な言葉になっています。講義で学生に「リハビリテーション」とは何ですかと質問しますと、「社会復帰」とか「機能回復訓練」などと答えますが、答えられるだけましの雰囲気です。語源はさておき、その言葉が意味することは極めて重要で、むしろ日本語に訳さない方が良いと考えています。「障害者のリハビリテーション」という言葉(名称)というより、キャッチフレーズの方が合っているかもしれません。ですから、その名称が登場した歴史的背景、状況からリハビリテーションの意図する
        ところ、理念とでも言いましょうか、まとめてみます。
        言葉の出現は第一次世界大戦後の欧米です。戦勝国で、戦傷障害者は「大戦の英雄」とされ、職を与え生活の保障がなされました。そのような社会背景のもとに、第一次世界大戦中の米国では戦傷者の治療の方法が発展的に見いだされ、恐らく身体障害の機能回復が社会復帰に有効視されものと考えられます。そしてその後、その治療(機能回復訓練)は大流行したポリオの治療として成果を上げることとなり、一般の障害者にも適用されようになったといわれています。
        戦傷病者の社会復帰への社会的ニード(国家補償という課題)の基に治療は訓練法、つまり作業療法、理学療法などを産みだし発展、重要視されるようになります。そしてその技術(OT・PT)による治療・訓練をする専門家は、更に確実な社会復帰への手だてを追求することになります。その結果彼らは福祉活動の必要性にたどり着き、連携を求めることになりました。医療、福祉事業は互いに共通する「全人間的復権」を理念と見い出し、両者は一つの統一体の事業、「障害者のリハビリテーション」として大転換を図ったとされています。
        「リハビリテーションを考える」で上田敏氏は、医療と福祉事業それぞれが事業展開の収束に見いだしたものは、人間が人間として当然に持っている権利(基本的人権)の回復、つまりリハビリテーションという「全人間的復権」であったとしています。
        更に障害を持つ人が抱える問題を上田敏氏は、問題は重層的な構造を呈し、そして一つの独立した問題に転化、発生するものとまで言い切っています。従って、抱える問題の解決に当たっては複合的、総合的に取り組まねばならないものと言えるでしょう。そして到達目標の根底には権利の回復、人権の確保を据えているのです。
    つまり、障害をもつ人のリハは医療と福祉とが一体になって、障害ある人が社会の構成員として、社会的役割担うための活動を取り戻すことを目的に、訓練・指導・助言をおこなうサ−ビスと考えています。
     (3)自立
        今日的我が国福祉の有り様は、福祉の基礎構造改革として、大戦後から半世紀に渡る福祉の見直しが行われました。個人としての尊厳、差別禁止(明文化)等人間尊重を理念に、利用者の主体性に基づく利用者本位の制度体系に転換されました。
        例えば、社会福祉の法律の総元締め(福祉の柱)に位置づけられる社会福祉法(1994)では、「利用者の立場に立った社会福祉制度の構築(利用者の利益の保護)」があります。
       ※『福祉サービスの「利用者」という概念』が法律に条文化されました(すなわち、それまでの「要援護者等」とか「被援護者等」から「利用者」に変わりました)
        また、障害ある人の個別の法律(身体障害者福祉法、児童福祉法、知的福祉法)の枠組みを超えた横断的に係わる事項をもつ障害者自立支援法(2006)では、障害児者の自己決定の尊重、利用者本位のサ−ビス体系の構築、自立した生活の支援を目的に施策を立てています。その改革のキーワードに「自立」を見逃すことはできません。その自立とは何か?
        「障害者が他の人間の手助けを多く必要とする事実があっても、必ずしも障害者は依存的とならない。人の手助けを借り仕事に出かけられる人間は、家にいる他はない人間より自立している」自分自ら生活の主体者として能動的に生きる人は、他者のヘルプを求めても良いという考え方です。つまり、自らの考えで行為、行動する時、自分のことは全て自分で行い、他者の手助けを受けないことを自立としてきた従来の自立観から発想の大転換がなされたのです。ですから、例えば、生活活動の自立をうたい文句とする社会適応訓練においては、一家の大黒柱で
        家事をしたことのない「ご主人」様であろうと、自立と称して掃除、洗濯、家事管理など家庭での役割などはさておき、盛り沢山な訓練が必要と思われ行われて来ました。
        「自立」とは人として、社会の構成員として、更に、性・年齢・障害の区別・障害のあるなしにこだわらず、共に支え合って暮らす共生社会の一員として生きる人は、他のヘルプを求めても良いという発想になりました。
        その発想の根拠を1970年代に北米から世界的な広がりをみせた障害者運動、自立生活(Independent Living:IL)運動に求めることができます。そこでの有名な言葉がいま述べた綴りです。
        更に特筆すべき解説は、重度障害者に自己決定権の行使を自立ととらえられたことです(人間としての尊厳を保障する意味)。つまり、医療や社会サービスの利用において、利用者として専門家とパートナーシップを持ち、自ら主体的にサービスを選択して、決定して、契約を結び利用すると解釈して自立を意味づけているところです。
    自立、Independence とは、人らしく「自由」に「対等」に生きるものと考えます。加えて申すならば、共に支え合う共生社会において大切なことは、全ての人がそのような「自立」も人生のテ−マとして、実行されることではないでしょうか。

    4.本題にはいります。視覚に障害ある人のリハビリテーションについて
      障害ある人のリハは一般的に医学、心理・社会、教育、職業の領域がシステマティクに有機的連携のもとに訓練・指導などが行なわれるとされています。
      なお、ここで私がお話しする内容は、私がかつて施設で係わったサ−ビスのシステム、役割などにもとづくものです。しかし、正直もうしまして眼科医療領域でのサ−ビスは、私がここでお話しするように一般化されているかどうか、はなはだ疑問をもつ所ですが、その領域での役割は極めて重要と考えていますので、今後ともそのようなサ−ビス(種々のところで発表しています)の普及を強く願いたいです。
     (1)人生途中で視覚に障害をもつことになった人のリハビリテーションは眼科医療、社会適応訓練、職業訓練などの領域を利用されることになります。まず、眼科医療での役割について、
      1)眼科医療領域
        医学評価を行います。眼及び身体全体、内部障害も含めて評価します。そして視覚に障害ある人には光学的補助具適合評価や歩行・行動評価、そして社会評価をおこない視機能の活用が可能かどうか等を総合的に評価されます。その結果、視機能の利用が困難な場合は、眼科医による十分な予後の説明(失明告知を含む)等が行われます。また、心理・社会的側面においては専門スタッフにおいて評価、指導、助言をなされることが必要と思われます。
        業務内容を参考までに紹介しますと、次のような事項が考えられます。
        @ 総合的な身体機能評価
         眼疾患や視機能の状況などの医学評価、あるいは視覚以外の身体機能の障害を有する者の場合はその医学的評価や、歩行・行動の評価を行い、生活訓練への資料として情報を提供する。
        A 基礎的な適応訓練
         受障による情緒不安の問題に対して、ごく身近な生活行動を訓練・指導することよって心理的安定を図ることを目的とする。
    B リハビリテーションへの動機付けと計画への援助
         早期に適切な助言・指導を行ない心理的情緒的安定を図り、障害受容への方向付けあるいはリハへのモチベ−ションを高める必要がある。なお、福祉制度などの社会資源の活用援助により、家計の安定に早期に対応することも重要である。
        C ロ−ビジョン(Low Vision)サ−ビスの実施
         保有視機能の活用が可能な場合は、ロ−ビジョンサ−ビスの対象として視覚的補助具の選定・使用訓練及び保有視機能を利用した歩行・行動訓練を行い、社会復帰が図られる。
      2)次に社会適応訓練領域です。
        一般に生活訓練と称して行われてきました。感覚代行、つまり視覚以外に保有する聞く、触れる、味わう、臭う等の感覚器官の利用が訓練・指導の基本テ−マになります。具体的には人としての行動が、「目で見る」に基づきコントロールされることから、視覚を利用しない行動を安全に、能率的に、そしてスマートに行う方法、つまり行動を変えることになります。 訓練は歩行、コミュニケ−ション、ΑDL(Activities of Daily Living)などをメインとするプログラムで実施されます。訓練は利用者にとっては、より良く生きることがテーマになり、訓
        練プログラムにおいては、利用者個々のライフスタイルより抽出されるニーズ、あるいはQOL向上の観点から訓練項目や内容を利用者主体の話し合いで策定されます。
        訓練に要する時間、期間などは視覚障害の状況や利用者個々の訓練メニュー等で異なります。また、歩行、ΑDLなどの訓練ではマンツ−マンを原則に、実践的実用的な場面、方法で行われます。
    ここで注意していただきたいことがあります。視覚に障害ある人のリハビリテーションでは、眼の利用が困難なケ−スと利用が可能なロ−ビジョンのグル−プを想定します。
    ロ−ビジョンの定義をここでは、視力的に手動弁以上の視力と考えていただければと思います。その意図する所は視覚による読書・書字の可能性を基準に考えるからです。
    では、ロ−ビジョンの人の訓練・指導は「目を利用する」視活動の継続を円滑に円満にするための対応になります。具体的には、見ようとする文字を拡大して、大きくして見やすくするために、拡大鏡や拡大読書器を利用する。戸外の歩行では眩しくて物が見えにくいため遮光眼鏡を利用する、白黒がはっきりしないのでコントラストに配慮した眼鏡を考える等々です。
        あるいは音声式の時計、体重計等の便利用具等を使用して、そして視覚に頼らない動作、行動などの方法を交え安全で、円滑な生活技能を獲得することになります。訓練の要を紹介してみます。では訓練別に具体的に紹介します。

    《 歩行訓練 》
     視覚に障害ある人の歩行には@歩行補助具などを使用しない歩行、A晴眼者の肘を借りる歩行、B白杖を使用した歩行、C盲導犬を利用した歩行、電子機器〔モーワットセンサーなど〕を利用した歩行などがあります。
     リハ施設で行われる歩行訓練は白杖使用の訓練、手による伝い歩きや晴眼者の肘を借りる歩行(ヒューマン・ガイド・テクニック)が一般的です。白杖使用の歩行訓練では、自分のいる場所を知り、周りの環境の目印や手がかりをうまく使って位置などを知るオリエンテーション(Orientation)技能と、白杖の操作による移動技術を組み合わせて、目的地に安全に確実にそしてスムースな歩行ができるよう訓練を行います。
     白杖を使用する目的に@視覚に障害あることを知らせる、A羅針盤の役目(探り針)、B障害物に体を直接当てない、車で言うバンパ−の役目をするなどがあります。また、白杖の操作は二点法が基本になり、白杖は足を踏み入れようとする二歩前の路面を軽くタッチします。それは足を踏み入れようとする前方左右(肩幅となる)の路面の状況が安全であるか否かの確認と、あるいは安全でない場合に安全な位置を探し出すことのためです。
     又、ロ−ビジョンの人の場合は保有する視機能から、歩行でのオリエンテーションが円滑で能率的に行われ、併せて安全が確保されているか等を評価して、訓練の導入などが検討されます。訓練導入の典型例には網膜色素変性症による夜盲に対応した、夜間歩行訓練などがあります。
    《 コミュニケ−ション訓練 》
     点字やパソコン、ハンドライティングなどの訓練・指導があります。
    光学的補助具の使用訓練
     この訓練はロ−ビジョンの人に対して、読書・書字を主にしたコミュニケーション訓練をいいます。ロ−ビジョン訓練はリハビリテーション施設においても、弱視訓練として実施されてきていますが、一般的に施設には眼科医、視能訓練士の職員配置はなく、眼科検査や矯正眼鏡、光学的補助具などの処方は他の医療機関に委ねられています。従って、ここでの訓練は医療機関で処方された眼鏡や光学的補助具を機関より提供される医療情報などを基に行われます。
    《 パソコン訓練 》
     一時期は点字に継ぐコミュニケーション手段として「カナタイプライター」の利用が脚光を浴びていましたが、モニター上の文字を音声化(スクリーンリーダー)するあるいは拡大されるようになり晴眼者と同様にパソコンの利用が可能となり一般的となりました。視覚に障害ある人の利用を進めた機能とは、次のようなことがあります。
    ★ 音声に関すること
    ★ 日本語入力機能に関すること
     ・漢字変換システム(ATOK、IMEなど)の音声化。
     ・点字入力システム
    ★ 画面表示に関すること
     ・画面の拡大率、文字色・背景色・カ−ソル文字色などが選択できる。
    ★ アプリケーションに関すること
     ・ワープロソフト、表・計算ソフト等の利用が可能。
     ・インターネットを利用して、ホ−ムページの閲覧、メールの交換が可能。
     ・普通文字(墨字)から点字へ、あるいはその逆の自動変換が可能。
    ★ その他
     ・パソコン利用の関連機器には点字プリンタ、自動文書朗読システム、デジタル録音図書システム等があります。
    《 ハンドライティング 》
     一般的に点字に対して普通の文字を「墨字」と呼んでいますが、厚手の紙やプラスチックの板を切り抜いて作った下敷(ケ−プレ−ト)で、墨字を書く練習をします。訓練は中途視覚障害の人が、点字の知らない人へのコミュニケ−ション手段、あるいは"サイン"をする等を目的に行われてきましたが、近年では文字を書くことを諦めていたロ−ビジョンの人が、手軽に利用して書字ができる便利用具として利用されています。なお、封書・はがき宛名書きセットが市販されています。
    《 その他 》
     実際のプログラムでは上記の訓練・指導の他に、感覚訓練(視覚以外に保有する諸感覚の利用訓練)や福祉制度などの活用講座、スポーツなどのレクレ−ション等々を個別又は集団対応のプログラムにおいて用意されています。又訓練・指導の他に訓練生の社会適応に関する助言・指導等も生活支援員がマンツーマンで、リハビリテーション ・ソーシャルワークとして行っています。その業務概要は、社会評価に基づく訓練生の問題解決と訓練生活での支援、あるいはリハビリテーションが円滑に進められるためのスタッフ間、及び訓練生との連絡・調整などです。
     そしてリハビリテーションの終了に当たっては、各専門職が訓練生の自立生活を支援するため、関係者や関係機関に働きかけ条件整備を行ったり、あるいは訓練修了後には訓練の実用状況をチェック・指導するフォローアップ等も行われています。
    〈参考〉→条件整備: 物理的環境整備や改善、円満な人間関係の構築を目的とする人的環境調整など。
      3)職業訓練領域
        視覚障害者の職業教育・訓練には、@学校教育法に基づき運営されている、文部省所管の特別支援学校(盲学校)及び筑波技術大学、そしてA障害者自立支援法に基づき都道府県の指定により運営される、指定障害者支援施設、B職業訓練法に基づく障害者職業訓練校、及び「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく広域・地域障害者職業センタ−などがある。
        そこでの教育・訓練では、三療、理療科教員養成、理学療法、情報処理(プログラマー)、機械(旋盤作業、ボール盤作業)、ワープロ、録音速記(ワープロ等を使用)、オーディオタイプ(電話等を聞きながらタイプして文章を作成)、トランスクライバー(病院等でのレントゲン・CTスキャナー・超音波診断における医師の読影をテ-プに録音し、それをワープロ等を使用して報告書を作成する)等の訓練がおこなわれている。

    ※「ロービジョンサービス」について、意味付けをしておきます。
     ロービジョンサービスとは、ロービジョンの人が視機能の低下を軽減して、社会の構成員として円満で自立した生活活動のもとで社会参加されることを目的に、眼科医療と社会適応訓練あるいは職業訓練などのリハビリテーション専門領域が一体になって有機的連携をもち、専門分化した訓練、指導、助言などにより支援することをいいます。

    5.最後に、本日のお話のテーマの一つに、視覚に障害ある人のリハビリテーション最前線で三十数年間、係わって来た者として、又思いもよらぬ出来事をみごとに、生きるエネルギーに代えた人達が、一様にして「よかった」とする人生を教えられた者として、視覚に障害ある人達に是非リハビリテーションについて伝えしたかったことであります。
      今日、進められている福祉社会が求める「共に支え合う共生社会」、大切なことは「自立、人らしく自由に対等に生きる」ことを申しまして、私のお話を終わります。

    <質疑応答など>
    Q1:一般就労の相談窓口が各県内に2,3カ所あるということでしたが、岡山県での場所がわかれば教えてください。
    A:倉敷は、健康福祉プラザにあり、岡山、津山にもあると思いますが、詳しいことはわかりません。どの県にも3ヵ所程度は設置されているので、岡山市にもあると思います。
    補足1:視覚障害があり、音声ガイドのソフトを使用しています。そのソフトは、とても便利です。高齢化社会になり、高齢の方にも使いやすいソフトだと思いますが、とても値段が高く、皆が購入できません。値段が安くなり、高齢者の方も購入でき、使用できるようになればと思います。
    A:年齢や障害の有無にかかわらず、大勢が使えるソフトになればと私も思います。
    Q3:国立神戸視力障害センターを紹介する時に、ここがよいという特徴があれば、教えてください。
    A:特に変わったことはないですが、同じ障害を持った人たちが集まって、いろんな話ができる、そのことで障害の受け入れが進む、という良さが大きいですねえ。良い所なので紹介していただければと思います。
    補足2:国立神戸視力障害センターを卒業したものですが、3年間寮生活をして、楽しかったですし、有意義で、行って良かったと思いました。
    (岡山県視覚障害を考える会理事 矢吹 明子)