ありがとうございます。古川貴久です。本日はこの会に呼んでいただきまして、大変ありがとうございました。私、以前、倉敷の方には遊びに行ってですね、大変美しい町ということで、大変エンジョイさせてもらったんですけど、実は岡山市の方は初めてでして、そういった意味でも、大変、私にとっても、いい体験で、ありがとうございます。 本日はですね、私が研究しております、我々の目ですね、それがどういったようにできるのか、特に視細胞がどういうふうにできあがってくるのかという話をですね、網膜色素変症の原因や治療との話、少しですけど、からめて話していければというふうに思っております。 私、大阪バイオサイエンス研究所ということで、今、紹介いただいたんですけれども、小さな研究所で現在研究しております。おそらくほとんどの皆さんは私の研究所の多分名前も聞かれたことないと思うんですけど、簡単に紹介させていただきますと、1987年ですね、17年程前に、大阪の北のほうの千里に、万博公園の近くにあります、今の大阪大学の近くでもあるんですけど、創立されました。で、小さい研究所なんですけども、所長の花房先生と名誉所長の林先生は、お二人とも文化勲章を受けられている、まあ大変偉い先生だということで、小さい研究所でも、文化勲章の先生が二人もおられるということで、小さいけれどもピリリと辛い研究所だというふうに思っております。 で、私どもの研究所は基本的に基礎的な生命科学の研究を行なっておりまして、現在も私の部門は目の発生の研究を行なっておりますし、そのほか、がんの研究をしている部門、睡眠の研究をしているところ、あるいは、精神病の研究をしているところの一体の5部門の研究部門がありまして、日夜、熱心に研究しているという所です。 さて、私、現在、目の研究をしているんですけれども、もともとは目の研究をするとは実は夢にも思っていなかったんですけれども、私、大阪の堺というところで育ちまして、ある意味、地元であります、大阪大学の医学部のほうに進学して、で、最初は医学部ですので、お医者さんになろうと思っていたんですけれども、だんだんと研究が、学生時代から研究室に出入りしてたりしまして、研究がおもしろそうだということでですね、卒業の時には、研究を志すということで、卒業と同時に、京都大学の医学部の大学院の方に進学しまして、そちらのほうで研究生活を開始するということになりました。ちなみに、大阪大学の卒業の時に第一希望、進学希望調査みたいなのがありまして、第一希望は大学院と書いていたんですけど、第二希望は、今から振り返ってみれば、眼科というふうに書いてたということで、やはりそのころから、ひょっとしたら、無意識に目に非常に興味があったのかもしれません。 京大の大学院の方に進学しまして、脳の発生に興味があるということで、神経系の発生に係わるような分子の研究を行なっておりました。1995年頃に、アメリカの方に留学したんですけれども、留学する時に、じゃあ一体自分は何の研究をしようかということを思いまして、すると中枢神経系のことに興味があったんですけれども、どうもその中でも、網膜がおもしろそうだということで、またちょっとどちらかというと日本ではやや網膜というのはやや少数派でありまして、あまり研究人口も多くないということで、少し人と違うことをやるのもおもしろかろうというのもありましたし、それで、アメリカのほうで、網膜をやっている研究室に留学しまして、そこでいろいろ網膜の研究の手ほどきを受けたというのが網膜との出会いです。 ちなみにですね、実は、私事なんですが、家内は眼科の医者をやっておりまして、今、兵庫県の伊丹市の市立病院というところで眼科の医師をやっているんですけど、よくアメリカでは、お前は嫁さんが眼科医だから、目の研究を始めたんか?とよく言われたんですけれども、実は偶然なんだと言うと非常に向うでは、がっかりされて、やっぱり向うではどうも奥さんのためにそういうことをやったというと非常に受けがよかったようなんですけど、正直に答えてしまってがっかりされてしまったというようなこともあったんですけれども、そういったことで、ボストンの方で網膜の研究の手ほどきを受けまして、そのあと、99年頃に、テキサス大学のほうで、来ないかという話がありまして、自分の研究室を持つことになりまして、その後、大阪の方の研究所から、人を探してて、来ないかということがあって、ちょうど家内も大阪の方の医局へ帰れるということもありまして、大阪の方に帰って、現在までずっと目の研究を行なっているという状態です。 今日は、最初、まずですね、現在21世紀になりましたけれども、この我々の歴史、人類の歴史の中で、一体目が、目ということに絞りますと、どういうふうに目の研究がなされてきたのかということを簡単にまず、振り返りたいと思います。 もちろん、おそらく太古の昔からですね、目を閉じれば、外は見えないということから、目というのは、見えるということに大事だということはもちろんみんな気付いていたわけなんですけど、一番最初にそういったことを体系的に言った人はギリシャの哲学者のプラトンさんであろうというふうに考えられます。紀元前4、5世紀の哲学者の、皆さんご存知のプラトンさんですけれども、プラトンさんはどうも、目は大事だということが分かっていたのですけれども、どうも彼は、目から光が出るんだと、目から一種のビームみたいなものが出てですね、外からも光がやってきて、光同士で結合した時に初めて物が見えるんだというふうに考えました。もちろん今から考えれば、それは間違いなんですけれども、自分が意識を集中しないかぎりは見えないと、いわゆる見れども見えずという状態ですね、そういったことをいうことから、考えられたのかもしれませんけれども、いずれにしろですね、目が視覚というものの成立に非常に大事だということを最初にきっちり、おそらく言った人だろうと思います。 それからですね、目の研究というのは、あまり、近代科学というのがもちろんなかったのですから、進歩がなかったわけですけれども、ようやく17世紀ぐらいになりまして、やはりこれも有名な哲学者デカルトさんなんですけれども、昔は哲学者が科学者も兼ねてたというふうに考えられるんですけど、デカルトさんはですね、この見えるということには、どうも魂が働かなきゃいけないと、で、その魂が働かなきゃ見えないんだということを言ってですね、その魂というのは我々の体の中の松果体(しょうかたい)にあるということを言いました。もちろんそれ自体は、ほんとに間違いかどうかは、私は知りませけれど、基本的には間違いだと思うんですけれども、デカルトさんが偉かったところは、光が目に入ってきて、それが脳に運ばれて、彼は脳の松果体だと言ったわけですが、脳に運ばれて初めて見えるんだと見破ったということ、つまり目が脳に情報を伝える装置だということを見破ったということは、非常に偉かったわけですね。そこまでやっと17世紀になって到達したということです。 それからさらに200年くらいたってですね、その頃になると近代科学というのが、発達、生じてきてですね、いわゆる生理学者のミューラ−さんという人がですね、どうも見えるとか聞くとかいうためには、それに特異的な神経細胞がいるんだということを提唱しました。例えば聞くということに関しては蝸牛器官からの、聴神経からの興奮が必要だということを、ただ見えるためには、網膜が必要なんだと、それが光によって刺激されなきゃいけないんだと、そういったことを喝破されたということですね。ここに及んでようやく、目から光が出るとか、魂の働きがなきゃいけないだとかいう話は終わりましてですね、初めてどうもこの見えるということは、別にそういった超元的な現象ではなくてですね、ある意味では機械的な現象なんだと、生物の自然の働きなんだということが解ったわけです。 で、それで20世紀になりまして、1953年に、DNAの二重らせんという有名な大発見がありまして、そこで、1953年以降、分子生物学というものが非常に発達しまして、それで、遺伝子の重要性というのが一般の人にも、もちろん研究者はそうですけれども、一般の人にも知られる様になって、生体のいろんなことは、この遺伝子の働きで制御されていることがわかってきて、現在に至っているわけです。 もうひとつ申し上げておきたいのは、目の機能ということに関してですけれども、物がもちろん普通に見えると、外、下界を見るということだけではなくて、我々の目にはサーカディアンリズムの調節能があるということです。で、我々はみな体のリズムというのを持っておりまして、例えば、人であれば、25時間のリズムを持っておりますし、ネズミであれば、23時間くらいのリズムを持っております。ただ、残念、か、どうかは知りませんけど、残念ながら、我々は24時間の世界に生きているわけです。すると我々は25時間のリズムを常に24時間に調節しなければいけないと、そうでないとどんどんリズムがずれていくということですね。それのリズムの調節を毎日の夜と昼の光を通じて調節をしているんですけれども、その調節にこの目というのが決定的な役割を果しているということも、目の大きな機能として知られています。 その目なんですけれども、皆さんよくご存じのように、我々が光を感じるのは、その目の後方にあります、膜状の組織であります、網膜という、非常に薄い組織で、光を感じるということが知られています。この網膜というのはですね、もともと神経と同じ由来です。神経になる、脳になる所と同じところから生じてくるわけです。ですから、網膜というのは、脳が突出したものといわれたりもしますが、そういった発生上の由来があるわけです。 私どもが研究しておりますのも、神経発生学なんですけれども、特に先程、最初に申しましたように、私は目がいかにしてできるかということに興味があるのですけれども、もともと我々でも、マウスでも動物でもなんでもそうなんですけれども、一個の受精卵から、その受精卵に含まれていたDNAの情報だけを使ってですね、この固体、体全体ができあがってくるわけです。で、適当な温度と栄養が必要ですけれども、適当な温度と栄養さえ与えれば、一個の細胞からこんな複雑な体ができあがって、まあ、泣いたり笑ったり、怒ったり、いろんなことができるようになるというわけです。で、それが一個の受精卵からいかにしてできあがるのかということを、研究するのが発生学という学問でして、その中で特に私はいかにして、目ができるのか、特にいかにして網膜ができるのかと、特に視細胞がどうやってできるのかということを研究をしております。まずですね、そういった目の発生なんですけど、目の発生もですね、全てDNA上に、プログラムされているわけです。で、そのDNA上の情報に、残念ながら、いわゆるエラー、あるいは変異がありますと、色んな目の疾患になりうるということが知られているわけです。 たとえば、バクシュシキスイ、有名な遺伝子、聞かれたことがある皆さんもおられると思うんですけれども、遺伝子に異常がありますと、たとえば、小眼球、非常に眼球が小さいと、あるいは、虹彩がない、虹彩が欠けている、無虹彩症といったような病気になりうるということが知られています。もちろん、松尾先生からの話にありましたように、この目の病気(網膜色素変性症)の原因となるという遺伝子はたくさんあるだろうということがわかっておりまして、その病気の原因とですね、発症のメカニズムを知るためには、やはり遺伝子のレベルでの解析、遺伝子のレベルで理解していかないと、やはり、解らないと、逆に遺伝子のレベルで解明できれば、その対策を考えることができるというふうに思います。 そこで、私は遺伝子のレベルでのメカニズムとかいったことを解明するべく研究しております。この網膜においてはですね、原因となる遺伝子は網膜の病気でいえば、原因となる遺伝子は100以上あるだろうということが知られています。現在少なくとも、数十は、数十個の原因遺伝子は知られておりますけれども、将来的にはまだまだ、100以上の数になっていくだろうというふうに思われます。で、この網膜の発生に、発生のメカニズムを知るために、私は、その発生に重要な働きをする遺伝子をとってこようということで、そのへんの細かい話は省きますけれども、とってこようということで、幸いなことに、そういった重要な遺伝子をとってくることに、成功しました。 今日はですね、少しずつ、まず、目の最初の発生に必要な遺伝子をRax(ラックス)、そして視細胞の発生に重要な遺伝子Crx(シーアールエックス)と、最近報告しました、視細胞のマスター遺伝子としての、発生のマスター遺伝子としての機能をもつOtx2(オーテックスツゥー)という3つの遺伝子の話を簡単に紹介させていただきます。 まず、そのラックスという遺伝子なんですけれども、これは核の中で、細胞の核の中で、直接DNAに結合して、色んな遺伝子の発現を制御するという遺伝子、タンパク質をコードする遺伝子なんですけれども、このラックスという遺伝子は目の幹細胞、ステムセルに特異的に発現していると、目の幹細胞が分化していくと、分化していった後にはその発現はなくなるんですね、で、どうも目の初期の発生とその幹細胞の増殖に重要な働きをしているだろうということで、ずっと研究している遺伝子のひとつなんですけれども、この遺伝子をですね、我々が研究に使うものとしては、マウスとかあるいはニワトリのエンブリオ(初期胚)ですね、チックですね、それとあと、蛙の初期胚(蛙のエンブリオ)とか使って、アフリカツメガエルを使っているんですけれども、マウスでノックアウトという技術がありまして、一種、言い方は悪いですけど、遺伝病を作るような感じで、遺伝子の働きを、ある特定の遺伝子の働きを完全に消失させてしまう技術が、現在、可能になっております。それでこのラックスという遺伝子の働きをまったく消失させたマウスを作りましてですね、目がまったくできないマウスができるわけです。で、そういったことがまずあります。 それで、目の初期の発生を研究するには、アフリカツメガエルというのが、非常に扱いやすくて便利で、逆にマウスは、初期発生を色々見るには、やや、ちょっと、お腹の中にいますし、不便なものですから、アフリカツメガエルを用いましてですね、ラックスという遺伝子はですね、おたまじゃくしになるよりも、もっと前の段階で発現さしてやるわけです。そうするとですね、本来の、もちろん蛙にも目があるわけですけれども、本来の目と違うところにまた目ができると、本来のやつよりは小さい大きさなんですけれども、別の目ができるわけです。それをいわゆる切片(せっぺん)という形でですね、組織レベルで見てみますと、やはり、この網膜色素上皮とか、あるいは三層構造になってということからですね、これは網膜ができているんだということが解ったわけです。 で、その遺伝子をなくすと目がなくなる、入れてやると、小さいですけれども、別の目ができるということからですね、このラックスという遺伝子はですね、目を作る遺伝子だと、目を最初作る時に一番最初に働いている遺伝子だということが解ったわけです。 で、それと同時にですね、このラックスというのは先程言いましたけれどもの、網膜の幹細胞(かんさいぼう)、みき細胞ですね、の増殖を制御していくということもわかっております。で、将来、例えば、現在でも網膜の幹細胞は、毛様体の方からとれたということがありますけれども、多分数を増やさないといけないという場面も出てくると思います。で、そういった時にですね、例えば、網膜の幹細胞がどうやって増えるのかということがちゃんとわかっていれば、数をまず増やしてから、たとえば、視細胞への誘導を試みるということもできるわけで、こういった幹細胞の、網膜の幹細胞の増殖のメカニズムの研究といったことも我々は非常に重要だと思っておりまして、そちらの方の研究も現在進めております。 で、簡単に目の発生の一番上流で働く遺伝子、ラックスというのを紹介さしていただきましたけれども、ついで、視細胞の方に話を移しまして、シーアールエックスとオーテックスツゥーという、この遺伝子について、少し後半しゃべりたいと思います。 まず、このシーアールエックスという遺伝子なんですけれども、これもやはり、核の中で色んな遺伝子の制御をしているということが知られている遺伝子でして、ただ、非常に大きな特徴はですね、シーアールエックスという遺伝子はですね、視細胞特異的に発現している、視細胞と松果体に特異的に発現していることが知られています。 で、この松果体というのは、まあ、この脳のてっぺんといったらなんですけれども、てっぺんの真ん中当たりにありまして、メラトニンという一種のホルモンを分泌してリズムを調節していることが知られているんですけれども、両生類とかですね、ま、蛙とかそういった仲間とか、あるいは、トリの仲間の一部では、実際この松果体で光を感じると、頭蓋骨があまり分厚くないような生物では、この松果体で実際光を感じることができると知られています。実際にそういう動物で松果体を見ると、視細胞のような形をした松果体の細胞が見えるということが知られています。それでこのシーアールエックスというのは、そういった意味で光を感ずる細胞に特異的に発現している遺伝子として、で、実はこの目の発生の分野でそういった遺伝子はあるだろうということを多くの研究者が探していたんですけれども、答が、答といったらなんですけれども、その探していた遺伝子がシーアールエックスだったわけです。 で、このシーアールエックスというのはですね、何をしているかと言いますと、こういうことを調べるために、先程言いました、ノックアウトマウスで、シーアールエックスの発現がまったくなされない、シーアールエックスの機能がまったくないというマウスを作ってやったわけです。すると、まったく一見正常なマウスが生まれるんですけれども、網膜電位図を取ってやりますと、網膜電位図では、錐体も桿体もまったく反応しない、まったくフラットな網膜電位図が得られまして、まったくほかは正常で、子供もちゃんとできて生まれるんですけれども、どうも目だけが見えないというマウスができてきたということがわかったわけです。 それで、じゃあ、何がおかしいのかというふうに見ますと、視細胞の外節(がいせつ)という光を受容するところがあるんですけれども、そこの所がまったくできていないということがわかって、また、だんだんと視細胞が変性していくマウスができてきました。実際それでですね、そのマウスでのいろいろな遺伝子の発現を見てやりますとですね、例えば、オプシンとかロドプシンとかコンフシンとかトランスデューシンといった目の光を受容するのに必要なタンパク質といいますか、酵素がですね、ほとんど欠損しているということでですね、このシーアールエックスというのが、目の構造を作るのとそれと同時に、目が光を受けるという光受容反応と言うのですけども、その構造と光受容反応に大事な働きをする遺伝子をそれをほとんど制御している、ほとんど多くを制御している遺伝子であるということが解ったわけです。 で、また、我々は共同研究でですね、ヒトのシーアールエックスという遺伝子を取りまして、それでどうも染色体の位置とかを探りますとですね、コンロッドジストロフィーツゥ−という、これ、網膜色素変性症のひとつですね、錐体桿体ジストロフィーということでよろしんでしょうかね、というタイプツゥ−ですね、という患者さんでミューテーションがあると、変異があるということも解りましてですね、その後の研究でですね、それとあと、リ−バーの黒内障、日本語で、レーベル黒内障ですか、の患者さんでもやはり変異があると、そしてまた、優性型の、常染色体優性型の網膜色素変性症の患者さんでも、その原因となっているような変異があるということがわかりまして、このシーアールエックスという遺伝子は、マウスでは変異があると実際、色素変性症のようになるんですけれども、ヒトにおいてもですね、そんな数、割合は多くはないと思うんですけれども、網膜色素変性症の何%かは解りませんけれども、何%かのタイプの原因遺伝子だということが解りました。 ただですね、それとですね、ちなみに松果体でですね、このシーアールエックスの働きを見ますとですね、このシーアールエックスの変異マウスでは、メラトニンが生産できないということがわかりまして、どうもこのメラトニンの生産にもシーアールエックスは必須であることが解りまして、実際にリズムの体内リズムの変化を見ますと、体内リズムの調節がうまく行かないということで、このシーアールエックスというものの変異によってですね、体内リズムの調節も疎外されるということが解りました。で、それで、このシーアールエックスの解析をしていたのですけれども、ただ、このシーアールエックスのマウス、ノックアウトマウスにおいてはですね、外節というひかりを受容する視細胞の部分はできないのですけれども、視細胞の核とか細胞体といわれる、細胞の中央部分というか、いうのはできてくるんですね、それと視細胞を最初作る時にはどうもこのシーアールエックスは必須じゃないんだと、何か他の遺伝子が、この視細胞を最初に作るところに効いている他の遺伝子があるはずだということになりまして、その遺伝子を探しておりました。 で、また、その間の細かい話は省きますけれども、オーティ−エックスツゥーという別のこの遺伝子がですね、どうもこの網膜の視細胞、特にその胎生期に、胎児期に置いて、視細胞に強く発現しているということに気付きました。で、ただこのオーティ−エックスツゥーというのは、生後は違うところに発現するんですけれども、胎生期においてのみ視細胞に発現しているということに気付きました。それで、このオーティ−エックスツゥーというのが、ひょっとして大事な働きを、視細胞のですね、最初の発生に大事な働きをしているんじゃないかということでですね、オーティ−エックスツゥーというのを目の中でやはりなくしてしまうような、かなり特殊なマウスを作りまして、このマウスを作るのに、3年はゆうにかかったんですけれども、ま、研究というのはそういったもので、何かひとつの遺伝子の働きを探るために、何年もかかるというのは、非常によくあることですけれども、網膜でそのオーティ−エックスツゥーがなくなるというマウスを作るのに、あの、3年はゆうにかかったんですけれども、そういったマウスを作りましたところ、視細胞がまったくできないというマウスができました。おもしろいことに、おもしろいことにといったらあれなんですけれども、サイエンティフィックには興味深いことに、松果体がまったくできていないということもわかりました。そういったことで、オーティ−エックスツゥーはどうも視細胞を作るのに必須の働きをしているし、松果体を作るのにも必須の働きをしている遺伝子だということが解ったわけです。 じゃあ、このオーティ−エックスツゥーというのはですね、どうも作るのには必要かもしれないけれども、オーティ−エックスツゥーを入れて実際に誘導できるのかというのが、次の疑問としてあったわけです。それで、我々はですね、レトロウィルス、マウスのレトロウィルスに、このオーティ−エックスツゥーという遺伝子を入れて、ラットの網膜の幹細胞に感染さしてやったと、これは実際に幹細胞を取り出してやったということではなくて、網膜にある自然の状態、生体レベルで実際の動物の中でやったわけですけれども、オーティ−エックスツゥーという遺伝子を発現するレトロウィルスを幹細胞に入れてやったところ、幹細胞からは、いろんな種類の網膜の細胞ですね、本来はできるはずなんですけれども、オーティ−エックスツゥーという遺伝子を感染さしてやると、ほとんどすべてがロッドの視細胞になってしまう、そして、あとアマクリンとかバイポーラーとか、ミューラ−グリアとか他のニューロンとかグリアとか、他の網膜にあるニューロン、グリアはすべて抑えられてしまうということで、このオーティ−エックスツゥーというのは、網膜のですね、幹細胞に働いてですね、視細胞になれというシグナルを送ることができる、そういった遺伝子だということが解ったわけです。それでですね、このオーティ−エックスツゥーというのは、胎児期の分化しつつある網膜、視細胞に特異的にまず、発現しているということがわかって、それで、そのオーティ−エックスツゥーという遺伝子をなくしてやると、視細胞ができないと、まったくできない、錐体、コーン、錐体桿体両方まったくできないということがわかりまして、ちなみにアマクリンというニューロンがその代わりに増えるということが解ったんですけれども、とにかく視細胞の発生に必須であるということが解りましたし、また、このオーティ−エックスツゥーを幹細胞に入れてやると視細胞への運命というのを誘導できるということも解りました。 また、このオーティ−エックスツゥーがない、網膜でですね、シーアールエックス、先程話したですね、ロドプシンとかそういったものを制御している遺伝子の発現を見ると、シーアールエックスの発現はまったくなくなっているということからですね、このオーティ−エックスツゥーがシーアールエックスを制御している因子だということも解りました。 そういったことから、オーティ−エックスツゥーが視細胞の一番最初の運命を作る時に、きめる時に働く遺伝子で、そのオーティ−エックスツゥーという遺伝子が働くと、このシーアールエックスという遺伝子は活性化されると、するとシーアールエックスという遺伝子が次は、オプシン、コンフシン、錐体オプシン、桿体オプシン、トランスデューシンといった実際に機能とか構造にかかわる遺伝子を活性化して、視細胞を作り上げるんだということが解ったわけです。また、それと同時に、オーティ−エックスツゥーは視細胞と非常に親戚関係にある松果体の発生にも、その松果体の発生の最上流にもあるということも解ったわけです。で、そういったことから、オーティ−エックスツゥーは一言でいえば、網膜においては、視細胞ができる時のマスターコントロール遺伝子という機能を持つということが解ったわけです。 で、そういったことから、現在おそらく色んなところで、なんとか再生医療とか、あるいは遺伝子治療、あるいは再生移植治療とかに向けて、こういったシーアールエックスとかオーティ−エックスツゥーとかいった遺伝子を使って、いろんな試みがなされているというところだと思います。京大の高橋先生の所もシーアールエックスとかオーティ−エックスツゥーというのを使って、シーアールエックスをアメリカで高橋先生の所に送ったことを覚えているんですけれども、使われて、やられておりますし、今般も関西医大のの方から電話がかかってきて、遺伝子を送れということで電話がかかってきて、もちろん大変結構なことなので、そういったものは全てお送りしておりまして、将来的に、別に私の所がやらなくても、世界のどこかでうまく行けば、それでいいわけです、まあ、私としては日本人ですから、日本の研究者が成功するのが、一番大変いいと思うんですけれども、世界のどこかでそういった我々の知見というか発見というか、研究のひとつのきっかけとして、そういったことにつながればと思ってますし、また、我々のとこも、例えば、ES細胞から視細胞が誘導できないかというふうなこともやっとりますし、最近であれば、東大の方でも、最初にいいました、ラックスという遺伝子をESに、ES細胞にいれて、ガングリオンセルのようなものが、神経節細胞のようなものができたというような報告もなされています。なぜ、ラックスで、神経節細胞ができるのかというのがよく解らないところでもあるんですが、とりあえず、網膜ニューロンらしい物ができたと報告されております。 で、最後に、短かめにしたんですけれども、最後に申し上げたいのは、ふたつみっつありまして、ひとつはですね、おそらく網膜色素変性症の患者さんなり、ご家族のみなさんももちろんそういったことの応用には一番興味がおありになると思うんですけれども、そういった移植治療であれ、再生治療であれ、人工網膜であれ、なんであれ、私の考え方としては、基本的に視細胞がどうやってできて、どうやってその機能を維持して、そしてどうやって死んでいくのかということをきっちりと理解すると、それを分子のレベルで、遺伝子のレベルで理解するということが、結局最後の応用には必要じゃないかなと考えております。例えば、最近、最近というか、膵臓の方でインシュリンの依存症のたとえば、糖尿病のような治療のために、膵臓のベータ細胞を、というのを、インシュリン産生細胞を再生させると、ES細胞からという試みがたくさんなされています。でも、最近の流れとしては、やはり、なんかこうパンパンとちょっとうまいこと当て物をするような感じではうまいこといかないと、やはりそのへんは、きっちり一体どうやってそのベータ細胞、インシュリン産生細胞ができるのかというふうなことを理解して、やっぱりきっちり積み上げていかないといけないというまた流れになっているように、私には見受けられます。 それは、もちろん視細胞でも同じことで、なにかこう当てものかなにかするような感じで、適当になんかうまいこといけばいいやという感じでやるんじゃなくて、やっぱりきっちり理解して、こうすればこうなるだろうということでやっていくと、いうことが、実は一番近道じゃないか、そのためには、きっちり理解していきたい、で、その中で、今回紹介したオーティ−エックスツゥー、シーアールエックスといった、パスウェイが、これは私が研究者としてまず間違いなく一番、なんていうんですか、大事な経路だというふうには確信しております。ただ、まだ、色々解らないところが、細かいことは申しませんけれども、色々解らないところがあるんで、そういったところを色々とまた、追求していくところです。で、それがまず一点ですね。 そして二点目にはですね、よくそういったことで、再生医療とか移植治療の可能性を聞かれるんですけれども、私は、それが物理法則に反しない限りは、最終的には可能だと考えています。その時によく引き合いに出す話があるんですけれども、昔、レオナルド・ダ・ビンチという大天才がおられてですね、色んなことを作られたり、絵も描かれたりとか、非常に多能多芸な大天才がおられたわけですけれども、そのレオナルド・ダ・ビンチという大天才をもってしても、あの時代においては、月にロケットで行くことはできなかった。なぜかと。そんな大天才がいて、月にロケットで行けなかったのに、1960年代には、一般人かどうかは知りませんが、まあ、いわゆる一般人が月へ行くことができたと、それがなぜかというとですね、やっぱり、そこまで、20世紀になるまで、やっぱり人類全体のですね、科学研究の積み上げが必要だったということです。レオナルド・ダ・ビンチがいくら天才でも、そのたった一人の天才ではできなくて、それまでの積み重ねが足りなかったからと、逆にいえば、人類全体の積み重ねが、科学の積み重ねがあれば、一般の人でも、月にいけるということが、可能になるわけです。そういった意味で、たとえば、こういった網膜色素変性症の治療とかいうことも、以前は不可能であったかもしれないけれども、ある時点で、積み重ねが充分なされた時点でですね、パッと可能になるのではないかというふうに私は考えています。そのためには、やはり、最初に申しましたように、地道なんですけれども、積み上げをしていかなきゃいけないというふうに考えております。 あの、いつも最後にお願いになってしまうんですけれども、そういった意味では、こういった、特に私の方は基礎研究のようなことを中心にやっているんですけれども、残念ながら、すぐ目に見える手術法とかなんとかそうわけではありません。だた、その地道な積み上げを、是非、患者さんの皆さん、あるいはご家族の皆さんに理解していただいて、そういったところも、すぐには目には見えないけれども、その積み上げというものを応援して頂きたいというふうに考えております。特にその、私、日本に帰ってきてですね、思いますのは、アメリカでは目の研究ということには、ものすごいお金が出てるんですね、NIH(エヌアイエイチ)という、日本では文科省と厚生省を併せたような所なんですけれども、そういったところから、目の研究にですね、例えば、脳の研究とか、ほかの研究とかより、ずっと一番に出てるぐらい、目の研究、目に研究費が出てる、なぜかというと、見えるということ、視覚ということが、クオリティーオブライフに非常に重要だという考え方が、向うにはあるんですね。そういったところが、私としては、私がいうのも非常になんか僭越なんですけれども、日本ではまだそういったとこが理解されていないところがあるんじゃないかということで、日本ではそういった目の研究を、例えば、非常に応援しようという感じではなくてですね、目の研究はややそんなにアメリカに比べたら、やはりさかんではないと思うんですね。また、そうしたら是非ですね、日本で世界に向けて、一所懸命、目の研究をしたいと思っておりますので、そういった意味においてもですね、是非、その辺は応援して頂ければなというふうに思っております。 ま、最後になりましたけれども、そういったところですね、私、もちろん一人で研究をやっているわけではないので、大学院生とかスタッフと一緒に研究しているんですけれども、大学院生も東大の眼科、阪大の眼科、京大の眼科、そんなところから大学院生が、特に眼科の大学院生なんですけれども、来て一緒に研究してくれております。彼等は非常に熱心に土曜日、日曜日も、まず間違いなく今日も研究室で研究していると思います。非常に熱心にやっております。ま、是非、そういった若い大学院生と力を合わして、皆さんにご報告できるような研究成果を出していければなあというふうに考えておりますので、また、今後ともよろしくお願い致します。どうも、大変ご静聴ありがとうございました。 会報6号付録目次へ戻る |