網膜再生治療への期待 〜網膜視細胞の発生メカニズムの解明〜
以下の記事は、独立行政法人 科学技術振興機構「科学技術振興機構
報 第12号」に掲載されたものの抜粋で、掲載許可をいただいています。
独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)は、戦略的創
造研究推進事業「タイムシグナルと制御」研究領域(研究総括:永井克
孝)における研究テーマ「網膜光受容体細胞の運命決定機構と再生(研
究者: 古川 貴久、財団法人 大阪バイオサイエンス研究所 発生生物
学部門 研究部長)」において、「網膜視細胞」の発生メカニズムを解明
し、Otx2遺伝子が網膜視細胞発生の鍵となることを発見した。
網膜視細胞は哺乳類における唯一の光センサーであり、一度機能が
失われると自ら再生することが出来ず、失明の主要因となってしまう。こ
のOtx2遺伝子を用いることで、今まで不可能であった失明に係る網膜
再生治療に可能性を開くことが期待される。なお本研究の成果は、米国
科学技術雑誌「Nature Neuroscience」への掲載に先立ち、11月17日
(月)午前3時(日本時間)にオンライン版Advance
Online Publication
(http://www.nature.com/neuro/)にて一般公開される。
〈今回の論文の概要〉
今回の研究では、網膜視細胞が網膜幹細胞から分化する際の最初の
鍵を握る遺伝子が何であるかを解明することを目的として行ない、その「
鍵遺伝子」がOtx2であることを解明するに至った。
まず、鍵遺伝子として予想していたOtx2遺伝子の時間的、空間的発
現パターンをCrx遺伝子と比較したところ、Otx2遺伝子の網膜における
発現は発生過程の網膜視細胞に強く見られ、網膜色素上皮にも発現が
見られることと、発生過程が終了した網膜では網膜視細胞での発現が
ほとんど見られなくなることを除いてCrx遺伝子の発現パターンに類似し
ていた。
次に、Otx2遺伝子の網膜視細胞発生における役割を調べるために、
網膜視細胞及び松果体において、Otx2遺伝子の機能を消失させた遺
伝子組み換えマウスを観察したところ、網膜視細胞及び松果体の発生
が確認できず、神経細胞の一つであるアマクリン細胞が著明に増加して
いた。これは、本来であれば網膜視細胞に分化すべき細胞が、Otx2遺
伝子の機能消失により、アマクリン細胞へと細胞運命を転換したことに
よると考えられる。
また、ラット発生期の網膜にOtx2遺伝子を強制的に発現させたところ
、網膜視細胞の数が増加した。また、Crx遺伝子の調節領域を詳しく解
析したところ、Otx2遺伝子がCrx遺伝子の発現を制御することを示すデ
ータが得られた。これらの結果から、Otx2遺伝子の発現は網膜視細胞
の初期発生過程に必要、かつ十分条件であることが示された。Otx2遺
伝子は網膜視細胞における細胞運命決定および松果体の発生を制御
する遺伝子であると考えられた。
〈今後期待できる成果〉
今回の研究で、Otx2遺伝子が網膜視細胞および松果体の初期発生
を制御する鍵遺伝子であることが明らかになった。今後、網膜幹細胞や
神経幹細胞にOtx2遺伝子を導入することにより、網膜視細胞に分化誘
導することが可能になることが期待される。今回の研究は、現在の医学
では治療方法がない失明などに係る難治性網膜疾患の治療に
つながる研究であると考えられる。
【トップページへ戻る】【あぁるぴぃ医療情報トップページへ戻る】