~公的年金・遺族年金制度について~

松原智治

社会保険労務士の松原智治(まつばらともはる)です。2025年もどうぞよろしくお願いいたします。今回は会員の方からご要望のあった遺族年金制度をテーマに取り上げます。

公的年金には、老齢年金や障害年金に加え「遺族年金」もあります。遺族年金とは、加入者や受給者が亡くなった際に、一定範囲の遺族の生活を経済的に支えるための重要な仕組みです。故人の公的年金納付状況(加入履歴や保険料未納の有無など)や遺族の年齢、受給優先順位、生計維持関係などの諸条件をすべて満たしている場合に受け取ることができます。種類は大きく2つ、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」。諸条件の違いにより、それぞれ単独で受け取るまたは両方同時に受けられるなど異なります。金額は、該当する制度や遺族の家族構成によっても異なります。本稿ですべてを網羅することは難しいため、まずは生活シーンに当てはめ、誰がどんな遺族年金を受け取れるかを例示します。

例1)視覚障害で10年前から障害厚生年金2級を受給しているM氏という男性がいます。4人家族で、同居しているのは妻と中学1年生の次男。高校1年の長男は県外で生活しています。このM氏に2025年現在万が一のことがあった場合、遺族年金は受け取れるでしょうか?

答えは「遺族厚生年金と遺族基礎年金の両方を妻が受け取れる」です。まず、障害→遺族の関係について。遺族厚生年金の権利が発生する要件のひとつに「故人が2級以上の障害厚生年金を受給していた」というものがあります。死因との因果関係も問われません。一方、障害年金3級を受給していた方が亡くなった場合は、障害年金の診断名と死因とに相当因果関係があると認められた場合のみ、遺族厚生年金の対象となる場合もあります。この障害→遺族の仕組みは、厚生年金のみです。したがって、初診日が国民年金で障害基礎年金2級を受給していた方が年金対象の疾病で亡くなっても、遺族年金の要件は満たしません。次、遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」が受けられるものです。例1のケースでは、故人であるM氏が遺族厚生年金の要件を満たし、遺族である妻が遺族基礎年金の要件を満たしているため、両方受け取ることができます。

例2)40年以上会社員として勤め上げ、4年前に退職した69歳のH氏という男性がいます。子どもは独立し、同い年の妻との二人暮らし。夫婦は共に65歳から満額の老齢年金を受給していました。そんな中、先般、不慮の事故でH氏は帰らぬ人となりました。遺族年金は受け取れるでしょうか?

答えは「遺族厚生年金を妻が受け取れる」です。金額は、H氏が受給していた老齢厚生年金の3/4。子どもが独立しているため「子のある配偶者」には該当せず、遺族基礎年金は受給できません。

このように遺族年金は、大黒柱が突然いなくなった際の家計への影響を緩和するものです。しかし必ずしも万全ではありません。例えば、夫が死亡した際に30歳未満で子のない妻の場合、給付は5年間で終了します。その間、自力で生活を再建する必要があります。また、配偶者が内縁関係の場合、遺族年金を必ず受給できるわけではありません。国の制度全体が法律婚を基準としているため仕方ない面もありますが、多様化という割には社会保障制度における不平等が放置されている懸念も覚えます。家族が安心して生活を維持できるよう、公的年金以外の生命保険や相続等の手当の重要性も検討の価値があるかもしれません。

以上、参考になれば幸いです。必要な方に情報が届きますように。それではまた次回。どうぞ素敵な毎日を!

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