「幼少期に眼の病気を指摘された場合の障害年金」
社会保険労務士 松原智治
社会保険労務士の松原智治(まつばらともはる)です。今回のビッグスワンでは、とある障害年金のご質問をテーマに取り上げます。
【ご質問】
「この春、子どもが高校を卒業し、県外の専門学校へ進学しました。定期的に眼科で検査を受けていますが、生活に困るほどではありません。初めて眼の病気を告げられたのは小学生の頃です。将来、障害年金の受給を希望する場合、いつから、どんな準備を始めればよいのでしょうか?」
【社会保険労務士の回答】
*本稿では「20歳前傷病による障害基礎年金」に絞ってご説明します*
まず、制度の基本から確認します。障害年金の受給開始年齢は20歳です。そして受給のためには、ふたつの要件を満たす必要があります。具体的には、
①初診日が20歳前であること(その証明ができること)
②国の定める基準で2級以上の障害状態にあること
です。このふたつの要件を満たせば、20歳到達の翌月分から受給できます。なお、法律上の成人年齢は18歳ですが、障害基礎年金の受給は20歳からです。国民年金加入義務年齢も同じく20歳であり、他の障害年金のような保険料納付要件は問われません。初診日の頃、本人が保険料を負担したくてもできない年齢だったからという整理がされています。ご質問のケースのように、初診日が小学生頃であれば、20歳時点で2級以上に該当すれば障害年金を受給できます。
次に、実務上のポイントを2点付け加えます。
1.障害認定日とその証明について
障害認定日とは、障害年金が請求できる基準日(初めて請求できるタイミング)です。初診日が誕生日から18歳6ヶ月までにある場合は、20歳到達日が障害認定日です。手続は20歳の誕生日以降です。初診日が18歳6ヶ月経過前にあることが確認できれば、一番古い眼科の証明がなくても請求できます。一方、初診日が18歳6ヶ月から20歳までにある場合は、初診日から1年6ヶ月を経過した日が障害認定日です。この場合は、原則として一番古い初診日を証明する必要があります。
2.所得制限について
20歳前傷病による障害基礎年金には所得制限があります。これは、保険料を支払っていない時期の初診日であることから、年金財源が全て税金で賄われているためです。本人の前年所得が4,721,000円を超えると全額支給停止、3,704,000円を超えると半額が停止されます(いずれも扶養控除等適用前の所得金額です)。
続いて、20歳時点で2級以上に該当していなかった場合はどうするのか。網膜色素変性症は、進行性の疾患です。20歳時点では視機能が保たれていても、その後ゆるやかに悪化することがありえます。このような場合は「事後重症請求」ができます。悪化した時点から障害年金を受給できます。事後重症請求は、請求した翌月分から受給できる制度であり、遡って支給されることはありません。したがって、該当する場合はなるべく早く手続きをされるのが賢明です。ただし請求期限は65歳の誕生日の前々日。65歳以降は満額の老齢年金が受給できるため、新規の事後重症請求はできません。
締めくくりに、お子さんに眼の疾患がある方へ、備えとして3点ご提案いたします。
1.過去の診断書や受診記録を保管しておくこと。領収書や通院メモなど(こんなものでも何か役に立つのだろうか)と思えるような些細な資料でも、初診日証明に役立つことがあります。
2.障害年金制度を知ったタイミングで、なるべく初診日をはっきりさせておくこと。できれば、証明書を取得しておくこと。時間が経てば経つほど昔のことはわかりにくくなり、記憶も曖昧になりがちです。
3.進学や就職などの節目で、年金相談を受けておくこと。親が付き添えるとは限らない将来に備え、お子さん自身が制度を理解しておくことも大切ではないでしょうか。
以上、参考になれば幸いです。必要な方に情報が届きますように。それではまた次回。どうぞ素敵な毎日を!
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