「視覚障がいになっても、ライフスタイルを充実させることができる!」
会報誌ビッグスワン第60号より
栂雅人
網膜色素変性症は、網膜に異常をきたす遺伝性、進行性の病気です。一般的な症状は夜盲、視野狭窄、視力の低下や色覚異常、羞明があります。この病気は進行性ですが、症状や進行速度には個人差がみられます。今のところ、網膜の機能を元に戻したり、病気の進行を止めるような確立された治療法はありません。
私は介護福祉士を取得する時にこの病気を知りましたが、自分が罹患するとは思っていませんでした。その後、網膜色素変性症の診断を受けた時は、「病気の罹患=失明」ということが事実になったと思い、頭の中が真っ白になったのはよく覚えています。しばらくは何をやってもうまく行かない日々が続きました。1年後に保健所に行って同じ病気に罹患している山陰網膜色素変性症協会(JRPS山陰)の副会長と事務局長に会って話をしてから、自分の今後の人生もなんとかなるのではないかと思い、「目以外の身体能力を向上させること」、「家計を安定させること」、「人脈をふやすこと」の3つの目標を立てました。
最初に、「目以外の身体能力を向上させること」についてです。目以外の身体能力を上げれば、目の機能をある程度補助できるのではないかと考え、足と体幹は特に鍛えることにしました。目が見えないと転倒したり、人や物にぶつかりやすくなりますが、足や体幹を鍛えておけば転倒を防げると思いました。具体的には全身の筋トレとランニングを行っています。
次に、「家計を安定させること」についてです。この病気に罹患した時は介護福祉士として働いていましたが、目が見えにくかったため、介護福祉士として働き続けるのは無理だと考えていました。そのため、休日にはハローワークで「難病患者就職サポーター」に相談し、障がい者の受入れが可能な企業の面接を受けて、6年かけて漸く現在の職場で事務職として働くことができました。「弱視になる=失職」だと思っていたので、必死になって思いつく限りのことに取り組みました。障がい者が転職するには、障がい者手帳を持っていないと採用条件から外されることが多く、待遇面、業務内容など多くの問題を解決しなければならないので苦労する点だと思います。転職には成功しましたが、障がい者雇用は正社員と比べて低い賃金で働くことを余儀なくされます。それを補うには障害年金を取得した方が良いです。障害年金は1級~3級があり、私は障害年金2級を取得しています。書類審査は年金事務所に書類提出する必要がありますが繁雑な作業なので、私は社会保険労務士に代行手配して頂きました。また、新NISA制度を利用することもお勧めです。最近では投資信託、iDeCo、変額保険など多くの金融商品があるので、ご自身に合ったもので今後の生活資金を用意した方が良いと思います。但し、生活に必要なお金で投資すると日々の生活に困るので、預金など余剰資金で行うことが前提になります。また、私はファイナンシャルプランナー3級を取得しましたが、金融リテラシーを学ぶには良い資格だと思います。
最後に、「人脈をふやすこと」ですが、先ず自分が難病に罹患して目が見えにくいことを受け入れることが必要でした。そしてJRPS山陰の機関誌の編集・印刷作業を手伝いながら人との交流を増やしました。更に、JRPS中国・四国の各支部が行っている中四国ブロック研修会に参加したり、JRPS本部主催の「網膜の日」に参加しました。現在はJRPS本部・ミドル会が行うリモート会やJRPS香川が行っているリモート会「ゆうゆうクラブ」にも参加しています。
人脈を増やすことの利点は、①同じ疾患に罹患しているので、生活上の悩みに共感できる、②弱視・盲目用のスマホアプリについて情報収集がしやすい、③全国の医療機関の取り組み、最新治療情報について生の声を聞くことが出来る、④孤独感から解放されるなどがあります。
網膜色素変性症と診断されて11年が経ちますが、目標を絞って行動したら、いつの間にか充実したライフスタイルが出来てくるので、何事も諦めずに日々生活されることを願います。
※2024年7月発行、「難病サポート情報紙 にゅうずれたあvol.20」の記事より引用