「節目年齢で年金迷子にならないために 60代で知っておきたい選択の仕組み」
社会保険労務士 松原智治
社会保険労務士の松原智治(まつばらともはる)です。今回のビッグスワンでは、会員の皆さまから寄せられた公的年金に関するご質問に、Q&A形式でお答えしていきます。年金制度は複雑ですが、「60代」という節目を迎えるにあたり、ぜひ整理しておきたい要点を解説します。
【Q1】
60歳代前半で老齢厚生年金を受けられると聞きました。65歳までに持病が悪化した場合、障害年金は受けられますか?
<答え>
まず前提を確認します。現在の制度で、60歳代前半に老齢年金を受けられるのは次の方に限られます。
1. 厚生年金に12か月以上加入歴がある、昭和36年4月1日以前生まれの男性または昭和41年4月1日以前生まれの女性
2.老齢基礎年金を繰上げ受給された方
そして、65歳になるまでは、「老齢年金」か「障害年金」か、いずれか一方のみ受給できます。
例えば、64歳から老齢厚生年金を受け始めた方が、65歳になる前に持病が悪化した場合。障害年金が認定されれば、老齢厚生年金と障害年金を比較して有利な方を選ぶことが可能です。一方、老齢基礎年金を繰上げ受給した場合は、原則として新たに障害年金の請求自体ができません。繰上げ受給をした時点で、年金の法律上「65歳に達した」とみなされるためです。(例外的に可能な場合もありますが、詳細は割愛します)
また、60歳代前半で老齢厚生年金の受給資格があり、かつ厚生年金に加入していない方は「老齢厚生年金の障害者特例」を選べる場合があります。これは、65歳より前に満額の老齢年金を受け取れる仕組みです。
したがって、持病をお持ちの方は老齢年金の権利を得る時点で、
①老齢年金
②障害年金
③老齢年金の障害者特例
の3パターンを試算・比較して、最も有利なものを選ぶことが大切です。
*重要*「老齢基礎年金繰上げ受給は権利制限を伴う」ことを意識し、慎重なご判断を
【Q2】
65歳は年金の節目年齢と言われますが、どんな区切りなのですか?
<答え>
老齢年金では、現役時代に納めた保険料がすべて給付に反映される年齢です。障害年金では、65歳に到達する日の前日(誕生日の前々日)までが期限の次の手続があります。
・事後重症請求
・「額改定請求(3級→2級、2級→1級)」
*重要*障害年金に関しては、65歳が大きな期限
【Q3】
若い頃から障害年金を受けている場合、65歳になるとどうなりますか?
<答え>
障害年金を受給している方も、65歳になると老齢基礎年金の権利が得られます。
厚生年金加入月数が1ヶ月以上あれば、老齢厚生年金もあります。会社勤めを続けて厚生年金保険料を多く納めた方からは、「障害年金より老齢年金の方が多い場合は、切り替えできるのか?」という質問をよく受けます。答えは、「切り替えできる」です。会社勤めを続けて厚生年金保険料を多く納めた方は、老齢年金の方が高額になることもあるからです。また、障害厚生年金と老齢厚生年金は選択制ですが、老齢厚生年金と障害基礎年金は併給できるなど、65歳以降の組み合わせは人によって異なります。自分にとって最も有利な選択をすることが肝心です。
【Q4】
65歳以降、老齢年金と障害年金の権利が両方ある場合、どのように受給すれば良いですか?
<答え>
金額を比較して、希望する組み合わせに変更可能です。組み合わせ試算は年金事務所で行えます。注意点は、所得税です。「老齢年金:課税/障害年金:非課税」という違いがあります。
*重要*組み合わせを選ぶ際は、税金の有無も含めて試算することが最も適切【制度全体を見渡して】
老齢年金は「長く働いた方の老後を支える仕組み」、障害年金は「障害のある方の現役期を守る仕組み」です。両者は性質が異なるため、65歳までは同時に受給できません。しかし、ライフステージに応じてどちらが生活を支えるのに適しているかを選べる制度です。65歳での選択は、年金加入歴・健康状態・人生設計によって大きく変わります。必ず試算と比較を行い、迷ったときは専門家に相談することをおすすめします。
以上、参考になれば幸いです。必要な方に情報が届きますように。それではまた次回。どうぞ素敵な毎日を!
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