雲南市の「たたら製鉄」 技術と歴史文化

公益財団法人鉄の歴史村 地域振興事業団 事務局長 岡本怜嗣(おかもとさとし)

1.現代の製鉄法 たたら製鉄との違い

日本古来の製鉄法「たたら製鉄」は、現代の製鉄法と比較してどのような違いがあるのでしょうか。以下の3点が挙げられます。

1つ目は原材料の違いです。現代製鉄では原材料を鉄鉱石、熔解・還元剤としてコークスを使用するのに対し、たたら製鉄では原材料を砂鉄、熔解・還元剤として木炭を使用します。

2つ目は現代製鉄法と比較して、硫黄・リンなどの不純物が極めて少ない鉄、いわゆる和鋼(わこう)を精製できることです。

3つ目は鉄を溶かし、還元する第1段階の製錬(製造のセイに練るのレン)の時点で、炭素量を調整する第2段階の精錬(精密のセイに練るのレン)の一部を行っていることと、砂鉄から酸素を取り除く還元処理も、現代製鉄と比較して極めて低温(1400℃)で行われることです。

2.日本の製鉄技術の歴史

日本で鉄器が使われ始めた時点では、朝鮮半島から輸入した鉄鉱石を原材料に製鉄を行っていました。6世紀には朝鮮半島にあった伽耶や新羅といった国が滅亡したことより、そこから亡命した渡来系民族によって日本に製鉄技術が伝えられたことと、鉄鉱石を輸入できなくなったため、砂鉄を使った製鉄法が開発され、発展していくことになります。

西日本を見ていくと、古代では吉備地域(岡山県)で活発だった製鉄が、中世になると山陰側(島根・鳥取)へ移行していきます。それとともに製鉄炉の大型化と、炉の下の地下構造が進化していき、近世になり「たたら製鉄」という形が完成します。

「たたら製鉄」の定義としては、原材料は砂鉄を使用し、炉の下に大規模な地下構造があり、天秤ふいごを使って送風をおこなうという3点です。

3.今も残る、たたら製鉄の面影

島根県雲南市吉田町の「菅谷たたら山内(すがやたたらさんない)」には、鉄師頭取(てっしとうどり)を務めた田部家(たなべけ)の、たたら製鉄関連の建造物群が現存する日本で唯一の場所となっています(平成22(2010)年に雲南市へ寄贈)。昭和42(1967)年から順次、高殿(たかどの)、元小屋(もとごや)、米倉(こめぐら)、三軒長屋などが国指定の重要有形民俗文化財に指定されました。平成24(2012)年より、山内(さんない)建物の保存整備事業が高殿から順次開始し、令和5(2023)年、三軒長屋の修復工事を以て、10年にわたる整備事業が完了しました。

たたら製鉄が終了する大正12(1923)年の景観を復元しており、当時の様子を体感できます。みなさまぜひご見学にお越しください。

【参考・引用文献】
・雲南市たたらプロジェクト会議(編・発行)『雲南のたたら文化』令和4年9月

ここから写真が2枚あります。


  • 講師の岡本さんが講演をしている様子

  • ゴツゴツしたケラを持っている参加者の大島さん

(写真説明はここまで)

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