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(2002年12月15日 読売朝刊)
音を聞き取るのに重要な役割を果たす内耳の「有毛細胞」を再生させることに、伊藤寿一・京都大教授らの研究チームがネズミの実験で成功した。聴力回復に新たな可能性を開く基礎研究として注目され、来年2月の米国耳鼻咽喉(いんこう)科基礎学会で発表する。
音は鼓膜から内耳にある蝸牛(かぎゅう)という渦を巻いた管状の器官に伝わる。中はリンパ液で満たされ、その振動を1万個以上の有毛細胞が電気信号に変換し、聴神経を通じて脳に伝える。
難聴には中耳が原因の場合と内耳が原因の場合がある。薬の副作用や騒音で聴力を失った場合、大半は有毛細胞が損傷している。先天性の難聴でも、有毛細胞の変異が多く確認される。
研究チームは、ネズミの有毛細胞を人工的に壊し、蝸牛に穴をあけて神経のもとになる神経幹細胞に発光物質を組み込んで注入、再生するか観察した。
その結果、有毛細胞が存在する溝に、光る細胞が1%未満だが入り込み、有毛細胞の形になった。
蝸牛のリンパ液は、電位差を作るために、体内の他の部分に比べてカリウム濃度が極めて高く、細胞を人工的に入れても生き延びるのは難しいと考えられていた。まだ再生の効率が低く、難聴を治療できる段階ではないが、幹細胞の活動が確かめられたのは初めて。
伊藤教授は「幹細胞を有毛細胞に分化させる物質を見つけるのがカギ。5年後の臨床試験を目指したい」と話している。
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