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点字訓練生
初めて点字に触れたのは、あるミニ福祉機器展のことであった。訪れてみると、点字の体験コーナーがあるということで以前から興味があったこともあり、参加することにしました。点字に触ってみると指先にかすかな緊張の汗が出てきました。習得するのが容易ではない難しさが指先に伝わってきたのであろう。6つの点で作られる1マスに打たれた点字が横一列に並び、その点字を読み取るのは不可能にさえ思えた。もちろん、視覚障害者ですから周りにはなんらかの点字はありますし、触れた機会は多い。学ぶことを意識したせいかも知れない。体験コーナーでは点訳ボランティアの方に興味のあるお話を数多く聞くことができました。また、実際に点字タイプライターで打つところを見せていただきました。2種類展示されており、聞いてみると、ライト・ブレイラー(Light Brailler)とパーキンス・ブレイラー(Perkins Brailler)という種類であることを知りました。もちろん、6点入力で打ち込みます。指がのるほどの小さいスプーンのようなものが左右にそれぞれ3つずつの計6つありました。
しかし、それぞれ裏打ちの表読み、表打ちの表読みの点字タイプライターというお話や上段から下へ右から左へと点字を打ち込み、触読するときは用紙をひっくり返して逆の左から右へと読むと聞いてかなり面食らったのを覚えています。この辺は記憶もうつろなのでウェブで調べるとどうやらわたしが見たのは別名カニタイプの愛称が付いたライト・ブレイラーであることがわかりました。
意外だと思ったのは点訳者が触読しないというか、できる人がいると聞いたことがないと言うのでビックリした記憶があります。晴眼者は打ちながら入力ミスを目で確認することができるからと聞いて納得すると同時に点字とはかくも習得が難しいものかという印象を持ちました。ちなみに点訳する量が多いときは点訳用ソフトウェアを使ってのパソコン点訳が主流とのことでした。そして、点字プリンタでプリントします。
点字体験コーナーから一年後、わたしは点字を学ぶことにしました。視覚障害者訓練はすべてを受ける必要はなく、幾つかの訓練の中から任意に選べると聞いて訓練を受ける気持ちになりました。
それに、にっちもさっちもいかなくなってから慌てるのは嫌だったし、余裕のあるときに習得しておこうと決心しました。手続きは地域の障害者福祉制度の窓口で申し込みました。科目?は点字(コミュニケーション訓練)と白杖訓練(歩行訓練)をお願いしました。
さて、今年の季春のある日、点字訓練が始まりました。最初は晴眼者の方が付き添ってくださいました。指導するほうも受けるほうも視覚障害者なので学んでいる位置がわからなくなるからとのことでした。実際、なれるまで位置をよく間違えました。初日の印象は・・・。点字を読むのは意外と体力を消耗するということでした。それもすぐなれ、楽しく点字を学ぶことができるようになりました。あくまでもご指導いただいたチューター(個人指導の点字指導員の意味とします)のペースだと思いますが、普通は1週間に1回(2時間)の指導ペースとして、1年くらいで点字が読めるようになるそうです。早い人で8ヶ月、どんなに遅い人?でも2年と聞いて、ちょっとビックリしました。意外と長い・・・。続くのだろうかと不安にもなりましたが、訓練というよりは毎週の楽しみとなりました。
何回か訓練を受けると付き添いなしのマンツーマンの訓練が始まりました。次第にペース配分ができるようになりました。ペース配分とは興味があることを質問することが多くなってきました。実のところ、点字訓練そのものももちろん大事なのですが、点字関係の知識と情報をエキスできたことが自分にとって、とても有意義だったのです。質問したことに対してすべて答えられるのは当たり前ではありませんが、親切に答えていただいたチューターには感謝でした。わたしが興味を持つといろいろなものを見せてくれました。ハードウェアでは点字ピン・ディスプレイとブリスタ(点字速記用タイプライター)などです。ブリスタは実演していただきました。点字を理解できるもの同士が備え付けのロール式の紙テープに点字を打ち込み、本体から出てくる紙テープの点字でコミュニケーションのやりとりができることを教えていただきました。
点字訓練と同時に質問に対してのコミュニケーションも多くなりました。例えば、「海外の点字プリンタにも良いものがあること」「点字プリンタによる点字の読みやすさ、読みにくさもあること」「点字のマスの大きさは外国でも同じではないこと」「日本の点字は必ずしも同じ大きさとは限らないこと」「郵便局のATMでの点字の操作」「漢字用の点字もあること」「テンピツって、鉛筆の間違いでは?点筆とは点字用の針のこと」などなど。そのほかソフトウェアの話など。チューターが造詣深いので聞いてみるとやはりそれなりのML(メーリングリスト)に参加しているとのことでした。
点字とは関係のない雑談も多くなりました。(お茶の時間がありましたので)チューターが豆を挽いたコーヒーが好きだとわかると、それまで飲んでいたインスタントコーヒーを止め、コーヒードリッパーとコーヒーフィルターを買ってきてレギュラーコーヒーを毎日飲むようになりました。
さて、話が長くなってきました。実際の点字訓練のお話は・・・。点字はご存知のように読み方は左から右への横書き、上段から下への洋式で、6つの点で組み合わせて作られた1マスで1つの文字を構成します。濁音、拗音のように2マスで1つの文字を構成する場合もあります。(漢字はほとんど使われませんが、複雑な漢字は3マスで1つの漢字を表すこともあるそうです。)そして、ひらがな、濁音(が行・ざ行・だ行・ば行)、半濁音(ぱ行)、拗音、特殊音、数字、アルファベット、記号などの組み合わせです。まずは50音のひらがなを目標に週1回指導を受けながら毎日30分から多いときで2時間くらいのペースで地道に訓練・練習しました。順調かというとそうでもありません。ときには日々の練習を休むこともありました。そうして4ヶ月半ほどでようやく50音が終了しました。そのころに質問しました。「そろそろ訓練の半分くらいになりますか?」お茶を濁すというか答えてくれないところを見るとどうもまだまだ先は長いらしい。「ああ…。」
あるとき、チューターが言うに自分が指導した人で30回の指導で点字が読めるようになった人はまだ2人しかいないという話を聞いてちょっぴり悔しくなりました。それまであまり身を入れて練習してこなかったからです。それからはどのくらいで点字訓練を終了できるのか意識するようになりました。
あるとき、雑談で早く点字訓練のメドを付けたい?というような意味の言葉を申し出るとそれからはペースが格段に早くなりました。これは訓練を受ける人がその気にならなければダメなのですが、その気になればほかの訓練もそうですが、指導員はいくらでも協力してくれます。現在、訓練を受けて5ヶ月以上過ぎていますが、どんなに遅くても10ヶ月以内で卒業と心に固く誓っています。夏休みというわけではありませんが、1回お休みをいただいてこの稿を書いていますが、訓練に戻り次第、拗音(きゃ、ぎゃ、ぴゃのように、小さい“ゃ・ゅ・ょ”がつく語)を攻略し、残りの特殊音・数字・アルファベット・記号・点字打ちの実習と攻略したいと願っています。(点字独特のルールも教えてくれるそうです。)
チューターが終始一貫して言うには「せっかく点字を覚えても使わないと忘れますよ」という意味の言葉です。長年、点字に慣れ親しんでいるチューターでさえ、1日ないし、2・3日、点字を触っていないと勘を取り戻すのに時間が掛かるとのことでした。だから点字を使う習慣・環境がないといざというときに役に立ちませんよと教えられました。来年あたり、点字ディスプレイでの触読に挑戦してみたいと思っています。ウェブの情報を点字ですべて読み取るのは無理としてもニュースサイトの見出しやメールのやりとりくらいならできるようになると思います。気が早いと思われる方もいることと思いますが、点字が自分にとって、将来役に立つと信じつつ残りの訓練に励みたいと思っています。
【追記】
淡々と書いていますが、実際は四苦八苦しております。ストレスを感じることもあります。点字の習得にはいくつかの波というか壁があるそうです。拗音は難しいですね。点字は古典的な部分もあり、テキストは昔のことわざもありますし、最近はサラリーマン川柳(せんりゅう)なんかも出てきました。自分はことわざも良く知られているものしか知らないし、川柳はまったく興味ありません。触読できないこともありますが、読めたとしても内容を理解するのにそれ以上の時間を要するのが現状です。(でも楽しいです。)なんと言ってもひらがなオンリーというのは文章を理解する上でどうしても遅くなります。反面、正確な読み方を知るメリットがあります。
ぎっしりではありませんが、A4サイズの用紙の点字を早い人で5分、遅い人でも15分で読めるようになるのが目安です。今の指先の触覚では厳しいです。かと言って、触読の練習には限界があります。指先の感覚がついていけないからです。日々の練習時間は30分から1時間くらいが適度と教わりました。あまりやりすぎると指先の感覚がなくなってくるのです。そういう意味ではあと3ヶ月くらいの間に今より触読できるようになることを前提としての10ヶ月以内のマスターなので、慣れてくれることを願っています。
【補足】
※Braillerはブレーラーともいう。ブライユ点字器とも言いますが、点字タイプライターのこと。なお、ブライユは人の名前でフランスの点字法を発明した盲人の教育者Louis Braille (1809‐1852)に由来しています。
※打ち込んでいる人の方向から見て、凹部のある用紙に打ち込むのが裏打ちの表読みのことで、触読するときはひっくり返します。つまり、右から左へと点字を打ち込むのがライト・ブレイラー。表打ちの表読みとは右から左へ点字を打ち込み、凸部が打ちこんでいる人の方向に浮き出てタイプしながら文書を目で読むことも触読することもできるのがパーキンス・ブレイラー。