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聞こえかたをあらわす言葉

埼玉県 柴崎 美穂 


わたしは、仕事で、聴覚障害のあるかたの聴力検査をすることがあります。聴力検査をするときに、気をつけていることは、2つあります。1つは、「検査のストレスを最小限にすること」、もう1つは、「結果を十分に理解してもらうこと」です。今回は、2つめの「結果を十分に理解してもらうこと」について書きます。

 なぜ検査結果の理解を大切にしているかというと、それが生活に役立つことがあるからです。聞こえかたを知っておくことで、「こういう言葉は聞き誤りやすいから要注意だな」と、勘を働かせやすくなります。ご家族と一緒に来られた場合は、結果を説明するときに、なるべく一緒に聞いてもらいます。そうすることで、「あら、あなたはこの言葉が聞きづらかったのね。どうりで何度繰り返しても伝わらないはずだわ」とご家族が非常に納得され、その後は、聞きづらい言葉を違う言葉に言いかえたり、紙に書いたりして工夫するようになった、という例もあります。

 聴力検査にはいろいろありますが、おそらく経験したかたが多いと思われるのは、「純音聴力検査」と「語音弁別検査」の2つです。

 「純音聴力検査」は、ヘッドホンをつけて「ピー」という音を聞き、聞こえたらボタンを押す、という検査です。聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの音でもボタンを押さなければならないので、「疲れる」というかたが多いです。この検査は、通常はいくつかの周波数を1つ1つ検査するので、「高い音は聞こえにくい」「低い音は聞こえている」など、周波数ごとの聞こえかたの特徴を知ることができます。また、計算式にあてはめて「平均聴力」を出すことができます。平均聴力は、デシベル(dB)という単位であらわします。平均聴力が同じであっても、周波数ごとの聴力によっては、聞こえかたがまったく異なることがあります。たとえば、低い音が聞こえていて、高い音が聞こえにくい場合は、母音の聴き取りが得意で子音の聴き取りが苦手、という場合もあります。(たとえば、「さかな(sakana)」が「たかな(takana)」に聞こえたり、「たばこ(tabako)」が「たまご(tamago)」に聞こえたり。わたしが「シバサキ(shibasaki)です」というと「えっ、イワサキ(iwasaki)さんですか?」と聞かれることがあります。)

 「語音弁別検査」は、「ア」「オ」など言葉を1音ずつ聴き取る検査です。聴き取れた音の割合を計算して、どれだけ聴き取れたかを知ることができます。これを、「語音明瞭度」といい、パーセント(%)であらわします。音の大きさを何段階か変えて、一番多く聴き取れたときの語音明瞭度を「最高語音明瞭度」(または「語音弁別能」)といいます。この検査は、語音明瞭度を出すだけではなくて、どの音がどんなふうに聞こえているのかという特徴を知ることができます。たとえば、「サ」が「タ」に聞こえることが多い、「バ」は音がくずれて言葉として聴き取れない、というようなことです。「こんな小学生のテストみたいなことができないのか…」とがっかりされるかたもいらっしゃいますが、検査は能力を否定するものではなく、聞こえかたを理解するための大切な方法なのです。語音弁別検査は、音の大きさをできるだけ聞きやすいところに合わせるので、通常は平均聴力よりも大きな音で検査します。ですから、聴力によっては、機械で出せる音の大きさに限界があって、語音弁別検査をすることができない場合もあります。

 もちろん、検査は日常生活での聞こえかたをそっくりそのまま再現するものではないので、「こんなの実際の聞こえかたとは違う」と思われても不思議はありません。でも、1つの目安として、自分の聴力検査結果を知っておくと、役に立つことがあるかもしれません。


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