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点字一年生
初めての点字投票とはもちろん選挙のことである。初秋の候の夏も終わろうかというころに生まれて初めて点字による投票を経験した。例の郵政解散・総選挙である。
その日は朝から蒸し暑い日であった。選挙の前に片付けておきたい雑用を済ませようとまず、訓練を始めてから6ヵ月になる日々の点字訓練を始めることにした。この点字訓練は季春から続いており、普通は点字打ちの実習というか練習は最後のほうになるのですが、たまたまタイミングよく、点字器と点筆を貸し出してくれたときに選挙があった。いよいよ点字打ち訓練が始まったのでした。
さて、選挙ですが、当初は点字投票など自信がありませんから、当日のお昼ころまで普通の投票をと思い込んでいました。しかし、50音の点字打ちの訓練をしているときに、もしかしたら点字投票ができるのではないか?と思いつきました。候補者の名前が難しく、正確な読み方がわからない。そこで、インターネットで調べて候補者名と政党名を点字用の用紙に打ってみるとできそうな感じでした。
買い物に出かけた帰り、にわか雨が激しく降り始めたので岐路を急ぎ、再び、練習をしてから投票所へ出かけた。
さて、受付で投票案内のはがきを差し出すと係員がわたしの白杖を見たのか普通の投票か点字による投票か尋ねてきた。そこで点字投票をお願いしました。自分用の点字器がないことを知ると投票所で用意されている点字器で打ち込むことになりました。結論から言うと当たり前ですが、点字で打ち込む以外は普通の投票とまったく同じでした。さて、候補者名を打ち込むときに初めてなので迷っていると、係員が点字投票の方法を説明する手がじゃまで思わず「見えない!手がじゃま!」と言ってしまった。やはり目が見えており、目に頼っていることを実感した。打ち込んだ点字を確認しようとすると点字がちょっぴり汚れているのが気になった。理由はどうも机上の汚れが原因らしい。そういえば、机の上がざらざらしていることに気が付いた。"ここは神聖な投票所じゃないのか。もっときれいにしておいてくれよな"と心の中で思った。実際は汚れた指先で触読したのが原因であった。投票所の点字器と点筆はとても打ちやすかった。
政党名も無事打ち込み、今度は最高裁判所の裁判官国民審査だとかで裁判官の名前が墨字と点字でずらっと並んでいた。ここで困ってしまった。当初はなんらかの印を付けるだけと思い込んでいたのですが、確認するとどうも名前を記入することがわかりました。
「裁判官全員を選びたいのですが」と言った。「民意を反映させるためには全員を選びたい」という意味のことを言うと途中で係員らしき女の子たちの失笑の声が聞こえたように思う。不謹慎と怒られそうだが、わたしはこういうとき、投票率を高めるためとりあえず全員を選択する。「名前を読み上げましょうか?」と係員の声も聞こえてきましたが、全員を選択するには全員の名前を記入しなければならないことを知るとあきらめることにした。「棄権されますか?」という係員の声は不本意であり、残念なのですが点字で全員の名前は打ち込めない。わたしがこのような愚行をするのも判官国民審査は判断しづらい側面もあるからと言ったら怒られてしまうだろうか。重い結果につながるのだから裁判官がどのような裁判のどのような判決を下したのかくらいは調べてくださいということなのだろうと思うしかなかった。でも、もう少し簡単にわかるようにしてもらいたいと思いながら投票所を跡にした。ともかくも点字投票ができるようになったことがちょっぴりうれしかった。また、これからは死ぬまで点字投票と思った日であった。
※ その後、点字訓練を終え、点字打ちだけはできるようになりました。(触読は・・・苦労しています。)