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●聴覚と視覚は人間が生きていく上で重要な感覚器であります

浜松医科大学耳鼻咽喉科講師 岩崎 聡


JRPS(日本網膜色素変性症協会)の世界会議がいよいよ8月に千葉で開催されます。アイヤ会からも「視聴覚障害とはどういうものか?」のタイトルでパネルディスカッションが行われます。

網膜色素変性症の方々が多く参加されると思いますが、わが国における有病率はほぼ3千人に1人であると言われています。

その大部分は眼症状のみを示しますが、ときに様々な病気の部分症状として難聴がみられます。Usher(アッシャー)症候群はその代表であり、網膜色素変性症と感音難聴とを合併します。

遺伝性の網膜色素変性症の29%はUsher(アッシャー)症候群であったとの報告があります。人口10万人に対し外国では3.6〜4.4人の頻度でみられ、我が国では1978年の報告で、人口10万人当たり0.6人との報告がありますが、その後この疾患の概念も変わり、我が国における現状は不明と言っても過言ではありません。以前は、網膜色素変性症に先天性の高度難聴を伴う疾患をUsher(アッシャー)症候群と呼び、小児先天性高度難聴児の約3〜6%がこの病気によるものとされ、小児が対象の疾患と思われがちですが、そうではありません。その臨床症状が多様なため、詳細な病気の解明が進まなかったことも大きな理由と思われます。

症状と症状のみられる時期によって3つのタイプに分けられています。

タイプ1は幼小児より高度な難聴が見られ、時々めまい、ふらつきが見られる。また目の症状も10歳前後で生じてくる。このタイプが以前Usher(アッシャー)症候群と言われていたものです。

タイプ2は若年の頃より中等度の難聴が見られ、高い音色の音が聞き取りにくいことが多く、言葉自体の聞き取りはそれほど支障ないため難聴を自覚して耳鼻科に行かないことがある。めまい、ふらつきは伴わない。目の症状は思春期以降に生じてくる。

タイプ3は難聴、目の症状とも思春期以降に生じて来るが、難聴は徐々に進行していく。したがって成人以降で難聴を自覚して耳鼻科を受診することもある。またタイプ3は症状の程度や時期に個人差がみられる。

このように症状の程度、出現時期、症状の多様性が異なりますが、これがUsher(アッシャー)症候群です。したがって、網膜色素変性症だけだと思っている方の中にもタイプ2やタイプ3のようなUsher(アッシャー)症候群の方が多くいらっしゃると思われます。

 聴覚と視覚は人間が生きていく上で重要な感覚器であります。視覚障害だけでも、みなさんご存じのように大変苦しいものでありますが、両方の障害は計り知れないものがあります。網膜色素変性症は見える範囲が狭くなったり、物が暗く見えたりします。さらに難聴と耳の障害によるふらつきが伴うと日常生活でのストレスは大変なものでしょう。これまでこの病気の解明が進まなかった理由として、詳細にこの病気を診断していくためには耳鼻科と眼科の2つの診療科の協力がなくてはできなかった点が上げられます。浜松医大においては、耳鼻科と眼科と共同してこの病気の診察にあたっています。私と眼科の堀田教授は網膜色素変性症で聴覚障害をもつ患者の全国の会「アイヤ会」の顧問をさせていただき、今後全国のこの病気の患者さんの少しでもお役に立てるよう、協力して頑張っていくつもりであります。我が国におけるUsher(アッシャー)症候群の実情と病態に関するデータベース化の構築と将来の治療につながる病気解明への基礎体系作りができればと考えています。その結果は網膜色素変性症と聴覚障害を伴う患者の会「アイヤ会」を通して、Usher(アッシャー)症候群の患者さんに還元できるよう、会の方々と協力し、努力していくつもりであります。さらに、医療従事者へUsher(アッシャー)症候群の診療に対する大変重要な知見を与えることができればと考えます。また、網膜色素変性症の方に難聴も伴う疾患のあることの啓発にもなればと思います。

 聴覚と視覚という人間が生きていく上で重要な感覚器の障害を生じるUsher(アッシャー)症候群の診断と治療の今後の進歩とアイヤ会の発展を期待しております。

今後みなさんにご協力をお願いすることがあると思いますが、その時は宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました。


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