岡山大学医学部(眼科)松尾俊彦先生、工学部内田哲也先生に聴く
「岡山大学方式人工網膜OUReP」の開発~医師主導治験の見通し~
■Wings研究者インタビュー 第1回
岡山大学病院(眼科)松尾俊彦先生、工学部内田哲也先生に聞く
2015年8月に行われた両先生のご講演とWings委員との面談の内容を、
両先生のご了解の下、一問一答形式で纏めました。
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●岡山大学方式人工網膜の治験を計画されているとお伺いしました。この人工網膜の特長、また臨床応用の前提となるご研究についてお伺いします。
Q:まず岡山大学方式の人工網膜の特長を説明していただけますか?
A:光を電位差に変換する光電変換色素分子をポリエチレンフィルムに化学結合して使用します。電位差を出力して、近傍の神経細胞を刺激します。10の7乗から8乗個の色素分子が1つの神経細胞に接しています。ポリエチレンフィルムは薄くて柔らかいので、大きなサイズ(直径10ミリメートル大)まで植込み可能です。つまり、広い視野をカバーすることが可能です。
Q:どの位の回復視力が期待できますか?
A:網膜色素変性モデルラットでは、行動評価から換算して、0.005以上の視力が得られています。ヒトでも同等に見えれば、アイパッドなどで拡大して字が読めます。日常生活の改善、字を読むことが目標です。理論的には、網膜本来の解像度が期待できます。
Q:人工網膜の眼内での耐久性、また安全性はどの位分かっていますか?
A:ウサギに6ヵ月植込んで摘出した人工網膜の機能を解析しています。光に対する反応性は保持されています。安全性評価のすべての試験で毒性はありません。6ヵ月埋植試験もウサギで実施しています。
●計画されている治験について、次にお伺いします。
Q:人工網膜は眼内のどこに挿入しますか、また、いったん挿入した後に交換可能ですか?
A:網膜色素上皮と神経網膜の間に挿入します。網膜剥離で剥がれるのが、この網膜色素上皮と神経網膜の間です。技術的には交換可能ですが、人工網膜を植込むよりも摘出する方が手術的侵襲は大きいので、無害ならば、植込んだままにした方がよいと考えます。2枚目の人工網膜は、先に植込んだ人工網膜の上(神経網膜側)に重ねていれるのがよいのではと考えます。
Q:被験者の募集人数、また選択基準、除外基準は?
A:最初の募集は5人です。ヒトで初めてですので、両眼とも「光覚弁なし」の方で、光干渉断層計(OCT)で網膜層構造が残っている方です。除外基準は、緑内障、角膜疾患がある方、全身状態が悪い方、認知症などの方です。
Q:麻酔の種類、手術時間、入院日数、外来通院頻度、効果判定時期は?
A:手術は局所麻酔下1、2時間で終了します。入院は5日間、通院は14、28日目、2、3、6、12、24ヵ月目です。効果判定時期は術後28日です。
Q:有り得る有害事象は?
Q:治験での評価項目は?二重盲検試験を要求されますか?
A:主要評価項目は安全性、副次評価項目は、探索的効果(視力、視野)です。
Feasibility study(探索試験;5人)の後、pivotal study(検証試験;20-25人)を実施します。Feasibility studyで効果があれば、医療機器製造販売承認申請が早くなります。医療機器ですので、医薬品とは違い、二重盲検試験は不要です。
Q:製造・販売企業の見通しは?また、将来的に、費用はどの位かかりますか?
A:岡山大学が大手の製造販売業企業と交渉を進めています。心臓ペースメーカーの費用は100万円位ですが、同程度の金額を想定しています。通常の硝子体手術と同額になり、それプラス、人工網膜の費用となります。保険償還を目指します。
Q:治験開始の時期はいつ頃ですか?
A:医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら、今年度内の開始を目指します。
参考文献:「色素結合薄膜型の人工網膜(OUReP™)の医師主導治験を目指して」
(『人工臓器』43巻3号、2014年、 松雄先生と内田先生の共同論文)
次回★Wings研究者インタビュー 第2回
山梨大学医学部飯島裕幸先生に聞く
~ハンフリー視野検査からわかること~