◇学術研究助成受賞者は今(第7回)

第7回 角田 和繁(第15回受賞)
独立行政法人国立病院機構東京医療センター
臨床研究センター視覚研究部

受賞テーマ:オカルト黄斑ジストロフィーの原因解明に向けて

オカルト黄斑ジストロフィーは、徐々に視野の中心部が次第に見えにくくなり、視力が低下していく黄斑変性症です。常染色体優性遺伝のため、親から子供へと遺伝する可能性のある疾患です。網膜色素変性症などと異なり眼底検査で異常が見られないため診断が難しく、この疾患の病態については長いあいだ分からないことが多くありました。このたびの研究助成により、オカルト黄斑ジストロフィーについてさまざまな点が明らかになりました。そのひとつは、これまでオカルト黄斑ジストロフィーと診断されてきた症例の中には、RP1L1という遺伝子の異常があるタイプとないタイプが見られ、両者は全く異なる疾患であるということです。現在のところ、オカルト黄斑ジストロフィーの発症に関与する遺伝子として知られているのはRP1L1のみです。この遺伝子の関与が見られないタイプの多くには、網膜内層異常、網膜微小血管異常、網膜の局所炎症などが関与している可能性があります。われわれは、RP1L1遺伝子の異常によって生じる黄斑ジストロフィーを、発見者の三宅養三教授にちなんで「三宅病、Miyake’s disease」と命名しました。その後、オカルト黄斑ジストロフィーは厚労省の指定難病(301、黄斑ジストロフィ)に指定され、診察にあたって医療補助が受けられるようになりました。
オカルト黄斑ジストロフィー以外にも網膜には数多くの遺伝性疾患が存在しますが、現在のところ通常に使用できる治療法はありません。しかしこれまでに多くの治療法が研究され、欧米を中心に進行中の臨床治験も数多く存在します。治療法の多くは、特定の遺伝子異常や病態に対象を絞って治療効果を高める、Precision medicine(高精度医療)と呼ばれる方法です。そのためには、遺伝性網膜疾患の原因の調査を、幅広い病態を対象として、しかも全国的に行なうことが将来の治療導入に向けて不可欠な課題であります。ただし、欧米人と遺伝的背景が異なる日本人においては、網脈絡膜疾患を有する患者さんの半数以上でいまだに原因が特定できていないのが現状です。
現在東京医療センターでは、遺伝性網脈絡膜疾患・視神経疾患(27分類)について、全国の主要な大学や研究施設と連携して疾患の臨床情報(年齢、発症、経過、各種画像等)および遺伝情報を集積するプロジェクトを行なっています。すでに1200例を超える症例が登録されており、治療導入に向けた国内最大のデータバンクが完成されつつあります。将来的にはこれらのデータをもとに、新規治療の対象疾患、対象患者が効率的に選択され、実際の治療に役立つことを目指しています。
これらの研究はすべて全国の多くの患者さまのご理解、ご協力によって支えられてきました。今後も遺伝性網膜疾患の克服に向けて少しでもお役に立てるよう努力を続けて参りたいと思います。(20170328)

(次回は、大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 准教授・森本 壮先生です)

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