第8回 森本 壮(2012年・第16回受賞)
大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 准教授
2012年度JRPS研究助成を研究テーマ「網膜色素変性に対する経角膜電気刺激治療の臨床応用」で受賞いたしました。
研究の発端は、大阪大学を中心として、2001年から開始した人工網膜の研究の過程で、電気刺激そのものが網膜や視神経に対して神経保護効果があることが分かり、その後、電気刺激治療の臨床応用に向けて、安全性の高い刺激装置の開発や刺激方法を検討し、網膜色素変性症の患者さんや難治性の視神経症の患者さんに対して臨床試験を行なっていました。
当時、皆さまから研究助成をいただいたおかげで、研究費が充実し、治療に必要な物品や消耗品を購入することができ臨床試験を遂行することができました。また、受賞したことで患者さんの病気を治したい、見えるようになりたいという思いをより強く感じるようになり、研究を推し進める力となりました。
現在、臨床試験は終了し、治療効果について検討しているところです。治療を受けた患者さんの多くが、視力や視野の感度は、治療を受けた後もあまり変化はなかったけれど、治療を受けている時は今より見え方がよかったと言われており、今後、新たな臨床試験を行なう予定ですが、臨床研究、特に患者さんを治療する介入研究については、基準が厳しくなり、費用や人員も必要になっており試験を行なうための準備がたいへんになっている状況ですが、なんとか一般の医療になり、最寄りの眼科医院で治療を受けることができるようになればよいと考えます。
現在は、日本の人工網膜プロジェクトのリーダーである不二門教授の元で人工網膜の研究を行なっています。今年度末(2017年度末)頃から大阪大学、杏林大学、愛知医大の3施設で網膜色素変性症の患者さんを対象に人工網膜の臨床研究を予定しており、現在、候補となる患者さんの診察と検査を行なっています。それとともに、次世代の人工網膜の開発も行なっています。次世代の人工網膜は、従来の1枚電極の欠点である視野の狭さを補うために、2枚の電極を備えており、これによって従来の1枚電極よりもより広い視野を得ることができます。これでもまだ不十分ですが、今後、さらに電極枚数を増やしてより、広い視野で患者さんの生活に役立つような人工網膜を開発していきたいと考えております。
また、現在は、人工知能(AI)の技術やさまざまな「モノ(物)」がインターネットに接続され、(単につながるだけではなく、モノがインターネットのようにつながる)Internet of Things(I oT)の技術が発展してお
り、それらの技術を組み込んだスマート人工網膜を開発し、単に視覚を再建する機器としての役割以外に患者さんの安全や生活の質の向上につながるような機器が開発できたらいいと考えております。
このようにまだまだ、人工網膜の研究開発に解決すべき課題が多く、いつか、スマート人工網膜を開発し、国に認可され、希望された患者さんが自由に埋植手術を受けることができるような時代が来るように研究を進めていきたいと考えております。皆さま方には、今後ともご協力、ご支援をお願い申し上げます。
(次回は、岩手大学 理工学部 生命コース 准教授・菅野恵理子先生です)