第13回研究推進委員会(Wings)通信

研究推進委員会(Wings)通信(第13回)
Wings研究者インタビュー 第10回
東京医療センター岩田岳先生に聞く
~遺伝性網脈絡膜疾患の病因・病態機序の解明~

平成29年度の日本医療研究開発機構(AMED)の難治性疾患実用化研究事業として、遺伝性網脈絡膜疾患、家族性緑内障、家族性神経萎縮症について病因・病態機序の解明を目指した新規事業が採択されました。
その事業のリーダーとして活躍されている岩田先生を訪問しました。

問:まずこれまでの網脈絡膜変性疾患の遺伝子解析のご研究についてお尋ねします。
答:昨年までの6年間で1300家系、2000人余の検体を収集、解析を行なってきました。
その結果、日本人は白人とかなり違う遺伝子変異で発症していることが分かりました。遺伝子の変異場所が異なっているというだけでなく、全く新しい変異遺伝子が50家系で見つかっています。
今後も、新しい変異遺伝子を見つける研究は続けますが、これまで自分のところで見つけた約380の変異については、民間会社にお願いして診断キットを作ってもらうことも計画しています。

問:いつ頃診断キットは実現するのですか。
答:3月頃までに初期バージョンを作りたいと思っています。完成すれば1万円前後でキットが手に入り、病院で診断が受けられるようになります。

問:今後の研究の進め方についてお聞かせください。
答:AMEDで29年度から3年間の計画で認められたオールジャパンの研究共同体では、昨年までの全遺伝子解析(全エクソン解析)から一歩進んで、一部の家系については全ゲノム解析へと移行します。
エクソン以外の領域における遺伝子変異について、別途、網膜で発現しているRNAと、その転写領域、転写制御領域と重なるか解析する計画です。タンパク質に加えて、RNAへの影響について、病態解明に迫りたいと思っています。

問:なぜ全ゲノムやRNAを対象にする必要があるのですか。
答:実は、最近、遺伝性網膜疾患の発症が遺伝子(エクソン)の変異によるだけではないことがわかってきました。遺伝子以外のゲノム領域の変異による転写プロセスへの影響がわかってきました。
そこで、遺伝子変異によって周辺遺伝子の転写がどのように影響されるのか調べる必要が出てきたのです。

問:今までRPの遺伝子解析を受けても5割くらいの人には変異遺伝子が見つからなかったというのは、そういうところにも原因があったのですね。
答:そうですね、理化学研究所の林崎先生と共同で、まずは正常な人由来の網膜細胞でRNA解析を行なっていく予定です。

問:RPなどの発症機序はどのようにして調べるのですか。
答:患者さんにご協力いただいて作製されたiPS細胞から視細胞を作って調べます。私たちはアメリカの大学グループと共同で研究を進めています。
より完成度の高い視細胞を作製し、電気生理学的な計測を含めた様々な発症機序につながる研究を行ない、発症を抑制する分子の探索に期待しております。

問:治療薬はできるのでしょうか。
答:一つひとつの遺伝子変異について発症機序が解明されれば、候補となる薬のスクリーニングは近年容易になってきました。
昨年我々は家族性の緑内障について、すでに処方されている鼻炎の薬が有効であることを発見し、論文として報告しました。
平成29年度から3年で遺伝子解析にはめどをつけ、次の3年のステージでは、特定の遺伝子変異に対して、特定の薬の有効性を調べるというような研究ができることを期待しております。

問:ただ、RPの薬となるとマーケットが小さいので商品化が難しいですよね。
答:おっしゃる通りです。そこで、日本人に変異が近いと思われるアジア人に対象を広げ、症例数を増やし、マーケットの拡大をはかる計画です。
すでに遺伝子解析のアジアコンソーシアムを立ち上げ、各国の研究者と連携して特定の遺伝子変異について、複数の家系を集めています。
国際的な治験ができるようになれば良いのですが、これについては今後の課題です。

問:これまでお話を聞いてきて、どうも患者の出番がなさそうに思えますが。
答:患者さんのこれからの役割は、レジストリーに参加していただくことだと思います。
症例が増え、また、どこに、どういう病歴の人がいるかということがすぐに分かるようになれば研究のスピードが上がります。

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