受賞テーマ:「遺伝子治療による錐体系視覚再建と可塑性の解析」
網膜色素変性症はおもに遺伝子の一つに異常があって病気が発症すると考えられています。異常があることにより、遺伝子が十分機能しなかったり、異常機能を示したりして病気が発症するのです。
網膜色素変性症では、病気を起こしうる原因遺伝子がたくさん見つかっています。異常がある原因遺伝子さえ特定できれば、遺伝子治療により正常な遺伝子を網膜細胞に補充してあげることにより、病気を治療することができる可能があります。このような治療方法を遺伝子治療といいます。欧米では、子供のころから強い視力低下を伴った重症な網膜変性患者に対してすでに遺伝子治療の臨床試験が行なわれていて、一定の成功をおさめています。
一方で、遺伝子治療を行なうことにより、これらの患者さんがみな満足する結果が得られたかというと必ずしもそうではありません。一番の問題は、治療により思ったほど視力が回復しなかったことです。遺伝子治療は非常に有力な治療手段だと思いますが、この点は早急な改善が必要であるということになります。
今回の受賞テーマでは、まずは網膜変性を持ったネズミに対して様々な条件で遺伝子治療を行なったあとに、視力を測定します。得られたデータを解析することにより、視力回復に必要な条件を見つけ出したいと考えています。ネズミの視力を測定することは決して簡単なことではなく、ネズミの視覚を、脳波を測定して客観的にする評価する方法とネズミの視覚行動を評価する方法の2つの手法を用いて解析し、課題の解決に取り組む予定です。
私たちは、成果を医療に還元することを目標にして、日々研究活動を行なっています。そして、本研究が、網膜色素変性症患者をはじめとした難治性網膜変性患者の遺伝子治療開発に役立つことを強く願っています。