第4回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第3回
理化学研究所 高橋政代先生に聞く
~網膜再生医療の未来について~

再生医療による加齢黄斑変性症の治療を目的とした臨床試験に携わっておられる高橋政代先生に、この研究を含め、RP治療に向けた現状と今後についてのお話を伺いました。

問: 加齢黄斑変性症2例目の移植手術が見送られた経緯は?
答: 患者本人の細胞からiPS細胞(自家iPS細胞)を作成し、移植に向けて網膜色素上皮細胞に分化させたところ、遺伝子のいくつかに変異が見つかった。これらの変異は、腫瘍形成との関連性は低いと考えられている上、網膜色素上皮細胞の特性として腫瘍化しにくいことから、この細胞の安全性には確信を持っていた。しかし、変異によるリスクに対する議論が過熱し、移植予定であった患者の容体が安定していたこともあり、安全性に関するコンセンサスが広く得られるまで移植を中断することに決めた。このコンセンサスを得るうえで重要となる、iPS細胞の臨床応用における安全性評価の指針が文科省と厚労省の間で今年度中に策定される見通しとなっている。

問: 他家iPS細胞(他人の細胞)を用いた臨床試験を開始すると聞いたが?
答: 自家細胞の研究を中止するわけではないが、将来の治療に向けて本格的に再生医療を臨床へ導入することを考えると、コストが安く、時間も大幅に短縮できる他家細胞の使用は不可避である。自家細胞を使うと、年間2名の患者しか治療できず、一人当たり5000万円程度の費用が掛かってしまう。一方、他家細胞を使うと、一度に100人分の移植用細胞を調整することも可能で、より現実的な費用で多くの患者を治療できる。京都大学iPS細胞研究所では、多くの方とマッチする特殊な白血球の型を持つヒトから作成したiPS細胞バンクが構築されつつあり、患者に適合する細胞を用いた他家移植に向けて準備が整いつつある。他家細胞を用いた臨床試験は、早期に開始できるように進めている。(株)ヘリオスでは、薬事承認を取得するために、細胞をばらばらにした浮遊液を用いた治験を2017年中に開始すると発表している。

問: 再生医療によるRP治療の見通しは?
答: RPが進行した患者の治療を目指して、iPS細胞から作成したシート状の網膜組織を移植する方法を優先的に研究している。このシートを移植した際に、どのようにものが見えているかを本当に知るためには脳の状態を観測しなければならない。この脳の研究も準備しているが、短期的に結果が出るものではない。よって、動物実験で細胞の移植後に光を感じることが確認できた段階で、網膜組織移植術のヒトへの応用を考えている。時期などについては規制当局との話し合いになると思われる。
シートの作成は日々進歩しており、病気の進行度合いに応じて、バラバラにした細胞の移植、シート状細胞の移植など多くのアプローチが考えられている。ヒトに対する臨床試験は、3、4年後の開始を目指している。

【インタビューを終えて】
高橋先生を含め、世界中で多くの研究が進められています。研究者は多くの難問を解決しながら、私たち患者がより良い生活を取り戻せるように努力を重ねています。科学的/医学的難問を解決すると同時に、その成果を社会的にも受け入れてもらわなければなりません。この両方を研究者だけの力で達成することはとても困難です。
研究が進むほどに、患者としていかに臨床研究と向き合うか、どのように研究者を後押しするかが重要になってきます。治療法を待つだけではなく、その過程にいかに関わっていくかを皆で考える時期に来ています。研究が進んでいるとはいえ、今日明日で治療法が確立するわけでもありません。視力の残っている人は、どうかそれを大事にしてください。有効な視力がない人も、体調を整え、網膜が少しでも良い状態であるように心がけてください。皆で頑張りましょう!

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