これまで3年間に10人の先生方にお話を伺ってきました。インタビューは継続しつつ、ご研究の進捗状況等を随時ご寄稿いただくことにしました。フォローアップ記事として掲載します。
■Wings研究者インタビューフォローアップ寄稿(1)
「山梨大学医学部眼科 飯島 裕幸先生に聞く
~ハンフリー視野検査と網膜色素変性」
2015年9月にJRPSの有松、堀口両氏が山梨までおいでになって、私が行っているハンフリー視野検査での網膜色素変性の臨床研究の話を聞いていかれました。その内容は2016年1月発行の研究推進委員会(Wings)通信に掲載されています。両氏が私のところまでおいでになられたのは、2013年10月6日のJRPS網脈絡膜変性フォーラムにおいて行った網膜色素変性の視野進行の講演がきっかけです。
網膜色素変性の主たる障害は視野障害で、求心性狭窄であったり、輪状暗点であったりします。その視野障害の全体像を把握するには、ゴールドマン視野計(GP)が分かりやすいので、網膜色素変性と最初に診断された際には、GPで検査を受けたことが多いと思います。しかし、この病気の進行を見ていく目的では、GPはあまりよい方法とはいえません。狭くなった視野が、中心10度以下になった患者さんを、GPで毎年測定してもほとんど変化がありませんが、それは進行がストップしたわけではありません。GPでは視野の広さを主に測定していますが、この時期には視野の広さは変化しないものの、感度が徐々に低下していきます。そこで感度の変化に敏感なハンフリー視野で測定すると、着実に進行していくことが分かり、さらにその速度が平均偏差(MD値)の数字でとらえられます。視野の感度というのは、玉ねぎ型をした視野の島の高度にあたるものです。視野の島の水平方向の変化を見るにはGPがすぐれていますが、垂直方向すなわち視野感度の変化を見るにはハンフリー視野がすぐれているので、とくに視野が著しく狭くなった時期の患者さんでの進行評価には、ハンフリー視野が適しているといえます。
私が山梨で最初にハンフリー視野計を使って検査を始めた網膜色素変性患者さんのひとりは、1989年当時51歳で、ハンフリー10度視野でのMD値が右眼で-13、左眼で-8dBでした。3年間ほどその検査を続けたところ、年率0.7から0.8dBで低下していくことが分かりました。そこで患者さんには視野の結果を見せて、「少しずつ進行はするものの、少なくとも30年間は失明することなく、80歳まではある程度見えていますよ」と説明しました。その患者さんが今年81歳になって受診されましたが、両眼白内障手術後の眼内レンズ挿入眼で、矯正視力は右0.6、左0.6でした。ハンフリー10-2視野のMD値は、右-28dB、左-27dBで、中心3度以内はよく見えています。少なくともこの患者さんについては、[網膜色素変性で近い将来失明するのではないか]という恐怖を和らげて、30年間を心おだやかに過ごすことに役立ったのではないかと思っています。
これまで身体障害の視覚障害の認定にはGPが必要でしたが、今年の改正でハンフリー視野計を使用したエスターマン両眼開放視野検査で代用できるようになりました。今後ますますハンフリー視野検査が網膜色素変性患者さんの検査として認知されてくるものと思います。(20181127)