第26回研究推進委員会(Wings)通信

■治療の実現に向けて考えたいこと

研究推進委員会 土井 健太郎

この原稿を書いている時点では、新型コロナウイルス感染症拡大の第3波が猛威を振るっています。自然災害もそうですが、現在のような非常事態が起きてしまうと、どうしても身体に不調がある人に大きな影響が及んでしまいます。会員の皆さまにおかれましては、最低限度の不自由さであることを願っています。
これにも関連して、今回は、医療費について少し考えてみたいな、と思います。
ニュースにもなっていますが、世界規模でコロナウイルスのワクチンが開発されています。すでに、国レベルで接種が始まった地域もあります。このワクチンですが、いままででは考えられないスピードで実用化されました。
当然、この超特急開発に見合った莫大な開発費用がかかっているはずです。ただ、接種を受けるであろう人数も膨大なので(日本政府だけでも8,500万人分の契約をしたようです)、注射のお値段はかなりお手頃です。最終価格は分かりませんが、インフルエンザワクチンと同等の4~5,000円になるのでは、との報告があります。日本の政府は、この値段を国として負担しても、国民の健康に寄与できると考え、無料の接種を決めました。
では、今度はRPの治療に目を向けてみましょう。厳しい現実を突きつけるお話になるかも知れませんが、私たちの治療が現実のものとなるためには考えなければならないことなので、お付き合いのほどお願いします。Wings通信・第25回で紹介されていたLuxturnaという遺伝子治療薬があります。これは、RPのなかでもレアなタイプにのみ効果を発揮するお薬です。若年で発症し、急激に悪化してしまい、成人前に重度の視力障害を負ってしまう場合が多い病気です。新しい薬ですので、真の効果に関しては、もう少し後にならないと分かりませんが、幼少のころに治療をすることで、病気の進行をかなり遅らせることが期待されています。
米国ではすでに一般診療の一部となっていますが、この薬のお値段、アメリカでは片目の治療に4,500万円、両目で9,000万円と言われています。例えば、日本で先進医療に認定されたと仮定して(先進医療は自己負担です)、この治療をどう思いますか?
成人前に失明してしまう子供を救うためなら! でも、この治療費は! といったところではないでしょうか。
次にできることとしては、国に対して、保険適用をお願いすることになります。3割負担になりますし、高額療養費の対象にもなります。個人の負担は数万円に下がりますが、残りの約9,000万円は国の負担となります。国としては、この費用を一人のために支払ったとして、国民全体に利益があるかを計算します。皆さんはどうお考えになりますか? 人生の終わりまで健康な視力が維持できたと仮定すると、障害福祉に頼ることもなく、税金も十分に払い、9,000万円の元は取れるかな、と皮算用するかもしれません。
もうちょっとシビアな例を。光覚弁もない状態から、視力0.05まで改善する治療があったとします。光も感じられないところから、ぼんやりと物が見える感じでしょうか。かかる費用は500~1,000万円としましょう。当事者としては大きな変化と思います。ただ、依然として重度の障害者です。ご自身としてこの費用負担はどう思いますか? 国としてはどう考えるでしょうか? また、国に対してどのように働きかけますか?
医療は日進月歩で進んでおり、一部ではありますが、すでに治療が始まっています。
今後は、それらの治療が持つ本当の意味や、現実的な話として「お金」の問題も考えていかなければなりません。あまり考えたくない話もあるとは思いますが、自分に当てはまる治療法が確立したときのために、ちょっとだけ頭を悩ませてみてください。

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