万代 道子 先生
(地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立神戸アイセンター病院)
受賞テーマ「再生医療による黄斑錐体細胞による視機能再建に関する研究」
このたび、第 27 回 JRPS 研究助成をいただくこととなり、JRPS 理事および会員の皆さまには心より感謝申し上げます。
私は神戸の理化学研究所と、現在は神戸アイセンター病院で網膜疾患に対する再生医療の開発研究および臨床研究に携わっています。
視細胞は目の中の網膜という組織の中にあって最初に光を受けとって情報伝達のシグナルに変換する細胞ですが、網膜色素変性という病気ではこの視細胞がだんだんと減っていってしまいます。ES 細胞や iPS 細胞は多能性幹細胞といって、体の中のいろいろな組織や細胞を作り出すことができます。
私たちは、多能性幹細胞から作った視細胞を補うことで、失われた視覚を取り戻す治療開発を目指しています。目の見えなくなったマウスに、多能性幹細胞から作った網膜組織を移植すると、いったん失われていた光に対する網膜の反応が得られるようになり、光がわかるような行動をするようになることがわかりました。その後、2020年に、まずは安全性を確認するために、2 名の患者さんにご協力をいただき臨床研究を行いました。移植した網膜組織は今も安定して生着していて、この細胞治療が安全に実施できることを確認しました。効果の評価としては、今後症例数を増やし、また移植面積も増やしながら、時間をかけて判定していくことになります。また、網膜色素変性は進行性の病気ですので、中心の視力が残っている時に、その周りに元気な細胞を移植することで、少しでも中心部分の変性の進行を抑制できれば、それも目標とする効果になります。
このように、臨床においてはようやく最初の一歩を踏み出したばかりで、まずは光がわかるようになる、ぼやっと視野が広がる、といった効果から期待していますが、さらに治療効果を上げるための研究も進めています。今回の助成金では、より中心部に近い部位での視機能再建を目指しています。網膜の周辺部では複数の視細胞が一つの細胞につながるため、たくさんの細胞が反応しても一つの情報として伝えられるのが、中心部では細胞が 1:1 でつながっており、反応した視細胞の数だけ情報がより細かく伝わります。このような、効率よく信号を伝える視覚経路を再生医療で再建することができるのか、調べていきたいと思います。
これらの研究を通じて、網膜色素変性の患者さんに対して、少しでも有効性の高い治療を届ける日が来ることを願いつつ、今後も努めていきたいと思います。