池田 華子先生(京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター)

京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター 網膜神経保護治療プロジェクト)
受賞テーマ:「網膜色素変性に対する新しい神経保護の開発

私たちは、VCPという蛋白質に対する阻害剤(KUS剤)という、まったく新しい薬に関する開発研究を行なってきました。このKUS剤は、網膜色素変性モデルマウスや網膜色素変性モデルウサギで、視細胞が減少していくことを抑え、網膜電図検査という視力検査においても、治療効果があることが分かってきました。
現段階ではまだ動物実験段階であり、ただちに患者さんに投与することはできません。今後、さらにほかの動物モデルでの検証実験を進め、このKUS剤がどのように視細胞を保護しているのかを明らかにしていきたいと考えています。さらに、KUS剤の安全性などを確認し、まずは、短期に投与することで神経保護効果が確認できる目の病気で安全性に関する臨床治験を予定しています。近い将来に新たな治療薬の一つとして網膜色素変性患者さんに使えるようになれば、と願っています。
また、現在、分岐鎖アミノ酸といって、分岐をもつアミノ酸の配合剤が、網膜色素変性モデルマウスにて、同様に視細胞変性を抑制する可能性があることが、私たちの実験で明らかになりつつあります。今後、この薬剤に関しても、臨床応用に向けて、必要な実験や準備を進めていく予定にしております。
これら薬剤開発に関して、患者さんのご協力なしには進められません。臨床治験に関しまして、詳細が固まりましたら、京都大学眼科学教室のホームページなどでのご案内を予定しておりますのでよろしくお願いいたします。
この受賞を機に、さらに、網膜色素変性の治療法の確立に向けて、頑張っていきたいと思っております。

※「新規神経保護剤により網膜色素変性の進行を抑制することに成功

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五十嵐 勉先生(日本医科大学眼科学教室)

受賞テーマ:「硝子体投与アプローチからの網膜色素変性の遺伝子治療

今回、第19回JRPSの研究助成を受賞することができ、誠に光栄に存じます。私の研究テーマは、硝子体投与アプローチからの網膜色素変性の遺伝子治療という内容です。遺伝子治療が開始され25年経ちました。眼科分野でもレーバー先天性黒内障(LCA)に対するAdeno Associated Virus(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療が開始され治療効果を 示しております。本邦では九州大学においてサルのレンチウイルスベクターに神経保護因子の一つであるPigment epithelium-derived factor(PEDF)を組み込み、網膜色素変性に対して 臨床研究がスタートしています。
これまでの網膜色素変性に対する遺伝子治療は網膜下投与で行なわれてきました。理由として、網膜色素変性の疾患部位である視細胞、色素上皮細胞に直接コンタクトでき遺伝子導入しやすいことや、硝子体投与よりも遺伝子導入効率が高いことが挙げられます。しかしながら、網膜下投与では医原性の網膜剥離を作製するため、視機能の低下をもたらし、特に黄斑部の場合視力低下をもたらすことや、網膜剥離が起きた場所にしか遺伝子導入が生じないことなどのデメリットがあります。網膜色素変性の場合、網膜全体に障害が起こるため、硝子体側より網膜全体に遺伝子導入されることが望まれます。
我々は、安全性の高い、硝子体投与による遺伝子治療の構築を目指します。方法としては、硝子体投与にて遺伝子導入可能な新しいタイプのAAVベクターを用いて神経保護因子を発現させて網膜色素変性マウスに対して治療効果を検討します。また、現在サルに対して手術方法を組み合わせた治療法の開発を行なっています。

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西口 康二先生(東北大学大学院医学研究科)

受賞テーマ:「遺伝子治療による錐体系視覚再建と可塑性の解析

網膜色素変性症はおもに遺伝子の一つに異常があって病気が発症すると考えられています。異常があることにより、遺伝子が十分機能しなかったり、異常機能を示したりして病気が発症するのです。
網膜色素変性症では、病気を起こしうる原因遺伝子がたくさん見つかっています。異常がある原因遺伝子さえ特定できれば、遺伝子治療により正常な遺伝子を網膜細胞に補充してあげることにより、病気を治療することができる可能があります。このような治療方法を遺伝子治療といいます。欧米では、子供のころから強い視力低下を伴った重症な網膜変性患者に対してすでに遺伝子治療の臨床試験が行なわれていて、一定の成功をおさめています。
一方で、遺伝子治療を行なうことにより、これらの患者さんがみな満足する結果が得られたかというと必ずしもそうではありません。一番の問題は、治療により思ったほど視力が回復しなかったことです。遺伝子治療は非常に有力な治療手段だと思いますが、この点は早急な改善が必要であるということになります。
今回の受賞テーマでは、まずは網膜変性を持ったネズミに対して様々な条件で遺伝子治療を行なったあとに、視力を測定します。得られたデータを解析することにより、視力回復に必要な条件を見つけ出したいと考えています。ネズミの視力を測定することは決して簡単なことではなく、ネズミの視覚を、脳波を測定して客観的にする評価する方法とネズミの視覚行動を評価する方法の2つの手法を用いて解析し、課題の解決に取り組む予定です。
私たちは、成果を医療に還元することを目標にして、日々研究活動を行なっています。そして、本研究が、網膜色素変性症患者をはじめとした難治性網膜変性患者の遺伝子治療開発に役立つことを強く願っています。

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国松志保先生 (東北大学病院 眼科)

「高度視野狭窄と自動車事故との関連性」

日本の普通運転免許取得・更新にあたっては、両眼の視力が0.7以上、かつ一眼の視力が0.3以上であれば、視野検査は行なわれません。このため、著明な視野狭窄をきたしていても、中心視力が良好な場合は、運転免許を取得することは十分可能です。しかし、信号機などの道路標識の認識、右折・左折時の歩行者や自転車の確認のためには、中心視力だけでなく、視野もある程度保たれている必要があります。
視野狭窄患者に、運転状況を聞いてみると、「左右の安全確認をしたのにも関わらず、側方からきた自転車と衝突した」「左折時に歩行者と接触してしまった」など、視野狭窄による安全確認の不足が原因と疑われる事故を起こしていることがあります。しかし、今なお、どの程度、どの部位の視野が障害されると自動車事故を起こす危険性が高まるのか、分かっていないのです。
われわれは、速度一定の条件下で、視野狭窄患者が事故を起こしやすいと予想される場面を織り込んだ視野狭窄患者用ドライビングシミュレータ(HONDAセーフティーナビ)を開発しました。これまで、視野障害度が高いほど、自動車事故のリスクが高いことが分かりました。また、リプレイ画面を利用することにより、患者本人や家族に、「なぜ、事故を起こしたのか」を知らせることができました。本研究では、このドライビングシミュレータに視線追跡検査を併用することにより、事故回避に必要な視野範囲・視野感度基準を定めることを目標とします。その結果に基づき、今後は、眼科外来に簡易型のドライビングシミュレータを設置し、事故回避に必要な運転訓練や情報提供といった適切な運転支援の方法を確立し、患者教育指針を作成したいとも考えています。このような研究は、交通事故を削減のためにも、社会的影響も大きく、大変重要な研究と考えています。

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栗原俊英(慶應義塾大学医学部眼科学教室・光生物学研究室)

「網膜色素変性症克服に向けた新規低酸素応答阻害物質の開発」(もうまく基金賞)

現在地球上で生命活動を営んでいる多くの生物は、酸素を使った代謝反応を利用してエネルギーを得ています。酸素がなくなれば、たとえば私たち人間は、数分以内に個体レベルで生命活動が停止して死に至ります。一部の酸素を利用しない微生物(絶対嫌気性生物)を除いて、すべての真核生物は生命を維持するために酸素を必要とします。
そこで、酸素濃度が低下した状態(低酸素)を克服するために、我々生物には「低酸素応答」という生体防御反応が線虫から哺乳類に至るまで備わっています。低酸素応答により、酸素を運ぶインフラを構築するための「造血」や「血管新生」、低酸素状態の脆弱な臓器を守るための「エネルギー代謝」や「細胞増殖・細胞死」「炎症・免疫」などに関わる遺伝子のスイッチが素早く入ります。
また、胎児の時期から体が形作られて生まれてくるまでの間にも低酸素応答は使われています。たとえば、妊娠の中期に差し掛かる頃、網膜では血管が中心から端に向かって伸びはじめますが、まだ血管が来ていない場所から低酸素応答により血管新生の信号を発することによって、網膜血管のネットワークが完成します。
私は10年ほど前から網膜における低酸素応答について研究を続けてまいりました。その結果、網膜の低酸素応答は、胎児の眼が作られていくときも、健康な眼を維持するためにも、いくつかの眼の病気の原因としても重要であることが分かってきました。とくに、異常な低酸素応答が網膜変性を引き起こすことを発見し、低酸素応答をうまく制御することで、網膜色素変性症を治療できる可能性があることが分かりました。そこで、今回決定した助成研究では、低酸素応答を制御するための安全な薬剤の開発および動物モデルを用いた治療効果の確認を行なう予定です。
研究へのご支援にあらためて感謝するとともに、研究成果を臨床応用という形で還元できるよう精一杯頑張ります。今後とも、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

※参考低酸素環境選 択的増殖阻害物質 furospinosulin −1 のア ナ ロ グ 化合物 の 合成 と作用 メ カ ニ ズ ム 解析

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小坂田文隆 先生(名古屋大学 大学院創薬科学研究科)

網膜色素変性における神経回路の再生

私のこれまでの研究と現在の取り組みについて簡単に紹介したいと思います。
私はこれまで理化学研究所の髙橋政代先生の研究室で、視細胞の再生に関する研究に携わってきました。再生治療には薬物治療と移植治療が考えられます。私は薬学研究者なので、手術よりは薬物で治したいと思いました。網膜の中に存在するミューラーグリアが新しく神経細胞を生み出すことが分かっていましたので、ミューラーグリアからたくさんの視細胞をつくることができれば、新しい治療になるのではないかと考えました。その後、Wnt(ウイント)シグナルを活性化する薬物により視細胞を増やせることを見出しました。しかし、それだけでは視機能を回復することはできませんでした。
また、移植についても研究を進めました。最初の関門は、移植のドナー細胞を何からつくるか。大人の海馬の幹細胞や虹彩に存在する色素細胞など、さまざまな細胞から視細胞をつくろうとしました。視細胞に近い細胞はできましたが、自信を持って視細胞と言える細胞をつくることはなかなかできませんでした。しかし、2006年に初めてサルのES細胞から、これは視細胞だと自信が持てる細胞をつくることができました。iPS細胞でも、ES細胞でのノウハウを活かして、すぐに網膜色素上皮細胞や視細胞の誘導に成功しました。しかし、移植実験などを繰り返しましたが、視細胞はなかなか生着しませんでした。
薬物治療と移植治療のいずれにおいても、新しい視細胞が網膜の中で機能しないという共通の課題に直面しました。私はこのまま幹細胞だけを研究していても、いつまで経っても網膜は再生できないと感じました。そこで、神経回路の研究をしなければいけないと考え、アメリカに留学する決心をしました。
アメリカではEd Callaway先生の研究室で、どのように神経回路が働いて、我々はものを見ているのかを研究してきました。その中で特定の細胞がどのような神経回路を形成し機能しているのかを解析する新しい方法をつくることができました。
その後、日本に帰国し、名古屋大学の創薬科学研究科という新設の大学院にて全くゼロから新しく研究室を立ち上げることになりました。今回JRPSにサポートしていただくのは、日本で行なってきた幹細胞の研究に、アメリカでの神経回路の研究を融合させた研究課題です。
今後も研究を積み重ね、視覚を再生する新しい治療法を開発していきたいと考えています。

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松山オジョス武先生 (理化学研究所)

受賞テーマ:「幹細胞由来三次元網膜移植後のホスト網膜とのシナプス接続の解析、および視機能改善のための光刺激の探求」(ライオンズ賞)

神経細胞はひとたび損傷すると再生することができないというのが神経科学の常識でしたが、100年以上も受け入れられてきたこの常識が覆りました。視細胞を失った網膜に幹細胞から調製した視細胞を移植することで光応答を回復することが示され、不可能と思われていた網膜色素変性症に治療の可能性が芽生えています。
視機能の再生が可能であることが示されたものの、同時に多くの課題も見えてきました。視機能を再生するには移植した視細胞(光センサー)とその情報を受け取り光情報を処理する宿主の細胞と「シナプス」と呼ばれる神経接続の形成が必須です。私たちは形成過程あるいは未熟なシナプスも評価できる手法を開発しています。このシナプス評価法を使って移植網膜においてシナプスを増強する因子を探索したいと思っています。特に光によってシナプス形成を影響できるのではないかと考えています。
網膜は光受容に特化した神経細胞ですので、光によって非侵襲性にその活動性を変えることができます。またシナプス形成は神経活動に関連していることが知られているので、光によってシナプス形成を促進することができるかもしれません。また網膜は単純に光を受容するだけではなく、高度な情報処理も行なっています。したがって、移植細胞の光応答もこの情報処理網に取り込まなくては高度な視機能の回復は期待できません。この網膜の光情報網も、光依存的な活動で再編成を促すことができるかもしれません。
網膜の発生や機構にはまだまだ分からないことがたくさんあり、複雑であると同時にさまざまな状況に対応できるその柔軟性に脅かされます。この機構を理解しその柔軟性を少し後押しすることができれば、より複雑な視機能再生も可能となるでしょう。少しでも網膜の再生医療が効果的になるよう研究に励みたいと思います。

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神田 寛行先生(大阪大学大学院医学系研究科)

受賞テーマ:「人工知能(deep learning)の人工網膜への応用」

研究助成を受けることができ、たいへん光栄に思います。私の研究は人工網膜の機能向上を目指したものです。
人工網膜とは、失われた視機能を電子機器で取り戻すことを目的とした医療機器です。目の代わりに小型カメラで正面の映像を取り込み、電子回路でその映像を解析して、目の中の網膜の中に残っている神経細胞に微弱な電気信号を伝えることで、人工的に光感覚を作り出します。
各国で人工網膜の研究開発が進められており、海外ではすでに医療機器としての販売が承認された製品もあります。日本でも、大阪大学の不二門教授をリーダーとした研究プロジェクトにて国産の人工網膜の開発が進められており、私もこのプロジェクトメンバーの一員として人工網膜の機能向上を目指した研究にたずさわっています。
現状の人工網膜は、海外の製品も含めてまだまだ発展途上の段階です。特に人工網膜の解像度は正常の網膜に比べてとても低いです。このような低画素の視覚では、物の位置は把握できても、いま見えている物が何なのか正確に認識することが難しいです。でも、事前に目の前に何があるのかを知らされていれば、その認識がだいぶ楽にできるようになります。たとえば、前もって「今、テーブルの上に茶碗と箸があります」と言葉で伝えられていれば、その明るさや大きさの違いからどちらがお箸でどちらが茶碗かを認識することができるようになります。
問題は、事前に状況を伝える作業を誰が行なうのかということです。私は、この作業を人工知能に行わせることを考えました。
具体的には、人工知能の技術の一つであるDeep Learningを利用して、人工網膜に映る映像が何なのか音声であらかじめ伝えるシステムの構築を目指します。将来は、それを人工網膜のシステムに組み込むことを目指します。
この研究を通じて、より生活に役に立つ人工網膜の実現を目指していきたいと考えています。

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渡辺すみ子先生(東京大学大学院医学系研究科)

受賞テーマ:EYS遺伝子変異が引き起こす網膜色素変性症のメカニズムの解明と創薬戦略の構築」

今回、「EYS遺伝子変異が引き起こす網膜色素変性症のメカニズムの解明と創薬戦略の構築」というテーマで研究助成をいただくことになり誠にありがとうございました。たいへん光栄に思っております。
私は網膜の形作りについて、どのような遺伝子やタンパク質が関わって進むのか基礎研究を進めてきました。基礎というのは、医学部の研究において臨床研究に対して呼ばれることが多いのですが、病気がどうして起こるのか? それを理解するには、まず正常の状態をきちんと理解することが大切だ、という考えのもとに行なわれている研究と言えるかと思います。
私たちは、網膜や眼がどのようにしてできてくるのか、ということを、iPSを含む細胞や、マウス、時にはサルを用いて研究を進めてきました。そしてこの数年間は、網膜がいったん作り上げられたのち、それを維持する機構について遺伝子の働きから理解しようという研究を中心にしています。
維持の機構がうまく働かなくなった状態が網膜変性であり、その変性に特定の遺伝子の変異が原因になっているのが網膜色素変性症であると思います。私たちは、最も頻度が高く変異を起こしているEYS遺伝子に注目し研究を進めようと計画していますが、EYS遺伝子に変異が起こると一度できた網膜がどうして維持されないのか、他の遺伝子やタンパク質への影響、あるいは微細な構造の変化をiPS、動物モデルを駆使して検討し、明らかにすることが目標です。
疾患研究は基礎研究者だけでは進みません。臨床の先生方のご協力はもちろん、皆さまのご協力もとても重要です。例えばiPS細胞を作るために血液をご提供いただき研究を進めていますが、こうした直接的な例のみならず、研究が進むことを期待してくださる方々の熱意は私たちに大きな力を与えてくれます。この3者が力を出してこそ、迅速に、そして着実に研究が進み、創薬につなげることができると信じています。
精一杯頑張って研究を進めていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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第8回研究推進委員会(Wings)通信

研究推進委員会(Wings)通信(第8回)
■Wings研究者インタビュー 第7回
弘前大学中澤満先生に聞く
~カルシウム阻害薬を用いたRPの進行抑制~

弘前大学医学部眼科の中澤満先生はニルバジピンなどのカルシウム阻害薬やカルパイン阻害ペプチドにより、視細胞の細胞死を遅らせる研究をされています。これまでの研究成果を伺いました。

問:まずRPに対するニルバジピンの効果について簡単にご説明いただけますでしょうか。
答:神経細胞が死ぬときには細胞内のカルシウムイオン濃度が高まることが知られています。そこでカルシウムイオン濃度を下げれば、視細胞が死ぬのを抑えられるのではないかと考えました。ニルバジピンはアステラス製薬の前身、フジサワ薬品で開発されたカルシウム拮抗薬で、高血圧の治療薬として使われています。ほかのカルシウム拮抗薬に比べ、脳や網膜の細胞の中に入り込んでいく性質があります。異なった3種類のRPモデル動物に投与して効果を調べたところ、いずれのタイプでも、網膜変性の進行を遅らせる効果がありました。
問:RP患者に実際に投与する臨床研究を実施されたとお聞きしていますが。
答:約40人の患者さんを、薬を飲む人と飲まない人の2群に分け、ハンフリー視野計で中心10度の視野感度を平均で約5年間追跡し、病気の進行速度を調べました。その結果、平均で見ると、薬を飲んだ人のほうが進行速度が有意に遅いことが分かりました。視野感度の悪化の程度が約半分でした。ただ個別の例で見ると、ばらつきがあるという印象でした。飲んだ人でも進行する人もあり、飲まない人でも進まない人がいるということです。
問:それは投薬前の経過と比較してもそうなのですか?
答:飲まなければもっと悪くなったかもしれませんが、それは分かりません。
問:薬が相当効いているような印象を受けますが、被験者の数を増やして治験をやれば有効性がもっと確実に証明される可能性はありませんか?
答:製薬会社に検討してもらったところ、大規模な試験が必要であり、当面治験実施は困難との判断でした。採算性ということがあるかもしれません。
問:治験実施で薬の承認を得るという見込みは立っていないということですね。治験がもうすぐ始まるのではないかと期待していたのですが。
答:期待があるということであれば、もっと気を引き締めてがんばりたいと思います。
問:次にカルパイン阻害ペプチドのご研究についておたずねします。これまでの研究で分かったことを解説していただけますでしょうか。
答:細胞内のカルシウム濃度が高くなって細胞が死にますが、このときカルパインというタンパク質が活性化されてDNAにシグナルを送ります。カルパインの作用を阻害すると、結果的に細胞死を抑えることができると考えられます。
カルパインの活性化には別のタンパク質と結合することが必要ですが、この結合を阻害するペプチド分子のアミノ酸配列を明らかにしました。分子量が2000くらいです。そのくらい小さい分子だとラットの場合点眼で網膜に到達します。2種類の違ったRPモデルラットに対してこのカルパイン阻害ペプチドを点眼し、網膜変性を遅延させる効果があることを確認しました。大きな眼球のウサギでも点眼で網膜まで到達することが分かっています。眼球の虚血再灌流という動物モデルでは、神経節細胞の細胞死がカルパイン阻害ペプチドの点眼で抑制できることが最近報告されました。細胞死にはカルパインが確かに働いていて、それを阻害することにより細胞死を遅延させられることが証明されました。
問:臨床応用への見通しはどうですか?
答:手術や注射などをせずに、点眼だけでヒトの網膜に作用させることができれば非常によいと思います。現在ヒト型のカルパイン阻害ペプチドをつくって、ヒトの細胞死を抑制するかどうか、培養細胞を使って確認しようとしています。患者さんの細胞からつくったiPS細胞由来の網膜細胞で試験ができればとてもよいです。
問:研究が進んで臨床応用が可能となるよう大いに期待したいです。最近、臨床研究・治験に入りそうだという話をよく聞くようになってきました。患者がどういう形で臨床研究、治験を後押しできるとお考えですか?
答:臨床研究、治験ということになれば、被験者として参加してもらうことがなによりありがたいことです。

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