研究助成受賞者は今(第9回)

第9回 菅野 江里子(2009年・第13回受賞)
岩手大学 理工学部 生命コース 准教授

2009年度JRPS研究助成を「チャネルロドプシンによって得られる視覚特性」で受賞させていただきました。研究にご支援とご助言をいただきありがとうございます。紆余曲折を経て、現在、新規チャネルロドプシンを用いた臨床試験に向けて、準備を行なう段階まで来ることができました。本臨床試験は製薬会社の方に委ねられておりますので、今後JRPSの方を通して、情報が参ると思います。私の方から、一つの情報としてお伝えするとすれば、臨床試験では、研究および治療の第一線の先生方が進めていただける予定です。このことについて、私たちも大変光栄に思っております。
チャネルロドプシンは、緑藻類のもつ光を受け取るタンパク質です。このタンパク質のすごい点は、一つのタンパク質が光を受け取ること、それに応じて細胞内にイオンを流し込むこと、という2つの仕事をする点です。これまでこういうタンパク質は発見されていませんでした。このタンパク質を視細胞が消失してしまった後にも生存する網膜神経節細胞に作らせると、光に応じて神経節細胞が興奮を伝えるようになります。すなわち視細胞の代わりをしてくれるようになります。
JRPS研究助成をいただいた2009年頃までは、クラミドモナスのチャネルロドプシン(ChR2)を研究していました。しかし、特許の取得において米Wayne State UniversityのDr.Panに先を越されてしまいま
した。特許を持っていないと、会社はもちろん、公的機関も開発を支援してくれません。私たちはChR2の弱点を知っていました。青色しか光情報を受け取れないのです。そこで、赤・緑の情報も受け取れるようにチャネルロドプシン(mVChR1)を新たに創り出しました。そして、今度は特許を日本・アメリカ・EUで抑えることができました。この可視光全域の光情報を受け取れるmVChR1を実際にデザインしたのは、私の長年の師である岩手大学の冨田教授です。そして、チャネルロドプシンを網膜色素変性症の治療に使えるのではないか、と研究のイニシアチブを当初から執っていただいたのが、前東北大学教授、玉井信先生です。このお二人がいなければ、生み出されなかったことと思います。
実際の治療法は、mVChR1タンパク質を網膜神経節細胞に作らせるために、mVChR1の遺伝子を運び屋といわれるウイルスベクターに入れて、細胞内に遺伝子を運ばせます。ウイルスというと、怖い気がしますが、使用するアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)
は、すでにレーバー先天盲にも使われています。日本でも小児神経難病のAADC欠損症にも使用されました。
これまでの研究で、網膜色素変性症のモデル動物であるRCSラットの硝子体内にAAVを投与すると、約2ヵ月でmVChR1のタンパク質が作られるようになり、その後ラットの場合は寿命である2歳半まで機能が続いていることを明らかにしています。また、血液検査や臓器への影響などを調べて安全性を報告しております。
私たちはこれからも網膜色素変性症を克服するための研究を続けていきます。今後とも、JRPS会員の皆さま、関係の先生方、ご助言を賜りますよう、よろしくお願いします。

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Wings ひとくちコラム
第7回 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の役割とは?

RP患者を対象とする治験が具体的日程にのぼってくるようになり、医薬品医療機器総合機構(PMDA)という公共機関の名前を耳にする機会が多くなりました。PMDAはいったい何をするところでしょう。
主要な業務のひとつは「医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査する」こととされています。
新しい医薬品や医療機器を実際に患者のもとに届けるには、国の製造・販売承認を受けなければなりません。そのために「医薬品医療機器法」によって定められたルールに沿って治験が行なわれます。治験が終了すると、結果が一定の基準により審査され、承認・不承認が決定されます。これを行なうのがPMDAです。承認審査業務はPMDA内部の審査員だけでなく、必要に応じて外部の専門医、専門家の協力も得ます。
PMDAは審査だけでなく、治験開始前から、申請者である企業や医師の相談にのり、治験計画が科学的、倫理的に問題がないか助言を行ない、スムーズに治験が実施されるようにします。最近は治験活性化の国の方針により、審査員が従来の4倍近くの約1000人に増員されるなどして審査に要する時間も短縮されてきました。安全で有効な新薬、医療機器を早く患者に届けるためにも、相談体制を含め、一層の充実を望みたいところです。

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第7回Wings ひとくちコラム

医薬品医療機器総合機構(PMDA)※の役割とは?

る治験が具体的日程にのぼってくるようになり、医薬品医療機器総合機構(PMDA)という公共機関の名前を耳にする機会が多くなりました。PMDAはいったい何をするところでしょう。
主要な業務のひとつは「医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査する」こととされています。
新しい医薬品や医療機器を実際に患者のもとに届けるには、国の製造・販売承認を受けなければなりません。そのために「医薬品医療機器法」によって定められたルールに沿って治験が行なわれます。治験が終了すると、結果が一定の基準により審査され、承認・不承認が決定されます。これを行なうのがPMDAです。承認審査業務はPMDA内部の審査員だけでなく、必要に応じて外部の専門医、専門家の協力も得ます。
PMDAは審査だけでなく、治験開始前から、申請者である企業や医師の相談にのり、治験計画が科学的、倫理的に問題がないか助言を行ない、スムーズに治験が実施されるようにします。最近は治験活性化の国の方針により、審査員が従来の4倍近くの約1000人に増員されるなどして審査に要する時間も短縮されてきました。安全で有効な新薬、医療機器を早く患者に届けるためにも、相談体制を含め、一層の充実を望みたいところです。
※本ホームページのリンクの項目の中に紹介察れています。

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第21回JRPS研究助成受賞者決定のお知らせ

第21回JRPS研究助成受賞者は、JRPS研究助成学術審査委員会の厳正なる審査の結果、以下の3名に決定いたしました。

渡辺すみ子 (東京大学)
「EYS遺伝子変異が引き起こす網膜色素変性症のメカニズムの解明と創薬戦略の構築」

神田寛行(大阪大学)
「人工知能(deep learning)の人工網膜への応用」

松山オジョス武 (理化学研究所) ・・・ライオンズ賞
「幹細胞由来三次元網膜移植後のホスト網膜とのシナプス接続の解析、および視機能改善のための光刺激の探求」

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第20回 RI世界大会旅行ツアーは、取りやめとなりました。

7月末にお送りいたしました会報129号に掲載しましたが、来年2月初旬にニュージーランドでRI世界大会が開催されます。参加される方のための旅行ツアーは、募集締め切りの10月13日までに、最小実施定員に達しなかったため、残念ながら取りやめとなりました。

 

なお、RI世界大会のプログラムについては、別途、ご紹介いたしております。

 

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今年2017年から、9月23日が「網膜の日」に!

☆「網膜の日」が記念日になりました!

「網膜の日」は、網膜色素変性症をはじめ、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症、網膜剥離など、さまざまな網膜の病気についての理解を深め、そうした疾患を抱える人たちとともに生きる社会づくりを考えていくため、今年2017年に制定され、日本記念日協会から認められた国民的な記念日です。
2017年9月30日(土)、公益社団法人日本網膜色素変性症協会が主催する「世界網膜の日 in 宮城」(会場:仙台市福祉プラザ)にて認定授与式が行われます。その後、全国各地で「網膜の日」の普及に向けた活動を展開していきます。

☆なぜ9月23日?

9月23日は、昼と夜の長さがほぼ同じになります。そしてこの日を境に、夜が長くなっていき、暗い時間が増えていくことになります。
「明るさ」は、網膜の病気の抱える人たちにはとても重要です。夜が長くなると、歩ける時間がどんどん短くなります。仕事に行けなくなることもあります。網膜が病気に侵されると、明るい昼間の長さということがとても重要になります。そのため、この日を「網膜の日」と定めたのです。

☆網膜の病気になると・・・。

私たちの眼の奥には「網膜」という光を感じる膜があります。
網膜が冒されると、モノがゆがんで見えたり、視野の中心が黒く曇ったり、目がぼやけるなどの症状が出ます。また、暗いところで見えにくくなったり、視野が狭くなったりするため、日常生活に支障が出てきます。ところが、網膜の病気を抱えていても、周りの人からは分かりにくいため、十分な理解が得られなかったり、いわれのない差別を受けることもあります。

☆網膜の病気を抱えた人たちと生きるために

目の不自由な人が持っている「白杖(はくじょう)」。これは、まったく目が見えない人だけが持っているわけではありません。網膜の病気を抱えた人の「見え方」や病気の進行度合いはさまざまで、実際に五円玉の穴ほどしか見えていなかったり、ものがゆがんで見えたり、スマホを見ることができても、白杖を使わないと安全に歩くことができないのです。 しかし、そうしたことを知らない人から、「見えているのに、見えないふりをしているのでは?」と思われ、非難を受けることも少なくありません。
私たちは、「網膜の日」をきっかけに、網膜の病気を理解し、病気を抱えた人たちとともに生きてくために何ができるかを考えていくことが必要なのです。

【公益社団法人 網膜色素変性症協会】

国の指定難病の一つに指定されている「網膜色素変性症」ならびにその類縁疾患の治療法確立と患者のQOL(生活の質)向上を目指して活動しています。
問合せ:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会「網膜の日」事務局
TEL : 03-5753-5156 Eメール:info@jrps.org

PDF資料は、コチラです。

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◇学術研究助成受賞者は今(第8回)

第8回 森本 壮(2012年・第16回受賞)
大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 准教授

2012年度JRPS研究助成を研究テーマ「網膜色素変性に対する経角膜電気刺激治療の臨床応用」で受賞いたしました。
研究の発端は、大阪大学を中心として、2001年から開始した人工網膜の研究の過程で、電気刺激そのものが網膜や視神経に対して神経保護効果があることが分かり、その後、電気刺激治療の臨床応用に向けて、安全性の高い刺激装置の開発や刺激方法を検討し、網膜色素変性症の患者さんや難治性の視神経症の患者さんに対して臨床試験を行なっていました。
当時、皆さまから研究助成をいただいたおかげで、研究費が充実し、治療に必要な物品や消耗品を購入することができ臨床試験を遂行することができました。また、受賞したことで患者さんの病気を治したい、見えるようになりたいという思いをより強く感じるようになり、研究を推し進める力となりました。
現在、臨床試験は終了し、治療効果について検討しているところです。治療を受けた患者さんの多くが、視力や視野の感度は、治療を受けた後もあまり変化はなかったけれど、治療を受けている時は今より見え方がよかったと言われており、今後、新たな臨床試験を行なう予定ですが、臨床研究、特に患者さんを治療する介入研究については、基準が厳しくなり、費用や人員も必要になっており試験を行なうための準備がたいへんになっている状況ですが、なんとか一般の医療になり、最寄りの眼科医院で治療を受けることができるようになればよいと考えます。
現在は、日本の人工網膜プロジェクトのリーダーである不二門教授の元で人工網膜の研究を行なっています。今年度末(2017年度末)頃から大阪大学、杏林大学、愛知医大の3施設で網膜色素変性症の患者さんを対象に人工網膜の臨床研究を予定しており、現在、候補となる患者さんの診察と検査を行なっています。それとともに、次世代の人工網膜の開発も行なっています。次世代の人工網膜は、従来の1枚電極の欠点である視野の狭さを補うために、2枚の電極を備えており、これによって従来の1枚電極よりもより広い視野を得ることができます。これでもまだ不十分ですが、今後、さらに電極枚数を増やしてより、広い視野で患者さんの生活に役立つような人工網膜を開発していきたいと考えております。
また、現在は、人工知能(AI)の技術やさまざまな「モノ(物)」がインターネットに接続され、(単につながるだけではなく、モノがインターネットのようにつながる)Internet of Things(I oT)の技術が発展してお
り、それらの技術を組み込んだスマート人工網膜を開発し、単に視覚を再建する機器としての役割以外に患者さんの安全や生活の質の向上につながるような機器が開発できたらいいと考えております。
このようにまだまだ、人工網膜の研究開発に解決すべき課題が多く、いつか、スマート人工網膜を開発し、国に認可され、希望された患者さんが自由に埋植手術を受けることができるような時代が来るように研究を進めていきたいと考えております。皆さま方には、今後ともご協力、ご支援をお願い申し上げます。

(次回は、岩手大学 理工学部 生命コース 准教授・菅野恵理子先生です)

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第6回Wings ひとくちコラム

臨床試験への患者参画元年

2017年6月10日、JRPS代議員会に先立って東京大学医科学研究所の武藤香織先生による特別講演「患者にとっての臨床試験の意味を問い直そう」がありました。個々の患者が被験者として臨床試験に参加するときの心構えをまず話された後、今年は患者の臨床試験参画の元年であり、臨床試験のあり方に患者の立場からものを言うことが強く求められていると強調されました。
じつは日本以外の多くの国では患者の意見を聞かなければならないというルールがあります。臨床試験のデザイン、試験を始める際の説明文書の中身、試験終了後の結果報告、とにかくいろんな段階、場面で患者に意見を聞くというのが、欧州やアメリカでのルールです。日本でも医学研究費の配分を統括している日本医療研究開発機構(AMED)の音頭で患者市民参画委員会ができ、今年の夏から検討が始まります。具体的には、患者から見て望ましい臨床試験のやり方、あるいは意見の言い方、結果がどういう形で還元されるのかなど、1年間かけて検討されます。そして研究費の配分の際、研究者は患者の意見を聞いたかどうかが問われるようになるかもしれません。われわれもこれにどう答えていくかが問われています。

※特別講演録音データ希望会員は本部事務局までご連絡ください。

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世界網膜の日 in 宮城2017 (9/30~10/1)開催のご案内

平成29年9月30日~10月1日、仙台市福祉プラザ2階ふれあいホールにおいて「2017 世界網膜の日 in 宮城」が開催されます。主催者として「世界網膜の日」は「網膜色素変性症」を広く社会に認知していただくための重要な機会として、さらに、研究者から患者へ、患者から研究者へのメッセージを伝える重要な場であると考えています。

2017年9月30日(土)10:00~16:30
会場/仙台市福祉プラザ2階ふれあいホール

〒980-0022 仙台市青葉区五橋2丁目12-2 Tel:022-213-6237
市営地下鉄南北線「富沢行」に乗車1分「五橋駅」下車
南1番出口徒歩3分

プログラム

10:00~ 受付
11:00~ アトラクション 「仙台すずめ踊り」
「仙台ガブリエルブラスの楽器演奏」
12:00~ 昼食
13:00~ 開会式・第21回JRPS研究助成授与式・受賞者による研究発表
15:00~ トーク&コンサート「シンガー・ソングライターさとう宗幸さん」
・・・・・・・・・・・・(会員ページにて紹介させていただいています)
16:00~ 次年度開催地への引継ぎ
16:15~ 閉会式
16:40~ 懇親会会場(ホテル松島大観荘)へバスで移動します。

【申し込み及び大会内容に関するお問い合わせ】
実行委員会事務局:小岩赳夫
電話・FAX:022-258-2808
メール:hukutake@ams.odn.ne.jp

 

一泊懇親会と日本三景松島見学ツアーのご案内

一泊懇親会と日本三景松島見学ツアー参加希望の方は、各都道府県協会ごとに、まとめて上記申し込み先に締め切りまでにお申し込みください。
※申込期間 2017年4月1日(土)から7月31日(月)
※個人での参加も大歓迎です。

懇親会 会場 ホテル松島大観庄    宿泊料金について
9月30日(土) 一泊懇親会+朝食付きの料金は以下の通り(バス代込)
☆ シングル 1名室   21,000円
☆ ツイン  2名室   20,000円
☆ 和洋室  5名以上    19,000円
☆ 懇親会のみ参加    12,000円
◎ 宴会は丸テーブル6名〜7名
◎ 和食中心のお料理です。

日本三景松島五大堂・瑞巌寺・松島遊覧の見学ツアー
10月1日(日)
一泊懇親会のみの方は、仙石線松島海岸駅から乗車。
なお、駅までシャトルバスが出ます(徒歩で10分です)。
日本三景松島五大堂・瑞巌寺・松島遊覧コース
会費 7,000円(昼食、バス代含む)
9:00 ~  ホテル出発
9:10 ~  五大堂及び瑞巌寺見学
10:35~ 遊覧船乗り場集合
11:00~ 乗船し島めぐり。塩釜港へ
11:50~ 塩釜埠頭到着。バスで「武田の笹かまぼこ」へ
12:00~ 昼食(伊達な塩釜御膳)、お買いもの
13:20~ バス乗車し、JR仙台駅東口へ
15:00  仙台駅東口到着予定(解散)

世界網膜の日in宮城チラシpdf

世界網膜の日in宮城チラシ(裏側)pdf

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研究推進委員会(Wings)通信(第10回)

■研究推進委員会から要望発信

2017年2月2日、加齢黄斑変性患者を対象としたiPS由来細胞移植の臨床研究開始が厚労相から承認されました。研究開始にあたり、東京大学医科学研究所・武藤香織先生を通じて、マスメディアを含む関係者宛てに以下のような要望書を発信しました。
★本年2月、滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植の臨床研究が理化学研究所はじめ4施設の共同により開始されたとお聞きしています。われわれ網膜色素変性症患者を対象とした臨床研究開始も近いとの期待から、このたびの臨床研究にも大きな関心をもって見守っているところです。一人ひとりの研究参加者の術後の経過がどのようなものになるか、とても気になるところです。
一方で、今回研究に参加される方々が過度な注目にさらされるのではないかと心配していることも事実です。プライバシーが守られ、落ち着いた環境の下で研究参加ができるよう願っています。
また、近い将来、同様な移植治療の臨床研究が始まることを期待している患者としては、先行研究の評価が正しく行なわれることが何よりも大切であると感じています。初期段階で、個々の被験者の断片的な体験や経過が一般に広まることにより、研究の評価に影響が及ぶのではないかと、危惧している次第です。研究の途中経過を知ることより、落ち着いた環境で一日でも早く研究が進むことを希望しています。
以上のようなわれわれの心配、危惧を今回の臨床研究参加者やマスメディアを含め、関係者の皆さまと共有できればと思います。

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◇学術研究助成受賞者は今(第7回)

第7回 角田 和繁(第15回受賞)
独立行政法人国立病院機構東京医療センター
臨床研究センター視覚研究部

受賞テーマ:オカルト黄斑ジストロフィーの原因解明に向けて

オカルト黄斑ジストロフィーは、徐々に視野の中心部が次第に見えにくくなり、視力が低下していく黄斑変性症です。常染色体優性遺伝のため、親から子供へと遺伝する可能性のある疾患です。網膜色素変性症などと異なり眼底検査で異常が見られないため診断が難しく、この疾患の病態については長いあいだ分からないことが多くありました。このたびの研究助成により、オカルト黄斑ジストロフィーについてさまざまな点が明らかになりました。そのひとつは、これまでオカルト黄斑ジストロフィーと診断されてきた症例の中には、RP1L1という遺伝子の異常があるタイプとないタイプが見られ、両者は全く異なる疾患であるということです。現在のところ、オカルト黄斑ジストロフィーの発症に関与する遺伝子として知られているのはRP1L1のみです。この遺伝子の関与が見られないタイプの多くには、網膜内層異常、網膜微小血管異常、網膜の局所炎症などが関与している可能性があります。われわれは、RP1L1遺伝子の異常によって生じる黄斑ジストロフィーを、発見者の三宅養三教授にちなんで「三宅病、Miyake’s disease」と命名しました。その後、オカルト黄斑ジストロフィーは厚労省の指定難病(301、黄斑ジストロフィ)に指定され、診察にあたって医療補助が受けられるようになりました。
オカルト黄斑ジストロフィー以外にも網膜には数多くの遺伝性疾患が存在しますが、現在のところ通常に使用できる治療法はありません。しかしこれまでに多くの治療法が研究され、欧米を中心に進行中の臨床治験も数多く存在します。治療法の多くは、特定の遺伝子異常や病態に対象を絞って治療効果を高める、Precision medicine(高精度医療)と呼ばれる方法です。そのためには、遺伝性網膜疾患の原因の調査を、幅広い病態を対象として、しかも全国的に行なうことが将来の治療導入に向けて不可欠な課題であります。ただし、欧米人と遺伝的背景が異なる日本人においては、網脈絡膜疾患を有する患者さんの半数以上でいまだに原因が特定できていないのが現状です。
現在東京医療センターでは、遺伝性網脈絡膜疾患・視神経疾患(27分類)について、全国の主要な大学や研究施設と連携して疾患の臨床情報(年齢、発症、経過、各種画像等)および遺伝情報を集積するプロジェクトを行なっています。すでに1200例を超える症例が登録されており、治療導入に向けた国内最大のデータバンクが完成されつつあります。将来的にはこれらのデータをもとに、新規治療の対象疾患、対象患者が効率的に選択され、実際の治療に役立つことを目指しています。
これらの研究はすべて全国の多くの患者さまのご理解、ご協力によって支えられてきました。今後も遺伝性網膜疾患の克服に向けて少しでもお役に立てるよう努力を続けて参りたいと思います。(20170328)

(次回は、大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 准教授・森本 壮先生です)

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