[11月の課題]
〜光を失って手にした五七五〜
10月1日に、3年ぶりの「川柳塔まつり」で講演をしました。私は講演をする場
合、項目を立てたレジュメだけ作って、原稿は書きませんが、『川柳塔』11月号に
掲載するので事前に原稿がほしいとの要望があり、頭の中をコピーして要約をしたの
が以下の原稿です。これで35分しゃべりました。(原稿は27字/行×90行)
なお、当日の出席者は、例年の3分の2の205名でした。
光を失って手にした五七五
RP−net川柳会 山本 進
■私は一昨年の箱根駅伝は創価大の一〇区・嶋津雄大君に注目していました。二人を
抜いて九位でゴール。区間新記録。翌年は四句で日本人トップの区間二位、創価大は
準優勝。今年はまたも四区で六人抜きの区間賞。創価大は七位で、三年連続のシード
憲を獲得。実は、彼は私と同じ眼の難病・網膜色素変性症(RP=Retimitis Pigmen
tosa)の患者です。
■RPは国の指定難病三三八の一つで、夜盲、視野狭窄、視力低下、羞明が主な症状
です。私は三六歳の時、帰宅時に勤務していたLNG工場の側溝にはまったことがき
っかけで眼科を受診し、RPと診断されました。そう言えば、以前から暗い所で見に
くかったり、事務所のゴミ箱を蹴飛ばしたり、車の運転中に電柱やトンネルの側壁に
ぶつかりそうになったり、文字が欠けて見えたりしていました。眼科医から「この病
気は遺伝子の病気で、現在治療法はありません。将来失明するかもしれません」と引
導を渡されました。
それから三七年。現在では@iPS細胞による再生移植治療 A人工網膜の開発
B遺伝子治療 C薬物治療等、各分野で治療研究が進んでいますが、未だ実際の治療
法はありません。治療法の開発は寿命との競走になっています。
■眼科医の診断どおり、RPは徐々に進行。文字を拡大しても読み辛くなり、仕事に
も支障が出て、満五〇歳の誕生日に退職。退職したものの、何もすることがなくぶら
ぶらしていると、家族から毎日のように、将来失明しても一人で生活できるように、
日常生活訓練を受けるよう催促され、しぶしぶ日本ライトハウス視覚障害者リハビリ
テーションセンターに入所しました。白杖による歩行訓練、パソコンの技能修得、点
字の読み書きを中心に一年間の寮生活を送りました。ここでは点字とパソコンについ
て少し触れてみましょう。
皆さんは、視覚障害者といえばほとんどの人が点字の読み書きができると思ってお
られませんか。二〇年前の調査では点字利用率は一〇・六%。その後、視覚支援学校
の生徒・学生の減少や中途視覚障害者の増加、IT機器の普及などによって、今では
一〇%を割っているかもしれません。
次に、一マス六点で「いろは四六文字」が表せるのか。数学の組合わせの公式を使
って計算すると、六点で六三通りの組合わせがあります。これで十分なのです。
さらに、「弁憲がな、ぎなたを持って」と、句切る所を誤って読む「ぎなた読み(
弁慶読み)」を防ぐために、仮名が並ぶ点字には、「マスあけ」というルールがあり
ます。
また、墨字と同じように、点字にも「漢点字」と「六点漢字」という二種類の漢字
が考案されています。ただ、非常に複雑なので、五〇年経った今も公認されていませ
ん。私は三マスで一つの漢字を表す六点漢字を覚えました。パソコンのアプリを使っ
て川柳を書くのに重宝しています。
私はパソコンは点字入力。FJをホームポジションにして、その周辺のキーを七本
の指で操作すればほとんど入力できます。それに、六点漢字を使えば変換キーを使わ
ず一発で漢字が出てきます。今では頭より指の方が賢くなっています。
■話は少し前に戻りますが、RPが進行し出した四〇歳過ぎに、このままでは好きな
読書や金剛登山ができなくなる、何かそれに代る趣味はないかと探していた時に出会
ったのが毎日新聞の中畑流万能川柳でした。私にも簡単にできると勇んでハガキを出
しましたが、全く掲載されません。郵便局員がちゃんと配達していないのではないか
と本気で疑ったこともありました。しかし、その冤罪が晴れる時が漸くやって来まし
た。「長電話並んだ列が悪かった」。それをきっかけにどんどん載るようになりまし
た。そして、退職後は番傘に投句したり、各地の句会に参加するようになりました。
私が句会に参加する時は、兼題の句をパソコンで書いて印刷して会場へ持参、ガイ
ドヘルパーさんに句箋に清書してもらいます。その間に席題を作句して6Bの鉛筆で
メモ用紙に横書きします。途中で止まると、文字が重なったり空白ができるので、句
は一気に書き上げます。皆さんも6Bをお使いのようですね。こんな句がありました
。「6Bで川柳を書く眉も描く/居谷真理子」。
■一方、日常生活訓練を受けて自信を付けた私は、病気を受容できるようになり、患
者会にも参加し、役員を引受けるようになりました。一〇年余り患者会活動を続けた
後、RPの仲間に声をかけ「RP−net川柳会」を一〇数名で発足させました。そ
れから一一年、今や七二名の会員を擁する句会に発展しています。視覚障害者八〇%
、晴眼者二〇%です。eメールで毎月句会をやっています。途中から「もやい傘」(
相合傘の意)というペットネームを使っています。
■では最後に、視覚障害者に因んだ文芸・文学を三つご紹介しましょう。まず、古川
柳の「百人で九九人は蛇に怖じ」という句。裏に百人一首が隠されています。百人の
歌人の中に一人だけ蛇に怖じない人、つまり視覚障害者がいるというわけです。それ
は蝉丸です。二つ目は、著名な作家の手になる視覚障害者が主人公の小説。@さだま
さし著『解夏』(ベーチェット病の男性小学校教諭) A宮尾富子著『蔵』(RPの
酒蔵の娘) B浅田次郎著『めぐりあい』(RPの女性マッサージ師)。いずれも感
動的なドラマです。三つ目は、琵琶法師。平安時代中期に現れた盲目の僧体芸人で、
鎌倉初頭に街角で、琵琶の音に合わせて平家物語を語っていました。現在「平曲」に
は前田流が残っていますが、私は‘講談調山本流’で「祇園精舎」のくだりを二分間
語ってみましょう。
〜最後までお付合いいただき、ありがとうございました。
それでは、例によって上記の中から出題します。
■2022年11月(No.136)
題:「空白」 (航太郎 選)
題:「読書」 (禮子 松延太郎 共選)
題:「暗い」 (進 選)
(各題2句出し)
◎今月の締切:11月24日(木)正午必着
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