■研究者面談報告 第7回

■Wings研究者インタビュー 第7回
弘前大学中澤満先生に聞く ~カルシウム阻害薬を用いたRPの進行抑制~

弘前大学医学部眼科の中澤満先生は、ニルバジピンなどのカルシウム阻害薬や、カルパイン阻害ペプチドにより、視細胞の細胞死を遅らせる研究をされています。これまでの研究成果をお伺いしました。

—— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ ——

問:まずRPに対するニルバジピンの効果について簡単にご説明いただけますでしょうか。
答:神経細胞が死ぬときには細胞内のカルシウムイオン濃度が高まることが知られています。そこでカルシウムイオン濃度を下げれば、視細胞が死ぬのを抑えられるのではないかと考えました。ニルバジピンはアステラス製薬の前身、フジサワ薬品で開発されたカルシウム拮抗薬で、高血圧の治療薬として使われています。ほかのカルシウム拮抗薬に比べ、脳や網膜の細胞の中に入り込んでいく性質があります。異なった3種類のRPモデル動物に投与して効果を調べたところ、いずれのタイプでも、網膜変性の進行を遅らせる効果がありました。

問:RP患者に実際に投与する臨床研究を実施されたとお聞きしていますが。
答:約40人の患者さんを、薬を飲む人と飲まない人の2群に分け、ハンフリー視野計で中心10度の視野感度を平均で約5年間追跡し、病気の進行速度を調べました。その結果、平均で見ると、薬を飲んだ人のほうが進行速度が有意に遅いことが分かりました。視野感度の悪化の程度が約半分でした。ただ個別の例で見ると、ばらつきがあるという印象でした。飲んだ人でも進行する人もあり、飲まない人でも進まない人がいるということです。

問:それは投薬前の経過と比較してもそうなのですか?
答:飲まなければもっと悪くなったかもしれませんが、それは分かりません。

問:薬が相当効いているような印象を受けますが、被験者の数を増やして治験をやれば有効性がもっと確実に証明される可能性はありませんか?
答:製薬会社に検討してもらったところ、大規模な試験が必要であり、当面治験実施は困難との判断でした。採算性ということがあるかもしれません。

問:治験実施で薬の承認を得るという見込みは立っていないということですね。治験がもうすぐ始まるのではないかと期待していたのですが。
答:期待があるということであれば、もっと気を引き締めてがんばりたいと思います。

問:次にカルパイン阻害ペプチドのご研究についておたずねします。これまでの研究で分かったことを解説していただけますでしょうか。
答:細胞内のカルシウム濃度が高くなって細胞が死にますが、このときカルパインというタンパク質が活性化されてDNAにシグナルを送ります。カルパインの作用を阻害すると、結果的に細胞死を抑えることができると考えられます。
カルパインの活性化には別のタンパク質と結合することが必要ですが、この結合を阻害するペプチド分子のアミノ酸配列を明らかにしました。分子量が2000くらいです。そのくらい小さい分子だとラットの場合点眼で網膜に到達します。2種類の違ったRPモデルラットに対してこのカルパイン阻害ペプチドを点眼し、網膜変性を遅延させる効果があることを確認しました。大きな眼球のウサギでも点眼で網膜まで到達することが分かっています。
眼球の虚血再灌流という動物モデルでは、神経節細胞の細胞死がカルパイン阻害ペプチドの点眼で抑制できることが最近報告されました。細胞死にはカルパインが確かに働いていて、それを阻害することにより細胞死を遅延させられることが証明されました。

問:臨床応用への見通しはどうですか?
答:手術や注射などをせずに、点眼だけでヒトの網膜に作用させることができれば非常によいと思います。現在ヒト型のカルパイン阻害ペプチドをつくって、ヒトの細胞死を抑制するかどうか、培養細胞を使って確認しようとしています。患者さんの細胞からつくったiPS細胞由来の網膜細胞で試験ができればとてもよいです。

問:研究が進んで臨床応用が可能となるよう大いに期待したいです。最近、臨床研究・治験に入りそうだという話をよく聞くようになってきました。患者がどういう形で臨床研究、治験を後押しできるとお考えですか?
答:臨床研究、治験ということになれば、被験者として参加してもらうことがなによりありがたいことです。

 

Wings ひとくちコラム
第4回 ゲノム編集によるRPの治療ゲノム編集とは細胞の遺伝情報を書き換える新たな技術です。医学の分野でも急速に研究が進み、最近、米国ソーク研究所や神戸理化学研究所などの共同研究チームがRPモデル動物の網膜細胞の遺伝子変異を修復、視細胞の脱落を防止して、視覚を維持することに成功しました。患者として、臨床応用の日が早く来ることを期待したい。ただ、この技術を適用する前提として、治療を受ける患者の原因遺伝子が前もって特定され、遺伝子のどの部分に変異があるか正確に同定されていなければなりません。日本人のRP患者の遺伝子を検査しても、2~3割の人でしか原因遺伝子が特定されないのが現状です。未知の原因遺伝子の発見とともに、低コストで正確な遺伝子診断法の開発が望まれます。

 

次回★Wings研究者インタビュー 第8回
大坂大学  不二門 尚先生に聞く
~阪大方式人工網膜と経角膜電気刺激治療~

■研究者面談報告目次 に戻る

カテゴリー: QOL情報, RP研究動向, お知らせ, 本部 パーマリンク

コメントは停止中です。