◇学術研究助成受賞者は今(第4回)

第4回 池田 康博(第10回受賞)
九州大学病院 眼科 講師 池田 康博

平成18年(2006年)の第10回JRPS研究助成を、「虹彩色素上皮細胞由来網膜前駆細胞を用いたex vivo遺伝子治療」で受賞しました。
当時まだ無名で、研究したくても自由 に使える研究費を獲得できずに困っていた私にとって、この助成金はとても貴重な援助となりました。そして非常に幸いなことですが、10年経った現在もその当時と変わらず網膜色素変性に対する遺伝子治療の研究が継続できています。まずは、会員の皆さまに感謝いたします。
我々の目指す遺伝子治療のコンセプトは、神経の細胞死を防ぐ効果のある神経栄養因子と呼ばれるタンパク質の元になるお薬(これが遺伝子)を目の中に注射し、その遺伝子から作られた神経栄養因子によって、網膜色素変性の網膜における視細胞死を防ごうとするものです。これを視細胞保護遺伝子治療と呼びますが、この治療によって病気の進行を遅らせたいと考えています。
まず、網膜色素変性を発症するネズミを使って、この治療コンセプトの妥当性を確認しました。さらには、サルを用いてこの遺伝子を目の中に注射することの安全性を確認しました。これらの動物実験の結果を基に、視細胞保護遺伝子治療の臨床応用を計画したのが、ちょうど平成18年頃でした。学内での審査に合格したのが平成20年(2008年)10月。その後、国(厚生労働省)での審査を受けました。最終的には、平成25年8月に国からの了承を得て、平成26年(2014年)3月から臨床研究をスタートすることができました。眼科の領域ではアジア初の遺伝子治療の臨床応用となりました。
この臨床研究では、遺伝子を目に投与することの安全性を網膜色素変性の患者さんで確認することが大きな目的となります。まず第1ステージとして、5名の方に低い濃度の遺伝子を投与して経過を観察し、さらに第2ステージで15名の方に高い濃度の遺伝子を投与する計画となっています。それぞれの患者さんについては、2年間の経過観察された後に臨床研究は終了となりますが、副作用の発生については終生追跡する予定となっています。
現在までに、低濃度群5名への投与は完了し、観察期間の2年間も終了しました。現時点で明らかな治療効果は確認できていませんが、遺伝子を注射することに直接起因する重篤な副作用は観察されていません。引き続き、高濃度群への投与を実施する予定となっています。
この臨床研究に平行して、医師主導治験という新たな枠組みでの研究を開始するための準備を進めています。少し難しい話になりますが、皆さんが一般的に使用しているお薬は、この治験という過程をクリアーし、国から薬として市販することを許可されています。我々の視細胞遺伝子治療で使用する遺伝子も薬として許可を受けたいと考えています。平成30年(2018年)3月に開始することを目標にしています。
受賞してからこの10年間、少しずつですが研究は進んでいると個人的には思っています。が、治療法を待っている皆様からするとどうなのでしょう? もっとスピーディーに研究が進むように気を引き締め、今まで以上に頑張っていきたいと思います。引き続き、会員の皆様のご支援をよろしくお願い致します。(20160329)

(次回は、三重大学・近藤 峰生先生です)

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