◇学術研究助成受賞者は今(第5回)

第5回 近藤 峰生(第8回受賞)
三重大学医学部眼科

JRPSの会員の皆さま、こんにちは。私は現在、JRPSの学術理事も担当させていただいております。私は、第8回(2004年度)にJRPSの研究助成をいただきました。研究タイトルは、「網膜色素変性症中型モデル動物(ロドプシンP347L変異ウサギ)作成と視機能解析」です。
その頃、私は名古屋大学眼科に在籍しており、大阪大学の田野先生、不二門先生らの人工視覚の研究グループに加わりました。実際に人工視覚の研究に携わる機会を得て、私は日本には中型あるいは大型の網膜色素変性(RP)のモデル動物がいないことに気づきました。
人工視覚の実験では、作成した人工視覚を動物の眼に移植して効果を判定しなければいけないのですが、正常な動物に移植しても、視覚が回復するかどうかを判定することはできません。日本にもRPの動物モデルはいたのですが、マウスやラットなどの小動物ばかりでした。このような動物では眼が小さすぎて、実際の人工視覚を移植する実験には適していません。将来、RPに対する人工視覚や細胞の移植、あるいは遺伝子治療などを行なっていく際には、私たち人間の眼と同じくらいの大きさを持ったRPの動物モデルを作成することが重要なプロジェクトになると考えたのです。
2002年から私はRPの原因遺伝子を持って進行性のRPになるようなウサギを作成するプロジェクト開始しました。しかしながら、最初の4年間は全くうまくいかず、何度トライしても、生まれてくるウサギは正常ばかりでした。
このような中、ウサギの遺伝子改変の専門家にアドバイスをいただいて方法の改良を重ねました。そして、2007年に初めてRPの遺伝子を持って生まれたウサギ(ロドプシンP347L遺伝子を持ったトランスジェニックウサギ)を作成することに成功したのです。ウサギでRPを作成したのは、世界で最初のことでした。
その後、そのRPウサギが進行性に視細胞の変性を起こし、網膜電図が徐々に減弱し、2~3年で失明することも確認しました。もう少し変性の進行が速いとより使いやすかったのですが、あとで分かったことですが、ウサギという動物は網膜がなかなか頑丈で、変性しにくい動物のようなのです。
私は、国内および国外の多くの先生方と共同研究を広く行ない、RPで網膜が変性するメカニズムや新しい治療法の開発を進めてきました。米国のRobert先生との共同研究により、視細胞が変性したあとに網膜は著しい2次性の変化を示すことが分かりました。つまり、視細胞が少なくなるにつれて、網膜の他の神経細胞とのつながりの変化やグリア細胞の増殖などが起こるのです。このような現象の解明は、実際のRPの患者さんに正常な細胞を移植したり、人工網膜で電気刺激する際に役立つ情報になります。
さらに、大阪大学の不二門先生や森本先生のグループとの共同研究で、電気刺激による網膜の保護効果についても成果を出すことができました。最近では東北大学の阿部先生のグループが私たちのRPウサギに対して新しい除法デバイスを使った治療実験を行なっています。今後もさらに、このRPウサギを使ってRPの疾患の病態研究や新しい治療法の開発を進めていくつもりです。また最近のトピックとして、私は世界で初めて先天停在性夜盲(CSNB)の犬を日本で発見しました。このCSNBは、生後から強い夜盲(暗いところで見えない)を訴える病気で、この新たな動物モデルに対する治療研究も進めていく予定です。
このようにこれまで私が研究を続けてこられましたのも、JRPSの皆さまからの温かいご支援のお陰です。心より感謝しております。今後ともどうかよろしくお願いします。(20160501)

(次回は、獨協医科大学越谷病院・ 町田 繁樹先生です)

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