村上 祐介先生(九州大学大学院医学研究院 眼科学分野)

受賞テーマ:
ゲノム酸化損傷を標的とした網膜色素変性に対する治療法の開発

この度は、第17回JRPS研究助成金を賜り、大変うれしく、また光栄に感じております。JRPS理事ならびに会員の方々に深く感謝いたします。
網膜色素変性(RP)は、視細胞の働きに重要な遺伝子のキズによって視細胞が脱落し、徐々に見え方が悪くなっていく病気です。これまでに50種類以上もの原因遺伝子が同定されていますが、これらの遺伝子のキズによって、なぜ、またどのようにして視細胞の死が引き起こされるのかは良く分かっておらず、有効な治療法も開発されていません。
病的な環境において、細胞は様々なストレスに晒されますが、中でも酸化ストレスは病気の悪化に大きく関係すると考えられています。とくに生命現象の源であるゲノムの酸化は、その蓄積によってDNAのキズを生じ、癌や神経変性疾患など様々な病気の原因となることが知られています。そこで我々は、ゲノムの酸化に注目して、そのRPへの関わりについて研究を行なっています。具体的には、RPモデル動物を用いて、ゲノムの酸化修復に重要であるMTH1やMUTYHの発現を遺伝子レベルで調整し、その視細胞死に対する影響を調べています。これまでの研究から、RPの網膜ではゲノムの酸化が著しく増加していること、MTH1の過剰発現によって視細胞のゲノムの酸化が修復され、視細胞の脱落が抑制されることが分かっています。本研究ではさらに、MTH1の下流で働くMUTYHに注目し、そのRPにおける役割について研究を行ないます。
本研究は、これまでに我々が提唱してきたゲノムの酸化による視細胞死誘導のメカニズムについて、分子レベルでの理解を深めるだけでなく、ゲノム酸化損傷を標的としたRPに対する新しい分子標的薬、遺伝子治療薬の開発につながる可能性があります。今回賜りました助成金を励みに、RPの研究発展に少しでも貢献できるよう、研究を進めていきたいと思います。

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