◇研究助成受賞者は今(第10回)

第10回 阿部 俊明(1997年・第1回受賞)
東北大学医学系研究科 創生応用センター細胞治療分野教授

1997年に第1回の受賞をさせていただいた東北大学の阿部です。受賞タイトルは“網膜色素変性症の移植により治療の試み”でした。
当時東北大学では、玉井教授が患者さん自身の虹彩色素上皮細胞を網膜下に移植する世界で始めての試みになる臨床研究を行なっておりました。
その成果を利用して移植細胞を神経保護因子分泌細胞に変えて網膜保護を目指す試みでした。現在、細胞移植といえば主としてiPS細胞移植などが注目を浴びていますが、
当時iPS細胞は存在せず、眼内の自己細胞を利用する新しい方法でした。
神経栄養因子を発現する細胞の作製やレギュレーションの問題で残念ながら臨床応用には至っておりません。
しかし、私の網膜色素変性治療の思いは変わらず、現在薬剤を利用した網膜保護を検討しております。
網膜色素変性のように長い時間かけて徐々に進行する疾患は薬剤の投与が難しく、点眼ではなかなか薬剤が網膜まで十分に到達しない可能性もあります。また忘れるなどの問題点もあります。
我々はこれらの問題点を解決すべく薬剤徐放システムを検討してきました。薬にはいろいろなタイプの薬がありますが、我々が開発したデバイスはいろいろなタイプの薬を徐放できるようにしたものです。

このデバイスの開発には、厚生労働省や日本医療研究開発機構(AMED)などから援助を頂き、東北大学内にある臨床研究推進センターと呼ばれる組織の先生たちや工学研究者、眼科の中澤教授らとの共同研究で行なわれました。
現在、徐放される薬剤はスキャンポフォーマ合同会社から提供いただいたウノプロストンを徐放させるように設計されています。
ウノプロストンは千葉大学の山本教授が中心になって行われた網膜色素変性症患者の点眼による治療の治験に利用された薬剤です。その概要は本シリーズ第1回に山本教授が寄稿されています。
我々の方法は投与方法が異なりデバイスから持続的な薬剤徐放を行なう方法です。角膜や結膜といった薬剤を通りにくくしているバリアの下にデバイスを埋め込む方法で、デバイスを埋め込むための手術が必要になります。
しかし、眼内ではないので眼球の中の組織を傷つけず、取り出しもできます。

このデバイスを利用した治療法は現在独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と呼ばれる審査機関に相談しており、平成30年には治験が開始される予定になっています。
埋め込み型の薬剤徐放システムは簡単なようで実はあまり多くありません。
評価をするデータもあまりないようで、PMDAも慎重に対応しているようです。利点として一度埋め込むと自分で投薬を行なう必要がなく、忘れることもなく、点眼ができにくい人でも大丈夫です。
いろいろな治療の試みは世界中で行なわれていますが、さまざまなタイプの網膜色素変性があるので多方面からの研究・開発が今後も必要になると思います。

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