研究推進委員会(Wings)通信(第16回)

■Wings研究者インタビュー 第11回

東京医療センター 藤波 芳先生に聞く
~新規治療開発に向けた重度視覚障害患者の視機能評価法の確立~

昨年、網膜疾患新規治療導入センターを開設され、重度視覚障害患者の包括的視機能評価法構築の研究に取り組まれている東京医療センター・臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室 室長の藤波芳 先生を訪ねました。

問:重度視覚障害患者を対象として治療を進めるためには視機能の評価法確率が課題とお聞きしました。
答:十数年前から欧米で重度視覚障害者を対象とする治験が進むなかで、どのように視機能を評価したらよいかが大きな問題となっています。「前よりはよくなった」といったようなあいまいな表現ではなく、生活上での有効性を客観的、数値的に証明する方法が検討されてきました。人工網膜治験、遺伝子治療の最終段階では新たな評価方法が使われ、それが治験の成功をもたらしたのです。当時私もイギリスでその研究に携わっていたものですから、帰国後、日本での需要にこたえる形で、東京医療センターで「重度視覚障害者を対象とした包括的視機能評価法の臨床研究を開始しました。

問:いったいどのような評価方法なのでしょうか。
答:その前にまず、現在の視力評価方法について説明します。ご存知のように、ランドルド環といいますが、Cの字の切れ目の向きが見えるか見えないかで視力1.0とか0.1と判定しています。さらに0.1以下では、何メートル近づいて見えるとか、指の本数が見えるとか、手の振りが見えるとか、さらにペンライトの光を感じるかどうかで視力を判定しています。しかし、指の本数とか、手の振る速さとか、ペンライトの光の強さとかにきちんとした決まりがありません。さらに背景とのコントラストなど、測定環境で結果は変わりますし、もちろん定量化もできません。したがって治験の評価方法としてそのままでは使えないのです。
一方、欧米での治験では、治療の有効性は、視力に関してはログマール値で0.3以上と一般に定められています。

問:先生、ログマールとは何ですか。
答:先ほど述べたランドルド環を使った少数視力表示と同じく、視力の表示方法の一つです。ランドルド環視力表示では、各段階の間隔が不均一、例えば1.0と0.9の差と、0.3と0.2の差は等価ではないという問題点があります。これをログマール表示にすると各段階が均等になり、算術的な解析も可能になります。ランドルド環表示で1.0と0.1はログマール表示でそれぞれ0と1.0になります。数字が小さいほどよく見えることになります。全く光を感じない失明状態と光を感じる光覚弁の境界はログマール表示で2.4から2.7です。通常より近づいても視力表が見えなくなるのが1.3から1.6で、それより先の広い領域で指数弁、手動弁、光覚弁の3段階しかないのは不都合です。ドイツの研究者は種々の評価方法を組み合わせてこの領域の患者さん達の視力をログマール視力表示で0.1刻みで数値化することに成功しました。この新たな評価方法が確立されたために、ログマール表示で0.3上がったか否かという判定ができ、人工網膜の有効性が実証されました。

問:そのドイツで研究された評価方法をもとに、さらに進んだ重度視覚障害の評価基準を日本でつくろうとされているのですか。
答:はい、視力という自覚症状だけでなく、他覚症状の評価も重要です。ものが見えるためには、光を電気信号に変える視細胞、その信号を集約する双極細胞、そして情報を脳に伝える網膜神経節細胞が機能していることが必要です。それぞれの機能を電気生理学的な手段、つまり他覚的検査で評価します。視細胞が失われても、第2、第3の細胞の機能が残っていれば治療が可能になります。一方で、いろいろの生活場面の質問に答えていただくことで実生活での見え方を評価します。これら3つの評価法をを軸に、包括的に研究を進めてきました。あと少しでスキームが完成しますので、全国のいくつかの拠点病院で使ってもらおうと思っています。

問:重度視覚障害の治療に向け、治療対象者の選択法、また治療の有効性証明に欠かせない評価法が完成しつつあると考えてよいですか。
答:そのとおりです。

●インタビューを終えて:これまでの研究者インタビューを通じて、臨床試験(臨床研究・治験)を成功させるためには、視機能評価法の確立がとても大切だと分かりました。今回のお話をお聞きして、いよいよわれわれ患者が臨床試験に参加する機会が近づいていることが実感されました。

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