大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 人工網膜は、網膜色素変性などで視細胞を失った網膜に対し、視細胞の代わりに残った網膜の内層の神経細胞に対し、電気刺激を行い、点状の光を感じさせることによって視覚を回復させる方法です。具体的には、まず電気刺激を行うための電極を何十極も載せた電極板と体内刺激装置を患者さんに埋植します。次にCCDカメラがついた眼鏡をかけ、CCDカメラの画像を携帯型のコンピュータで処理し、その情報を、電波を使って体内刺激装置に伝え、体内刺激装置はその情報に従って多点電極を通して網膜に対して電気刺激を行います。現在、人工網膜は3つのタイプの研究開発が進んでいます。一つ目は網膜上刺激型人工網膜で電極を網膜の上に置く方法で、主に米国で開発された方式で、すでに米国やEUでは、認可されておりそれらの国で治療を受けることができます。二つ目は、網膜下刺激型人工網膜で、電極を網膜下に置く方法で、主にドイツで開発が進んでいる方式で、第一世代の開発と臨床試験は終了し、現在、第二世代の人工網膜の開発が進行しております。最後に、我々が開発した日本独自の方式である脈絡膜上経網膜電気刺激(STS)型人工網膜で、これは眼球の外側の強膜からトンネルを作製し、脈絡膜上に電極を設置する方法で、他の方式と異なり、網膜に直接電極を置かないので、網膜への組織損傷が少なく、電極の交換が容易で、将来、再生医療を患者さんが受ける場合にも併用が可能な方式です。本講演では、我々がこれまでに行ってきたSTS型人工網膜装置の臨床試験の結果について述べ、他の方式の人工網膜装置の臨床試験の結果にも触れ、現時点での人工網膜でどこまで見ることができるかについて述べたい。また、現在開発中の第三世代の人工網膜の研究の状況や今後の人工網膜の展望について述べる予定である。
森本 壮( Takeshi Morimoto )
1997年 大阪大学医学部 卒業
1997年 大阪大学医学部眼科学教室入局
2001年 大阪大学大学院医学系研究科未来医療開発専攻 博士課程
2005年 医学博士(大阪大学)
2008年 大阪大学大学院医学系研究科眼科学 医員
2009年 大阪大学大学院医学系研究科寄付講座視覚情報制御学 助教
2010年 大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 講師
2012年 大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 准教授
現在に至る