現在私たちは、iPS細胞を用いて加齢黄斑変性に対する網膜色素上皮細胞の移植プロジェクト、そして網膜色素変性に対する網膜組織移植プロジェクトに取り組んでいます。
加齢黄斑変性についてはすでに最初の自家iPS由来の網膜色素上皮移植からほぼ3年経過し、特に合併症はみられることなく移植片が安定して生着していることを確認しています。この結果をうけて、網膜色素変性に対するiPS細胞由来網膜組織の移植治療についても臨床研究を視野に研究を進めているところです。
私たちは今年初め、マウスのiPS細胞由来の網膜組織を末期網膜変性モデルに移植すると、移植した視細胞とホストの2次神経細胞がつながり、光シグナルをホストの神経節細胞に伝えること、行動実験においても移植後のマウスで光合図による学習効果がみられるようになることを報告しました。同じような網膜組織はヒトのES細胞やiPS細胞からも用意でき、また移植後末期の変性網膜に生着して成熟することを動物モデルで観察しています。さらに現在は、これらのヒトのESやiPS細胞でも移植後成熟して光に応答することを検証中です。今後、安全性試験などを重ねて、ヒトでの臨床応用を目指して準備を進めていく予定です。
人でも動物で得られたような効果がみられるかは臨床研究をしてみないとわかりませんし、うまくいっても最初はうっすら小さく光がわかる、といった程度の効果しか得られないかもしれません。しかし少しでも光がわかるとなれば、よりその効率をよくしていくこともできるのではないか、とも思っています。
最初の臨床研究は最初の一歩にすぎませんが、現在の進捗と今後の見通しなど紹介したいと思います。
万代 道子( Michiko Mandai )
1988年 京都大学医学部 卒業
1988年 京大病院眼科研修医
1989年 関西電力病院眼科
1990年 京都大学医学部大学院博士課程
1994年 京都大学眼科学教室 助手
2000年 米国NIH 研究所 客員研究員
2002年 京都大学病院探索医療センター 助手
2006年 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究チーム研究員
2006年 神戸市立医療センター中央市民病院 非常勤医師
2011年 先端医療センター病院 眼科副部長
2013年 理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト 副プロジェクトリーダー
現在に至る