■「網膜変性に対する遺伝子特異的治療の進化」
西口 康二(名古屋大学)
重症な小児発症の網膜色素変性類縁疾患であるレーバー先天盲を対象とした、アデノ随伴ウィルスを用いた初めての網膜遺伝子治療が2008年に報告されてから10年以上が過ぎた。この報告は、安全性の高いウィルスを用いて欠損遺伝子に対して正常な遺伝子を網膜に導入することで、それまでまったく治療法がなかった網膜ジストロフィにおいて、治療に、より光感度が改善し暗所での移動が向上することを示すものだった。
これをきっかけに、世界中で遺伝子治療の開発競争が始まり、今では網膜色素変性を含めてさまざまな網膜疾患に対して数多くの臨床試験が行われつつある。しかし、同治療に関する臨床データが蓄積されるにつれ、次第に無視できない課題も明らかになってきた。
本講演では、最初に遺伝子治療とは何か?という基本的なことを、歴史を振り返りながら解説する。次いで、さまざまな網膜ジストロフィに対して行われている遺伝子治療臨床試験の最新の結果をレビューし、同治療の今後の展望と現時点で何を考えるべきかについて考察する。