第16回JRPS網脈絡膜変性フォーラム 医療講演概要報告

研究推進委員会(Wings)

3月27日、「遺伝子」をテーマにオンライン形式で開催されたフォーラムの医療講演の概要を紹介します。講演動画は、下記のご報告での記述通り、「会員の頁」にてご視聴できます。

■講演1「網膜変性疾患の遺伝型と表現型」 國吉 一樹(近畿大学)
まず、基本的な事柄について説明があった。遺伝、遺伝子、疾患が起こる原因についてまとめると次のようになる。細胞の中の核にDNAの塊があり、染色体という。DNAはアデニン、シトシン、グアニン、チミンという4種類の塩基が60億個余りも整然とつながったものである。ここには身体をつくるタンパク質の設計図が入っている。これを遺伝子という。DNAの半分は父親由来、半分は母親由来で、子から孫へと受け継がれていく。細胞が分裂するときDNAは正確にコピーされるが、まれにミスプリントが起こる。大抵のミスは修復され、たとえ修復されなくても害はない。しかしDNAの重要な部分にミスが起こると、病気になったり、生まれる前に死んでしまうこともある。RPをはじめとして遺伝性網膜ジストロフィの多くはメンデルの法則に従い、常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性のいずれかの遺伝形式をとる。
講演の後半では、最近わかってきた遺伝性網膜ジストロフィの臨床所見(表現型)と原因となる遺伝子(遺伝型)の関係について多くの症例を取り上げて説明があった。
遺伝型と表現型の関連には一定の規則があるのだろうか。答えは、イエスでもありノーでもある。RPはさまざまな遺伝子の異常により発症し、原因となる遺伝子による特徴的な臨床症状を示すこともあるが、それは一部で、多くは多彩な症状を示す。

■講演2「網膜変性疾患の遺伝学的検査」 林 孝彰(東京慈恵会医科大学)
日本人に多い網膜変性疾患の遺伝学的検査の結果と病態が解説された。
1. 筋緊張性ジストロフィの遺伝学的検査、網膜変性の特徴について:おもな症状は筋力低下だが、白内障や網膜変性を合併。DNPK遺伝子の異常で発症し、常染色体優性遺伝である。トリプレットリピート病の一つでCTG(シトシン、チミン、グアニン)の反復伸張がある。重症度は反復の数によるので、遺伝学的検査で病態や重症度が把握できる。
2.RPGR遺伝子変異をもつRPの特徴について:X連鎖性遺伝で、男性が発症するが女性
の保因者に症状が出る場合がある。遺伝子の末端エクソンの前半部に変異があるとRP、後半部にあると黄斑ジストロフィを発症する。世界で遺伝子治療の臨床試験が進行中である。
3.RP1遺伝子変異をもつ網膜疾患のバリエーションについて:優性RP、劣性RP、劣性黄斑ジストロフィの原因となる。日本人では特定の遺伝子異常が多いことが判明、Aluという特殊な配列が遺伝子に挿入されている。
最後に、今後可能性のある内服治療が紹介された。アセチルシステインという抗酸化剤の網膜保護効果の治験が世界的に行われている。白点状眼底に対してβカロテンの臨床研究が三重大ほかで実施された。まもなく結果が公表される。スターガルト病に対しては、視サイクル抑制モジュレーターのエミクススタトの治験が進行中である
(窪田製薬)。

■講演3「遺伝性網脈絡膜疾患の一体的診療:遺伝子治療の臨床応用」
藤波 芳(東京医療センター・感覚器センター)
遺伝性網脈絡膜疾患の一体的診療について、東京医療センターでの経験と欧米の先行事例が紹介された。
RPは黄斑ジストロフィなどの疾患群と原因が重なっているため、すべてを総称して遺伝性網脈絡膜疾患と呼ばれる。有効な根本治療が存在せず、その病態解明・治療導入が急務となっている。遺伝性希少疾患は次の5ステップを経て治療実装される。
1)臨床診断;
2)網羅的遺伝子診断;
3)表現型・遺伝型関連および最終確定診断;
4)臨床治験導入;
5)治療の安全性・有効性判定と評価法の確定。
評価法はさまざまであり、中心視力・視野、光干渉断層計等の古典的方法に加えて、特殊な電気生理学的検査、眼底自発蛍光の量的評価、光閾値評価(FST)などがある。評価がきちんとできないと治験は困難である。世界的に見ると、遺伝子補充治療、遺伝子編集治療、遺伝子導入治療(オプトジェネティクス)、薬物治療、再生細胞治療、人工視覚移植、経角膜電気刺激などの臨床治験が広く展開されている。「治療が皆無であった」時代から「治療を選択する」時代に移り変わるなかで、どの時期に対してどの治療を選択していくかについても、治療の特性に合わせて明らかにされつつある。すなわち病気のメカニズム、ステージ、重症度が考慮される。遺伝性網膜疾患の一体的診療体制の構築のためには、疾患概念と遺伝学的診断の理解を医療者と患者が共有することが重要である。

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