第27回JRPS研究助成 受賞者からのメッセージ③

相馬 祥吾 先生(京都府立医科大学)[ライオンズ賞」
受賞テーマ
「網膜色素変性症モデルラットにおける明暗視・形態視機能の経日評価」

このたびは第 27 回 JRPS 研究助成ライオンズ賞に選出いただき、たいへん光栄に存じます。JRPS 学術審査員の皆さま、関係者の方々、そして会員の皆さまに、心から感謝申し上げます。
私は学生時代に、「外界の 3 次元の光情報(縦・横・奥行)が網膜へと結像し 2 次元の情報(縦・横)となった後、脳の情報処理により再び 3 次元の世界が構築されることで視覚認知が生じる」という講義に感動し、研究の世界に飛び込みました。大学院時代は脳内のアセチルコリン(神経修飾物質)が視覚認知に与える影響をさまざまな動物を用いて研究して参りました。同じものを見ているのにもかかわらず、アセチルコリンの濃度で異なる視覚認知を生み出す脳の不思議さに魅了されて研究を続けて参りました。これらの研究過程で開発した研究技術を基盤として、本研究ではヒトの網膜色素変性症の特徴を示すモデル動物として広く利用されている Royal College of Surgeons(RCS)ラットの視機能を行動学的・神経生理学的手法により多面的・経日的に評価し、その病態や失調の理解の深化を目指します。
まず独自開発した視機能評価装置を応用し、ラットの主観的な「見え」を評価する心理物理学行動実験を実施します。この装置の最大の利点は、網膜変性の進行前に RCSラットに効率的に課題を学習させ、視機能評価を可能にした点です。これにより RCSラットの視機能がどのように減弱していくか経日的に評価します。
また網膜変性の経日評価研究の進捗に比して、変性に伴う中枢機能変化は未解明です。本研究では神経生理学的な視機能評価のために、頭部固定覚醒動物の多細胞同時記録法(神経細胞の活動記録法)を RCS ラットの視覚脳領域に適用します。これにより網膜からの光情報が減弱していく過程で脳内の情報処理がどのように変化するのかを明らかにします。
以上の行動と神経レベルの双方からのアプローチによる成果は網膜色素変性モデル動物における視覚情報処理の基礎データの蓄積だけではなく、臨床研究へと橋渡しする重要な実験系を提供することが期待されます。例えば、ES 細胞・iPS細胞誘導視細胞・網膜神経節細胞の移植後の機能回復評価や神経補綴技術・細胞工学技術を用いた視機能再建治療のための基礎情報、症状の程度から以後の症状変化の予測や先んじた治療計画作成などに進展できる可能性を期待しております。皆さまのお役に立てる情報を提供できるよう研究に邁進して参ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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