働き続けるために JRPSがセミナー開催(2020年1月25日(土))

働き続けるために JRPSがセミナー開催

公益社団法人 日本網膜色素変性症協会 理事 神田 信

 公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS、理事長・佐々木裕二)グループの3団体は、1月25日、東京・品川の「きゅりあん」(品川区立総合区民会館)で、働く世代のセミナー「働き続けるために」を開催した。主催は神奈川県網膜色素変性症協会(JRPS神奈川)で、共催は東京都網膜色素変性症協会(JRPS東京)と、16~35歳が対象のJRPSユース。網膜色素変性症の患者以外にも、視覚障害当事者や関係者ら約80人が参加した。

進行する症状
 眼の中で光を感じる組織である網膜に異常が発生する網膜色素変性症は、現在でも根本的な治療法がない進行性の難病で、数千人に1人の割合で発症するといわれる。症状にも進行にも個人差が大きいが、10~30代で夜盲などを発症し、20~50代で視野欠損や視力低下などの障害が現われるケースが多い。緑内障、糖尿病網膜症とともに中途失明の三大原因のひとつとされ、就職後に、夜盲や視野狭窄による通勤の困難や、徐々に進む視力低下に悩まされるケースも少なくない。

 JRPSは、網膜色素変性症とその類縁疾患の患者会だが、患者・研究者・支援者によって構成される三位一体の会で、「私たち自身で、治療法の確立と、生活の質の向上を目指す」ことをスローガンとしている。各都道府県の地域JRPSによる講演会・相談会・交流会・研修会などに加え、毎年、治療法研究に顕著な成果の認められた研究者に研究助成金を贈っている。

 今回のセミナー会場には、網膜色素変性症の当事者以外の参加者もいて、視覚障害者の就労に対する関心の高さがうかがわれた。参加者の年齢は30~60代までと幅広いが、中心は40~50代。音声パソコンの職業訓練を受けて就労している人が多く、就職活動中の求職者もいた。網膜色素変性症の患者には、進行し、変化してゆく症状に適応するための情報収集が欠かせない。参加者の傾向は、網膜色素変性症の患者が抱える課題のひとつを反映しており、このようなセミナーのニーズを示している。

 プログラムは、網膜色素変性症の当事者でJRPS東京の幹事である熊懐敬氏による「進行性疾患にどのように対応して働き続けるか」をテーマにした基調講演に続けて、当事者6人によるシンポジウム。また、株式会社ユニバーサルスタイル代表取締役で、やはり視覚障害当事者の初瀬勇輔氏が、視覚障害の就労の現状に関する特別講演を行なった。

早めの相談を
 基調講演を行なった熊懐氏は、視覚障害の就労を支援する認定NPO法人タートルの理事も務め、就労相談を担当している。銀行に就職したものの、視力の低下によって異動になり、外部講師を招くセミナーの企画担当として65歳まで勤めあげた自身の経験を披露しながら、働き続けるノウハウを語った。
 まず大切なのは「病気に向き合い、情報収集を行なうこと」、そして「同じ境遇の仲間との交流も大きな力になる」と熊懐氏。自分の症状を職場に伝え、配慮を求める際は、眼科医の意見書に必要な配慮を記載してもらうことに加え、より具体的な希望を自ら書面にまとめて提出することも有効という。
 熊懐氏は、音声パソコンや拡大読書器を無料で貸し出す機関、在職者訓練を含む職業訓練・自立訓練を実施する施設、障害者職業センター、実際に職場を訪問して支援や調整をしてくれるジョブコーチ制度についても説明。働き続けるには、よりよい人間関係を構築するための努力も非常に大切と説いた。
 タートルでは就労に関する相談を多く受けているが、退職後では選択肢が狭くなってしまうともいう。「ぜひ、困りごとが起きた段階で相談してほしい」と早期相談の重要性も強調した。

仲間や先生との出会い
 シンポジウムでも、網膜色素変性症の当事者が登壇した。就職後に障害が現われたものの就労を継続、もしくは再就職のために職業訓練を受けて働いている6人で、それぞれの訓練内容や訓練施設を選択した理由などを語った(氏名の後ろに訓練を受けた施設名を記す)。

田部雅一氏(国立職業リハビリテーションセンター)
 国立障害者リハビリテーションセンターを修了し、あはき免許を取得、ヘルスキーパーを経て独立開業した。そこで、パソコンスキルの必要性を感じ、国立職業リハビリテーションセンターの視覚障害者情報アクセスコースに入って訓練を始めた。ある特例子会社で働いていた時、同センターの卒業生のスキルがとても高かったので、自分もそれに近いレベルを身に付けたいと思い、同センターを選択した。

秋山孝幸氏(視覚障害者就労生涯学習支援センター)
 資産運用会社でファンドマネージャーを務める。業務には専用アプリを使い、スクリーンリーダーはJAWSを使用。職場適応のためにジョブコーチを受けることも視野に入れ、視覚障害者就労生涯学習支援センターの在職者訓練が良いとのアドバイスをタートルで受けた。訓練終了後は、同センターの井上英子氏がジョブコーチとして会社を訪問。専用アプリも音声で使えるように細かい設定をしてもらい、業務を継続している。

長谷川晋氏(視覚障害者パソコンアシストネットワーク)
 出版社で編集の仕事をしていたが、文字や色が見えにくくなり、人事系の部署に移った。Word、Excel等の基本ソフトを活用するため、スクリーンリーダーのPC-Talkerを学べる視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN)の在職者訓練を選択。SPAN理事長で全盲の北神あきら氏が自由にパソコンを操る姿に「見えなくなってもやっていける」と勇気づけられた。まだ視力があり、訓練には早いかと思ったが、受けてよかったという。症状の進行に合わせ、再度受講したいと思っている。

福島淑絵氏(東京視覚障害者生活支援センター)
 福祉の仕事に従事していた病院を、視力の低下もあって退職。障害者雇用で事務職として再就職したものの、視覚を補うスキルがなく退職した。ハローワークの紹介により、東京視覚障害者生活支援センターの就労移行支援で訓練を受けた。パソコンの訓練だけでなく、面接の指導では自分の障害を相手にわかるように伝える方法も学んだ。就職後もわからないことを教えてもらえるので、とても助かっているという。現在の職場は7年目、正社員としては2年目で、責任ある仕事を任されている。

石原純子氏(日本視覚障害者職能開発センター)
 もともと看護師として就労していた。視覚障害発症後も理解のある病院に勤務をしたが、限界を感じて退職。ハローワークで日本視覚障害者職能開発センターを紹介された。パソコンは全くの初心者だったが、訓練を通じて日商PC検定(文書作成3級、データ活用3級)や秘書検定2級も取得。現在は眼科病院に勤務し、患者向けITサポートを担当している。進化していくITについていくため、日々、勉強を続けている。同センターでの訓練終了後のフォローや、別途ジョブコーチ制度を活用するなど、状況に応じて支援を使い分けている。

伊藤つえみ氏(横浜市立盲特別支援学校)
 幼い頃から夜盲があり、上京して就職したものの、視力低下に伴い何度か転職。デパートで販売職に就いていた時に、当事者団体や支援制度を何も知らないまま仕事を追われた。ハローワークで盲学校に職業相談をするように勧められ、マッサージは全く考えていなかったが、横浜市立盲特別支援学校で3年間学び、あはきの免許を取得。ヘルスキーパーとしてやりがいのある仕事を得て、充実した毎日を送っている。仕事でパソコンも使うため、視覚障害者就労生涯学習支援センターで在職者訓練も受けたと語った。

 シンポジスト全員が口を揃えたのは、共に学んだ仲間との出会い、そして熱心に指導してくれた先生方への感謝であった。

雇用拡大の可能性
 シンポジストの一人、田部氏が「私は、目が悪くなったらあはき※1しかないと思い、免許を取ったが、会場の皆さんは、あはきを選択肢として考えたことがありますか?」と質問をしたところ、約4割の人が「考えたことがある」と回答。一方で、あはき免許の取得までには無給の期間が生じ、地方では事務職の求人も少ないが、「どうすれば良いか」という質問もあった。
※1:あはき師(按摩師、針師、灸師)
 それに対し、自宅やサテライトオフィスなどを利用し、時間や場所に縛られない働き方であるテレワークを選択肢の一つとして提示したのが、特別講演を行なった初瀬勇輔氏だ。
 視覚障害柔道家としても知られる初瀬氏が代表取締役を務めるユニバーサルスタイルは、障害者の就業・転職サポート、人材紹介などを行なっている。
 初瀬氏が就職活動をした時には、100社以上を受けて、面接まで進んだのは2社だけだったという。視覚障害以外の障害の人と比べられる障害者雇用の場で、「こういう配慮があればできる」という説明が不足していたと振り返り、自分の症状を言語化し、パソコンスキル等を具体的に示すことが必要だという。
 就職・転職を考えている人には「なるべく多くの人材紹介会社に登録したほうが良い」と初瀬氏はアドバイスをする。特にテレワークなどは全国的なネットワークのほうがヒットしやすいとする一方で、知人の紹介で就職する人もおり、様々な手段を活用することが肝心というわけだ。
 就労中の人には、配置転換や業務の調整について、会社と相談することを勧めた。会社側も困っていることがあるので、自分で情報収集し、どうすれば働き続けられるか、提案できるのが望ましいという。また、周囲の人とのコミュニケーションが欠かせない仕事の中で、合理的配慮も上手に求める必要があるとし、「社内で得意な分野を作っておくこと」も大切だと述べた。
 初瀬氏は「多くの企業が、社内に障害を負った人がいれば、法定雇用率の観点からもその人材を大切にしたいと考えている」という。2018年に発覚した中央省庁の「水増し雇用」への反省や、法定雇用率の引き上げ(2021年4月までに現行の国、地方公共団体2.5%、一定規模の民間企業2.2%から、各0.1%引き上げ)もあり、障害者雇用は上向いていくとの展望を示した。そして「視覚障害者を含め色々な人が活躍できるインクルーシブ社会を一緒に創っていきましょう」と講演をまとめた。

 セミナー終了後は、懇親会も盛大に行なわれ、参加者同士、貴重な情報を交換した。

公益社団法人 日本網膜色素変性症協会
 電話:03-5753-5156/メール:info@jrps.org

認定NPO法人タートル
 電話:03-3351-3208/メール:mail@turtle.gr.jp

株式会社ユニバーサルスタイル
 電話:03-5361-8455

出典 月刊視覚障害3月号

  シンポジウムの様子。中央奥に長机に向かって座った6人のシンポジスト、手前にはスクール形式で並べられた席に、長机に向かって座った参加者が写っている。

 

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あぁるぴぃ144号

2020年 年頭のご挨拶    3

JRPSだより        4

公益社団法人日本網膜色素変性症協会 「理事・監事」の選任に関する告示 4

2月の相談予約のご案内            4
「ピアサポート」電話相談のご案内       4

寄付に対する税制上の優遇措置について     5

JRPS富山より皆さまへ(牧野 清美)      6

研究推進委員会(Wings)通信(第21回)    6
ビジョン・ケア 高橋政代先生に聞く
~網膜再生治療確立に向けての決意~       6

JRPSワークショップ2019 in福岡 実施報告      7

リレーエッセイ ~網膜色素変性症と私[4]     9
見えなくなって出会えたマラソンに生きが  いを(岡山県 久保 眸)   9

あぁるぴぃ広場 ~会員からの投稿~           10
見えなくても楽しく生きよう!(山形県 富樫 靖子)    10
私の運の良かった人生(京都府 宮森 克己)        10
視覚障害でも楽しく(福岡県 金ヶ江 剣志郎)       11

若い世代はいま                     12
第2回 旅立ちの言葉                   12

[特別寄稿]JRPS群馬設立20周年            13
JRPS群馬とともに(小林 一男)             13

QOL向上推進委員会(QOLC)通信            14
第8回 視覚障害者の減災・防災教室 その5 「防災グッズ等」②   14
【特別リポート】ここまで来た!視覚障害者用ナビゲーションシステムの開発 16

都道府県JRPS活動予定       17
北海道……17 / 岩手県……17 / 秋田県……17 / 群馬県……17 / 栃木県……18
埼玉県……18 / 千葉県……18 / 東京都……19 / 神奈川県…19 / 長野県……19
福井県……19 / 岐阜県……20 / 愛知県……20 / 三重県……20 / 滋賀県……21
京都府……21 / 奈良県……21 / 大阪府……21 / 和歌山県…22 / 兵庫県……22
岡山県……22 / 広島県……23 / 香川県……23 / 徳島県……23 / 愛媛県……24
福岡県……24 / 長崎県……24 / 大分県……25 / 熊本県……25 / 宮崎県……25
鹿児島県…25
専門部会の活動予定         26
アイヤ会…26 / JRPSユース…    26

編集局より    27
広告ページ    27
編集後記     32

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研究推進委員会(Wings)通信(第21回)

■Wings研究者インタビュー 第12回
ビジョン・ケア 高橋政代先生に聞く ~網膜再生治療確立に向けての決意

 突然、理研退職のニュースが流れて皆さんを驚かせてしまったこと、申し訳なく思っています。皆さんにきちんと説明したいと思っていました。
今、色素変性を対象とする視細胞移植臨床研究の申請の準備を進めているところです。(註記:2019年11月15日のインタビュー後、12月9日に第一特定認定再生医療等委員会宛に申請書が提出されました)
臨床研究なので、ほんの数名にするだけで、その後は大日本住友製薬が治験をしてくれることになっています。
ただ、治験が終了するまでにはとても長い時間がかかります。そこを短縮できないかと考えて作ったのが株式会社ビジョン・ケアという会社です。少しでも早く、安く、安全にたくさんの方に網膜の治療を届けたいと思っています。大企業に任せていると時間もかかるし、コストもどんどん高くなっていく、それなら自分たちで作ろう、と思い、私が会社の代表取締役となりました。大きな会社も協力してくれる所があるので、今、たくさんの企業と私たちの会社が提携を進め、その体制作りをしているところです。
視細胞移植は、最初から視力が出る、というのではなく、どんどん改良し続けなくてはいけません。たぶん、20年くらいは改良し続けないといけないと思います。薬だと1回できてしまえばその効果は同じなのですが、再生医療は細胞だし、手術だし、それはどんどん改良を重ねて、20年くらいたってようやくこれでいいね、と言われるような治療となります。現在も、うちのラボではこの臨床研究の次の研究が始まっています。現在アイセンターの中にあるのは今は理研のラボですが、そこをアイセンターが借りることになります。アイセンターとビジョン・ケアはずっと組んでいくので、共通のラボを作っていくという感じです。でもここでは狭いので、1、2年くらいにもっと広い所も用意する予定です。
会社に移った理由はたくさんあるのですが、中でも理研のラボは私が引退したら閉じてしまうし、理研と契約が切れたスタッフはラボを辞めなくてはならないので、研究を一緒に続けていくためにその受け皿を作るという目的もありました。アイセンターを作る前からそれは分かっていたことで、アイセンターは4つの部門からなっていて、研究と眼の病院とNextvisionと会社を最初から作っていて、私はその4つの全部にポジションを持っていて、それは今も変わりません。生活は何も変わらず、軸足が変わっただけです。
今はアカデミアの仕事を減らして、治療を早く安くみんなに届けるための仕事に集中しているところです。今後そちらに集中するために患者会の講演なども減らしていかなければならない現状をご理解ください。ビジョン・ケアの利益はアイセンターや公益的なことがきちんとできるようにするためにも使われます。治療開発に専念するためにこれからもがんばっていきますので、皆さまのご理解とご協力をお願いします。

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林 孝彰先生からのメッセージ

林 孝彰先生

(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科)

受賞テーマ:「全身疾患に合併する遺伝性網膜ジストロフィの病態解明を目指した分子遺伝学的研究」

今回、「全身疾患に合併する遺伝性網膜ジストロフィの病態解明を目指した分子遺伝学的研究」という課題に対して、第23回JRPS研究助成金を受賞することができ大変光栄に存じます。私は長年網膜ジストロフィの専門外来・遺伝子研究に携わっております。目の前の患者さんの原因遺伝子を特定し、将来の治療法に結びつけたいという信念が私の診療・研究の信条でありミッションとなっています。最近のホットな話題として、iPS細胞からの再生医療に関して他家移植が成功し、いよいよ網膜色素変性の患者さんへの治療が期待される段階になりました。また、欧米で行われている遺伝子治療も日本でも行われる可能性があります。決定的な治療法がなかった遺伝性網膜ジストロフィに対する治療法の進歩・発展は目を見張るものがあります。
しかし、遺伝子治療の前段階として、原因遺伝子が特定されていることが条件となっています。網膜ジストロフィの中には、網膜異常に加え、眼外症状・全身的合併症を引き起こす病態が知られております。私たちはこれまでに先天黒内障に低身長、代謝異常症を合併した繊毛病(細胞の触覚と言われる繊毛を構成する遺伝子の異常によって発症する病気)の1つAlstrom症候群の新規ALMS1遺伝子変異(Katagiri et al, MolVis, 2013)を特定し早期の代謝異常に対する治療に結びつける役割を果たしました。また、先天黒内障とネフロン癆(小児期に腎不全になる疾患)を合併したSenior-Loken症候群に対して、病態解明につながる新たな原因として世界で初めてSCLT1遺伝子変異を特定しました (Katagiri et al Sci Rep,2018)。今回の研究では、小児科医、皮膚科医、電子顕微鏡専門研究者、分子生物学基礎研究者と連携し、希少疾患である繊毛病やライソゾーム病の病態解明に向け、これらの全身疾患に伴う遺伝性網膜ジストロフィの患者さんからDNAを抽出、次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析を行い、原因遺伝子を突き止める研究を行います。この中で遺伝子変異と疾患表現型の関連性を明らかにし、酵素補充療法や遺伝子治療など将来の治療法へ向けた基盤研究に進展させたいと考えています。この度は、JRPS研究助成金を受賞でき、会員の皆さまに感謝申し上げます。

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研究推進委員会(Wings)通信(第20回)

■Wings研究者インタビュー 第11回
東北大学眼科西口康二先生に聞く ~網膜疾患のゲノム編集治療について~

西口先生は、ゲノム編集と呼ばれる手法を用いて治療することを目指しておられます。この方法を用いると、従来の遺伝子治療では困難であるとされる日本のRP患者に多いEYS遺伝子の変異も治療可能になるそうです。その研究に関する最新情報を伺う機会がありましたので、ご報告いたします。

皆さんは、ゲノム編集という言葉を聞いたことがありますでしょうか? 最近のニュースで、厚生労働省が特定のタイプのゲノム編集を行った食品に関しては流通販売をしてもよく、ゲノム編集食品であることの表示義務も課さないとの決定を下したことが報じられました。「特定のタイプ」と書きましたが、ゲノム編集には大まかに次の3タイプがあります。

1.特定の遺伝子を壊すもの
2.元々ある遺伝子の一部を書き換えるもの
3.種の壁を越えて外来の遺伝子を導入するもの

今回厚労省が許可したのは、1番と2番です。これらは、一般的に行われている品種改良と同等なものであるから、というのが許可の理由でした。3番に関しては、自然界には存在しない生物を作れてしまうので、対象から外されました。
西口先生が目指しておられるのは、2番の手法です。日本人で一番多く見られるEYS遺伝子の変異を正常な状態に書き換えようとしています。これを植物細胞のようにペトリ皿の上で行うのであれば、今の技術で難しくはないでしょう。しかし、先生の研究では、ゲノム編集を私たちの眼の中で行う必要があります。これは、とても大きなチャレンジです。生きた網膜の治療を行うには、ゲノム編集の技術のみならず、遺伝子治療を融合させなければなりません。遺伝子治療のノウハウを用いて、ゲノム編集に必要な遺伝子を特殊なウィルスの中に閉じ込めます。これを網膜に注射すると、ウィルスが視細胞に感染し、中に入っていたゲノム編集用の遺伝子が細胞内に放出されます。
ゲノム編集用遺伝子が働き始めると、元々ある病気遺伝子を切ったり貼ったりして正常な状態に書き換えてくれます。

文字にしてしまうと簡単そうに思えるかもしれませんが、これをヒトで試すには越えなければならないハードルがまだ残っています。困難はありますが、「本当にそんなことが可能なんですか!」と驚いてしまったほどの飛躍的な研究成果のお話も伺うことができました。今日明日に治療開始、とはいかないかもしれませんが、ここで大切なことは、私たち患者が先生を応援し、行政に働きかけるなどして後押しすることだと思います。更なる研究の飛躍を願いつつ、希望を持って待つことにしましょう!

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QOL向上推進委員会(QOLC)通信(第7回)

このコーナーは、QOL向上推進委員会からの投稿を紹介しています。

第7回 視覚障害者の減災・防災教室 その4 「防災グッズ等」①

今回は災害に備えて携帯する物や避難時用に準備する持ち物などを考えましょう。

1)常時携行品
近所であっても家から出たときに地震等の災害に遭えば、正しい情報を得たり、晴眼の支援者を探したりして、確実に身を守るために何時でも携帯が必要なもの。
*保険証のコピー *予備の白杖 *所属団体連絡先
*身体障害者手帳 *笛(ホイッスル) *服用中の薬
*携帯電話と充電器 *家族連絡先リスト *手袋(種類)
*小型携帯ラジオ *家族の顔写真 *マスク
*その他に財布やカード類等個別に必要なもの

2)外出時携行品
歩いて帰宅するには困難場所や宿泊を伴う外出などは、常時携行品に加えて
*救急セット *携帯食 *ボトル入りの水
*マスク *携帯電話と予備電池 *電話用小銭かテレカ
*サバイバルシート *遮光眼鏡

3)避難時の持ち出しに関する注意
・避難時に物資を持ち出す時は安全のため、リュックなどで両手を空ける。
・身軽に避難できるように最低限のものだけを持ち出す。
・情報収集用のラジオや携帯電話、懐中電灯、非常食、軍手などを定期的に点検しすぐ持ち出せるようにする。
・避難時には自動車の使用はできるだけ避ける。
・道路の亀裂や、マンホールの蓋がずれているおそれがあるので注意する。
・身の安全を確保しながら避難所に行く。
・避難所の場所や危険箇所はハザードマップなどで確認し、下見しておく。
・「災害伝言ダイヤル」などで、家族にメッセージを残す。
・大規模な災害では、近所の人の協力による救助や応急手当が生死を分けるので、お互いの家族構成などを知らせ合い、ふだんからの交流を大切にする。
・建物が余震などで崩れることもあるので、自治体や気象庁発表の危険箇所に関する情報などに注意する。
・急な斜面や家屋にはできるだけ近づかないようにする。

※リストに記載した物はあくまでも一例です。一次持ち出し、二次持ち出し、在宅避難共に、災害の内容・規模・ライフラインの被災度・外部からの支援状況等で必要な物はそれぞれ違います。リストを参考に必要なものを適切に選択します。
※避難時の持ち出し品は次号に続く。

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Wings ひとくちコラム(第12回)

【1】阪大方式人工網膜治験の見通しについて:不二門尚先生にお尋ねしたところ、以下のご回答をいただきました。「安全性、安定性から言うと、阪大方式は普及する可能性があると思っています。電波法への対応などで遅れていましたが、2021年4月治験開始に向けて、順調に準備は進んでいます。今回の治験はNIDEK社の企業治験で、私はアドバイザー的立場です。実働は、阪大眼科西田教授の統括の下、森本壮准教授が行います」

【2】「JRPSワークショップ2018 in 神戸~網膜再生医療臨床試験・患者からのアプローチ~」の報告書頒布について:共催した日本医療研究開発機構(AMED)の研究班によって「共につくる臨床研究~患者と研究者の対話から~Ⅱ」と題する報告書が作成されました。高橋政代先生、武藤香織先生のご講演のほか、グループ討論での患者の生の声もまとめられています。希望者に頒布します。
①墨字版②音声デイジー版③PDFまたはテキストファイルの別を選択ください。
申込先は本部事務局
メール:info@jrps.org、Fax:03-5753-5176。
なおPDF/テキストファイルは東大医科研公共政策研究分野のホームページからダウンロードできます。

http://www.pubpoli-imsut.jp/

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あぁるぴぃ143号

もうまく募金へご支援のお願い                  3

JRPSだより                          3

千葉県を中心に被害の大きかった台風15号について          3

「網膜の日」記念日の広報についてのご報告               4

12月の相談予約のご案内                       5
「ピアサポート」電話相談のご案内               5

「働く世代のセミナー&懇親会 ~仕事を続けるために~」のご案内 5

「世界網膜の日in富山」開催のご報告                7

2020年の「世界網膜の日」は滋賀県で開催!          8

研究推進委員会(Wings)通信(第20回)           9

Wings ひとくちコラム(第12回)                                         10

あぁるぴぃ広場 ~会員からの投稿~               10
交流会に参加して(北海道 三本 悦子)             10
令和元年とJRPS(埼玉県 田村 彰之助)               11
同行援護に感謝(岐阜県 岡田 美幸)              11
人生は、人と人との交差点(兵庫県 酒井 智彦)         12
愛犬ゆうちゃんとの思い出(愛媛県 伊藤 茂美)         13
視覚障がい者になってからの私(大分県 家村 春美)       13

QOL向上推進委員会(QOLC)通信              14
第7回 視覚障害者の減災・防災教室 その4 「防災グッズ等」①    14

[新コーナー]若い世代はいま                 15

都道府県JRPS活動予定 16
北海道…16 / 岩手県…16 / 宮城県…16 / 山形県…17 / 福島県…17
群馬県…17 / 栃木県…18 / 千葉県…18 / 東京都…18 / 新潟県…19
長野県…19 / 福井県…19 / 岐阜県…19 / 愛知県…20 / 三重県…20
滋賀県…20 / 京都府…21 / 奈良県…21 / 大阪府…21 / 和歌山県…21
兵庫県…22 / 岡山県…22 / 広島県…22 / 香川県…23 / 徳島県…23
愛媛県…23 / 高知県…24 / 福岡県…24 / 長崎県…24 / 大分県…24
熊本県…25 / 宮崎県…25 / 鹿児島県…25

専門部会の活動予定        26
JRPSユース        …   26

編集局より               27

広告ページ              27

編集後記                  32

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講演③ 長谷川 智子先生(京都大学眼科)

長谷川 智子先生(京都大学眼科)

受賞テーマ:「網膜色素変性症の新規進行抑制治療薬としての分岐鎖アミノ酸の細胞保護メカニズムの解明」[ライオンズ賞](動画は、会員ページにあります)

この度は、「網膜色素変性症の新規進行抑制治療薬としての分岐鎖アミノ酸の細胞保護メカニズムの解明」というテーマで研究助成をいただき、誠にありがとうございます。大変光栄に思っております。
網膜色素変性症は、網膜の神経細胞である視細胞が変性して、視野狭窄などの症状が進行する疾患です。私たちは、現在までに、細胞内のエネルギーの不足が神経細胞の細胞死を引き起こすとの仮説に着目して、細胞内のエネルギー不足を防ぐことで細胞死を抑制できる可能性があるのではないかと考えて、研究を行ってきました。
分岐鎖アミノ酸は、食べ物から摂取することが必要な必須アミノ酸ですが、私たちは、細胞内のエネルギー源としての分岐鎖アミノ酸に着目して研究を行っています。分岐鎖アミノ酸は、ストレスを加えた培養細胞では、細胞内のエネルギー減少を抑制し、細胞死を抑制しました。また、網膜色素変性症のモデルマウスに対して、分岐鎖アミノ酸を投与したところ、分岐鎖アミノ酸は網膜の視細胞の変性を抑制し、網膜の機能の低下を抑制することが明らかになりました。私たちは現在、分岐鎖アミノ酸の網膜色素変性症患者さんでの効果と安全性を検討するため、70名の患者さんにご協力をいただき、医師主導治験を行っております。
医師主導治験により、網膜色素変性症患者さんでの分岐鎖アミノ酸の効果を検討し、また、並行して分岐鎖アミノ酸による細胞死抑制メカニズムの解明を進めていくことで、分岐鎖アミノ酸を用いた網膜色素変性症の疾患進行抑制薬の開発を進めていきます。現在行っております治験にも、多くの患者さんにご協力いただいており、患者さん方のご協力に感謝しております。一日も早く、多くの患者さんが使用することのできる、有効な疾患進行抑制薬の開発につなげられるように、頑張って研究を進めていきたいと思います。

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講演⓶ 朝岡 亮先生(東京大学医学部附属病院眼科学教室)

朝岡 亮先生(東京大学医学部附属病院眼科学教室)

受賞テーマ:「網膜色素変性症のベイズ推定による視野進行予測およびそれを利用した高速視野計測、眼底自家蛍光による視野予測モデルの構築・検証」(動画は、会員ページにあります)

今回「網膜色素変性症のベイズ推定による視野進行予測およびそれを利用した高速視野計測、眼底自家蛍光による視野予測モデルの構築・検証」という研究テーマで研究助成をいただくことになり、誠にありがとうございました。大変光栄に思っております。
網膜色素変性症では、慢性進行性の視野狭窄が起こりますが、緑内障でも同様です。緑内障においては視野の進行の速さを評価し、その速さに応じて治療が行われています。しかし視野検査の回数が少ないと正確な進行評価ができません。私は、ベイズ統計という方法を使って、これまでの方法よりも遥かに正確に視野進行を評価する方法を構築しました。この方法では網膜色素変性症でも同様に、少ない視野でも正しい進行評価を行うことが可能と考えられますので、そのことの検証を行っていきたいと考えています。
また、このベイズ統計と使った視野予測を用いることで、これまでよりも視野計測自体も短縮できるのではないかと考えています。実際に緑内障患者さんでの検証では、正確かつ高速な視野検査が可能でした。網膜色素変性症での有効性も、同様に検証してみたいと思っています。
また、網膜色素変性症では、「自家蛍光」という、特徴的な眼底所見を示します。私たちは、この自家蛍光と視野障害との間に密接な関連があることを明らかとしました。このことを利用して、眼底自家蛍光から、視野感度を推測する研究も行いたいと考えています。
精一杯取り組んで参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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