講演① 林 孝彰 先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター)

林 孝彰 先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター)

受賞テーマ:『全身疾患に合併する遺伝性網膜ジストロフィの病態解明を目指した分子遺伝学的研究』(動画は、会員ページにあります)

今回、「全身疾患に合併する遺伝性網膜ジストロフィの病態解明を目指した分子遺伝学的研究」という課題に対して、第23回JRPS研究助成金を受賞することができ大変光栄に存じます。私は長年網膜ジストロフィの専門外来・遺伝子研究に携わっております。目の前の患者さんの原因遺伝子を特定し、将来の治療法に結びつけたいという信念が私の診療・研究の信条でありミッションとなっています。最近のホットな話題として、iPS細胞からの再生医療に関して他家移植が成功し、いよいよ網膜色素変性の患者さんへの治療が期待される段階になりました。また、欧米で行われている遺伝子治療も日本でも行われる可能性があります。決定的な治療法がなかった遺伝性網膜ジストロフィに対する治療法の進歩・発展は目を見張るものがあります。
しかし、遺伝子治療の前段階として、原因遺伝子が特定されていることが条件となっています。網膜ジストロフィの中には、網膜異常に加え、眼外症状・全身的合併症を引き起こす病態が知られております。私たちはこれまでに先天黒内障に低身長、代謝異常症を合併した繊毛病(細胞の触覚と言われる繊毛を構成する遺伝子の異常によって発症する病気)の1つAlstrom症候群の新規ALMS1遺伝子変異(Katagiri et al, MolVis, 2013)を特定し早期の代謝異常に対する治療に結びつける役割を果たしました。また、先天黒内障とネフロン癆(小児期に腎不全になる疾患)を合併したSenior-Loken症候群に対して、病態解明につながる新たな原因として世界で初めてSCLT1遺伝子変異を特定しました (Katagiri et al Sci Rep,2018)。今回の研究では、小児科医、皮膚科医、電子顕微鏡専門研究者、分子生物学基礎研究者と連携し、希少疾患である繊毛病やライソゾーム病の病態解明に向け、これらの全身疾患に伴う遺伝性網膜ジストロフィの患者さんからDNAを抽出、次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析を行い、原因遺伝子を突き止める研究を行います。この中で遺伝子変異と疾患表現型の関連性を明らかにし、酵素補充療法や遺伝子治療など将来の治療法へ向けた基盤研究に進展させたいと考えています。この度は、JRPS研究助成金を受賞でき、会員の皆さまに感謝申し上げます。

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Wings ひとくちコラム (第11回)

「医学研究・臨床試験における患者・市民参画(PPI)が始動」

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ではいよいよ本年度から医学研究・臨床試験における患者・市民参画(PPI)の取り組みを開始しました。具体的には、2019年度新規研究費公募から、研究開発提案書及び成果報告書に、PPIの取り組みを記載する欄が設置されます。つまり研究者は患者・市民の知見・意見を参考にして研究を進めるように奨励されます。これまでにない取り組みなので研究者や患者・市民双方に参考となるガイドブックが作成されました。
https://www.amed.go.jp/ppi/guidebook.html

PPIを進めることにより実現されることとして次のことが想定されています。
・患者等にとってより役に立つ研究成果を創出する
・医学研究・臨床試験の円滑な実施を実現する
・被験者保護に資する(リスクを低減する)
患者と研究者の協働のため、われわれもいっそうの自覚と努力が求められています。(20191001)

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Wings ひとくちコラム (第10回)

「京都大学で新しいRP神経保護治療薬の治験開始」

報道等でご存知の方も多いと思いますが、京都大学眼科の池田華子先生らのチームが、RP患者を対象とした医師主導治験を本年3月に開始しました。池田先生らがかねてから準備してきた分岐鎖アミノ酸製剤による網膜神経保護治療で、動物実験の結果からRPの進行を遅らせる効果が期待されています。治験では1年半にわたって試験薬が患者に投与され、視力や視野の経過観察が行われます。大きな期待を寄せつつも、静かに試験の結果を待ちましょう。(20190326)

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◇学術研究助成受賞者は今(第12回)

第12回 西口 康二(2015年・第19回受賞)
東北大学医学部眼科 准教授

遺伝子治療は、遺伝性疾患の病気の原因である遺伝子の異常そのものを治すことを目的とした、根治的なアプローチです。JRPSの研究助成に応募したのは、ロンドンで網膜変性に対する先端的な遺伝子治療を勉強して、2014年に日本に戻ってきて少し経ったころでした。私は、もともと名古屋大学眼科に所属していたのですが、同大学では遺伝子治療に使うウィルスを使う実験環境を確保するのが難しい、という問題がありました。そこで、東北大学眼科の中澤徹教授と名古屋大学眼科の寺﨑教授にお願いして、帰国後はウィルスを使う研究環境が整っている東北大学に思い切って入局させていただきました。その新しい研究環境のなかで、初めて行う記念すべき網膜変性遺伝子治療研究テーマを「遺伝子治療による錐体系視覚再建と可塑性の解析」と定めて、JRPS研究助成に応募させていただきました。受賞が決まった時は資金的な研究基盤が特に弱く、助成いただけることになって、とってもありがたく感じたのをよく覚えています。同時に、自分の遺伝子治療にかける意気込みを審査員の先生方に評価していただいたのが大きな励みになりました。今振り返ると、最も難しいとされる研究の立ち上げが比較的スムーズに進んだ最も重要な要因の一つにこの助成があったのだと思います。
現在、研究助成を受賞して約4年が経ちました。今春、無事に助成研究の成果を論文として発表をすることができ、今は少しほっとしているところです。しかも、助成研究の実験結果は、当初の予測とは大きく異なり、予想外に「良好」でした。具体的には、「生まれつき視覚障害のある人に、大人になって遺伝子治療で眼だけを治療して本当に見えるようになるか」という「学術的な問い」に対して、マウスを用いた実験で出た答えは、「見える可能性が十分にある」という結果でした。生まれつき白内障で見えない赤ちゃんは、生後半年以内くらいに手術で白内障を治してあげないと、大きな視覚障害が残ることが知られています。実験結果は、それまでの常識とは大きく異なるものであったため、とても驚きました。しかし、うれしいことに、網膜色素変性の遺伝子治療開発にはとっては、予想外にポジティブな結果でした。本当にいろんな意味で心に残る助成研究になりました。
さて、この助成研究を行っているうちに世の中では「ゲノム編集」という新しい技術が大きく発展し、今では次世代の遺伝子治療を担う技術として世界中の注目を集めています。というのも、従来の遺伝子治療は比較的小さい遺伝子に病因変異がありかつ劣性遺伝形式の場合にのみ有効であり、しかも大きな遺伝子や優性遺伝の治療には不向きであるという欠点がありました。特に、日本人の網膜色素変性の病因遺伝子の頻度の高いものは、ほとんど治療対象になりにくい大きなものばかりで、遺伝子治療開発は大きな問題に直面していました。それに対して、ゲノム編集を用いると、遺伝型式や遺伝子の大きさによらず、治療できる可能性があります。そのため、ゲノム編集は日本人網膜色素変性にとっては極めて重要な技術と言えます。そこで、ここ何年かは、私もゲノム編集遺伝子治療の開発にも力を入れていました。最初はいろいろ苦労しましたが、最近では、かなりいい治療結果が出始めています。今後は、この開発研究をさらに発展させ、JRPS会員の皆様に還元できるように頑張りたいと思っています。(20190129)

研究助成者は今 目次

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第19回研究推進委員会(Wings)通信(20190730)

これまでインタビューした諸先生に、ご研究の進捗状況等をフォローアップ記事として随時ご寄稿いただいています。今回は池田華子先生に2016年9月発行の『あぁるぴぃ124号』に掲載されたインタビュー記事をフォローアップしていただきました。

■Wings研究者インタビューフォローアップ寄稿(3)
「分岐鎖アミノ酸製剤の治験開始とKUS剤治験の見通」
池田 華子(京都大学医学部附属病院臨床研究総合センター 准教授)

動物モデルで病気の進行を抑えることを確認し、治験にむけた準備を進めてきた分岐鎖アミノ酸製剤ですが、AMED(日本医療研究開発機構)の研究費をいただくことができ、2019年3月から治験を開始いたしました。今回の医師主導治験は、分岐鎖アミノ酸製剤を患者さんに内服いただき、その有効性と安全性を検討する、第Ⅱ相の試験となります。
70名の患者さんに、分岐鎖アミノ酸製剤またはプラセボ(偽薬:分岐鎖アミノ酸を含まない、見かけが同じ薬)を1年半、内服いただき、その間の視野の進行具合が治療群とプラセボ群で差があるかどうかを検討します。患者さんにも、私たち医師や医療関係者にも、どちらの薬を内服いただいているか分からない状況(二重盲検といいます)で、おおよそ3ヵ月に一度、視野検査および血液検査を行い経過観察します。この治験の結果、分岐鎖アミノ酸製剤内服群で、プラセボ群よりも視野の進み具合がゆっくりであることが明らかになれば、より多くの患者さんを対象にした第Ⅲ相試験を実施することになります。なお、今回の京大における治験は、すでに当院にてこれまでの視野の経過観察(治療前の自然経過)を行ってきた患者さんを対象に行いますので、新たな患者さんの募集は行っておりません。
一方、京都大学で開発を行ってきましたKUS剤(動物モデルで網膜色素変性症の進行抑制効果を確認)は、網膜中心動脈閉塞症の急性期の患者さん対象の第Ⅰ・Ⅱ相試験が終了しました。今回は、眼の中(硝子体)に直接注射にてKUS121を投与し、安全性に問題なく、神経保護効果も確認することができました。現在、網膜色素変性症など、慢性の疾患の患者さんに使用いただけるよう、点眼化の検討を進めております。点眼化の目途が立ちましたら、まずは正常な方を対象に第Ⅰ相試験を行い、安全性の検討を行った後、網膜色素変性症の患者さんを対象に第Ⅱ相試験を予定します。
実施中の治験には、遠方からも多数の患者さんにご参加いただいております。患者さま方のご協力に日々感謝するとともに、一日でも早く、治療薬を患者さんにお届けできるよう、引き続き頑張ってまいります。

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あぁるぴぃ142号 目次

JRPSだより   3

2020年版JRPSカレンダー 販売のお知らせ  3

10月の相談予約のご案内    3
「ピアサポート」電話相談のご案内  3

第23回研究助成受賞者からのメッセージ   4
林 孝彰先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科)   4
朝岡 亮先生(東京大学医学部附属病院眼科学教室)  5
長谷川 智子先生(京都大学眼科)   5

第14回JRPS網脈絡膜変性フォーラム開催報告    6

Wings ひとくちコラム      7
第11回 医学研究・臨床試験における患者・市民参画
(PPI)が始動                   7

都道府県JRPS新会長・部会長ご挨拶         7
吉村 敏男(福井県網膜色素変性症協会)        7
矢野 健(山陰網膜色素変性症協会)          8
西川 隆之(JRPSユース)               9

あぁるぴぃ広場 ~会員からの投稿~          9
障害と仕事(岩手県奥州市 千田 輝子)        9
心の眼で歩む空手道(群馬県 小暮 愛子)       10
カナダへの旅 2019年7月(三重県 木村 靖子)     10
前へ、進め!(滋賀県 奥村 清和)           11
映画で見たあの和菓子との再会(奈良県 野島 一郎)   11
好きな色はなに色ですか?(島根県 奥 美和子)     12
私の心強い相棒(熊本県 宮本 信子)          12

QOL向上推進委員会(QOLC)通信          13
第6回 なぜ今キャッシュレスが話題に!?
知ると得するキャッシュレス決済とは         13

都道府県JRPS活動予定  16~26
北海道……16 / 岩手県……16 / 秋田県……16 / 福島県……16
群馬県……17 / 栃木県……17 / 埼玉県……17 / 千葉県……18
東京都……18 / 神奈川県…18 / 新潟県……19 / 長野県……19
福井県……19 / 岐阜県……19 / 愛知県……20 / 三重県……20
滋賀県……20 / 京都府……21 / 奈良県……21 / 大阪府……21
和歌山県…22 / 兵庫県……22 / 岡山県……22 / 広島県……23
山陰………23 / 香川県……23 / 徳島県……24 / 愛媛県……24
高知県……24 / 福岡県……25 / 長崎県……25 / 大分県……25
熊本県……25 / 宮崎県……26 / 鹿児島県…26

専門部会の活動予定    26
JRPSユース       26

編集局より        27

広告ページ        27

編集後記         32

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第18回研究推進委員会(Wings)通信(20190129)

これまでインタビューした諸先生に、ご研究の進捗状況等をフォローアップ記事として随時ご寄稿いただいています。今回は高橋政代先生に2016年3月発行の『あぁるぴぃ121号』に掲載されたインタビュー記事をフォローアップしていただきました。

■Wings研究者インタビューフォローアップ寄稿(2)
「加齢黄斑変性の再生医療臨床研究からRPの再生医療臨床研究へ」
高橋 政代
(理化学研究所多細胞システム形成研究センター
網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー)

2015年11月に受けたインタビュー記事では、加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞(iPS-RPE)移植の臨床研究を予定していること、網膜色素変性に対する視細胞シート移植は3、4年後にすると書いてあります。どちらも予定通り進んでいることをうれしく思いました。
他家iPS-RPE移植は5例に行われ、1年の経過後の結果を論文にまとめているところです。その前の自家移植とともに、iPS細胞から作った我々の網膜色素上皮細胞が安全であることは確認されました。現在、細胞を効率よく病変部に生着させて効果を得るために、手術法の改良などより良い治療への研究が進んでいます。
視細胞シート移植についてはこれまでに様々な動物モデルを作成し、視細胞移植後の視機能回復を詳細に検討しました。今ではどこよりも詳しく徹底的に研究しデータを積み重ねてきているので、視細胞シート移植が効果を出すことは確信しております。これらの結果を受けて視細胞移植は来年度に臨床研究の申請をする予定であります。
ただし、移植するのは1mmあまりの小さな細胞シートなので、その効果も限定的であること、視野がわずかに回復する治療というイメージで考えていただくと良いかと思います。

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世界網膜の日 in 富山2019 初日報告

世界網膜の日 in 富山2019 初日報告

 

日時:2019年9月22日(日) 11::30(受付開始)~17:00

会場: 富山県総合福祉会館(サンシップとやま)

 

プログラム

・開会宣言

アトラクション(越中おわら節等「風の会」)

 

・第23回JRPS研究助成授与式

◎審査委員長、山本修一先生による講評 & 授与式

 

・受賞者講演

林 孝彰 先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター)

全身疾患に合併する遺伝性網膜ジストロフィの病態解明を目指した

分子遺伝学的研究

 

朝岡 亮 先生(代読:藤野友里 先生)(東京大学医学部附属病院眼科)

網膜色素変性症のベイズ推定による視野進行予測およびそれを利用した

高速視野計測、眼底自家蛍光による視野予測モデルの構築・検証

 

長谷川 智子 先生(京都大学眼科学教室)・・・・・・・・・・ライオンズ賞

網膜色素変性症の新規進行抑制治療薬としての分岐鎖アミノ酸の

細胞保護メカニズムの解明

 

 

・記念講演会:

講師:神戸アイセンター病院 網膜変性研究室長 非常勤医師

理化学研究所 上級研究員 前田亜希子先生

世界で進む遺伝子特異的RP治療~その準備のために今できること~

前田先生と参加者との質疑応答

次年度開催地へ引き継ぎ式

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Wings ひとくちコラム(第9回)

九州大学の視細胞保護遺伝子治療の治験開始間近

九州大学病院眼科の池田康博先生がかねてから準備されてきた色素上皮由来因子(PEDF)遺伝子治療の治験が平成30年度内に開始される見通しとなりました。近く参加者の募集が始まります。本遺伝子治療では、病気の進行を遅くするという治療効果が期待されるため、視力がある程度残っている初期から中期の患者が治験の対象となります。これまでの臨床研究の成果の上に、治療薬として国の承認を目指す治験の第一段階です。試験の正式名は「DVC1-0401網膜下投与による網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療の第I/IIa相医師主導治験」です。詳しくは下記URLを参照してください。

https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000038854

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第23回日本網膜色素変性症協会(JRPS)研究助成者決定のお知らせ

第23回JRPS研究助成は、JRPS学術審査委員の厳正な審査により、次の3件に決定いたしました。

林 孝彰 先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター)
『全身疾患に合併する遺伝性網膜ジストロフィの病態解明を目指した分子遺伝学的研究』

朝岡 亮 先生(東京大学医学部附属病院眼科)
『網膜色素変性症のベイズ推定による視野進行予測およびそれを利用した高速視野計測、眼底自家蛍光による視野予測モデルの構築・検証』

長谷川 智子 先生(京都大学眼科学教室)・・・・・・・・・・ライオンズ賞
『網膜色素変性症の新規進行抑制治療薬としての分岐鎖アミノ酸の細胞保護メカニズムの解明』

※ 表彰式と記念講演は、9月22日(日)の「世界網膜の日 in 富山」で行います。
※ 詳細は秋ごろ発行予定の『ニュースレター』No.33に掲載します。

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